コロナ禍からの経済回復が鈍く、厳しい経営環境が続いていますが、今年末も賞与を支給したいと考えています。中小企業の相場を教えてください。(運輸業)
冬季賞与は、おおむね年度上期の企業業績に連動して決まります。財務省「法人企業統計調査」によると、全産業(資本金1,000万円以上、金融機関を除く)の経常利益は、2021年4~6月期に前期比1.8%のプラスと、4四半期連続の増益となりました。
もっとも、コロナ禍からの回復度合いは、業種や企業によって大きなバラツキが見られます。製造業が輸出の回復を背景として、同7.4%のプラスと高めの伸びとなった一方、非製造業は同▲1.9%と4四半期ぶりの減益となりました。とりわけ、宿泊・飲食など個人向けサービス業は、人々の外出自粛傾向が続くなかで赤字が続いています。
7~9月期の収益環境はやや悪化しています。非製造業では、多くの都道府県で実施された行動制限が、売上高を押し下げました。製造業では、為替レートが年初の1ドル=103円台から秋には113円台となる中、円安で収益を押し上げる輸出企業が散見されますが、半導体などの部品不足が生産回復の重しとなっています。
さらに資源価格の上昇が幅広い産業の収益を圧迫しつつあります。原油や穀物、木材、鉱業品など、さまざまな商品の価格がコロナ禍直前の水準を上回り、輸入原材料および輸送コストの負担が膨らんでいます。また、大手企業では、新型コロナの感染拡大前に昨年度の支給額が妥結済みであったため、今年度に入って新型コロナの影響が本格的に反映され、冬季賞与が大幅減となるケースが見られます。
以上を踏まえると、今年末の1人当たり支給額は、民間企業の平均で前年比▲0.4%と、冬季賞与としては3年連続の前年割れとなる見通しです。支給対象者数の増加により、支給総額は前年比プラスとなるものの、コロナ禍前の19年と比べると5%以上低い水準にとどまる見込みです。
二極化がより顕著に
中小企業では、支給時期直前の収益状況が反映されやすく、業績悪化時には、支給自体を見送る企業も増える傾向があります。
実際、コロナ禍における事業所規模5~29人の賞与の推移をみると、20年夏季には、もともと支給水準が低い企業の支給見送りが増えたため、支給企業の1人当たり平均額は前年比5.1%のプラスとむしろ高まりました。
20年末には、コロナ禍の影響本格化により、さらに支給見送りが増え、前年に支給があった人の20人に1人が支給無しとなったうえ、平均額も同▲1.6%と減少しました。21年夏季には、支給対象者が微減にとどまり、支給水準の低い企業の退出による押し上げ効果が剥落するなかで、平均額は同▲3.4%と大幅マイナスとなりました。
こうした経緯をたどった結果、今年末の賞与支給は、コロナ禍に伴う支給見送りによる平均額減少の影響が一巡しています。業績回復の動きを背景に、小幅な増加支給となる中小企業も出てくる見込みです。
もっとも、全体としてみれば、今年末の中小企業の1人当たり賞与は昨年並みとなり、下げ止まる程度にとどまるでしょう。支給見送りを余儀なくされている企業が支給再開を果たす例は限られ、中小企業では、賞与支給における二極化状態が続くとみられます。