農業が熱い。コロナ禍という窮状に「持続可能な社会づくり」がオーバーラップし、自然回帰の気運が高まっているのだ。さらに、農業は掛け値なしに「儲かる」ことも明らかになってきた。多方面からの農業へのニーズはとどまるところを知らない。

プロフィール
かまた・よしあき●1970年生まれ、ニューヨーク州立大学で経営学を学び、エンターテインメント業界、ビール業界を経て40歳の時に農業生産法人を立ち上げる。攻めの姿勢で事業を展開し、創業5年で年商10億円を達成。現在はブレインワークスで事業プロデューサーとして活動するとともに、アグリコンサルタントとして多くの企業や農家をサポートしている
農業にニーズあり!

2010年に京都で農業生産法人を立ち上げ、創業5年で年商10億へと引き上げた鎌田佳秋氏。まったくの素人、土地もノウハウもゼロの状態から起業したという同氏は、「農業はもうかる産業」と断言する。

──2010年に京都・福知山に農業生産法人を設立されましたが、経緯は?

鎌田 当時、私はキリンビールでマーケティングを担当していたのですが、その少し前にキリンの子会社となったメルシャンの事業にも携わるなかで世界中のワイナリーを訪問するようになりました。あるとき米ポートランドで行われた「ブルゴーニュ」の祭典に参加し、そのマーケティング手法に気持ちを持っていかれました。

──どのような手法だったのでしょうか。

鎌田 ワインの新興産地である米国で、歴史のあるブルゴーニュのテロワール(気候や土壌、地形、風土など)をストーリーとして取り入れたマーケティングを展開していたのです。その手法を見た時に、ワイナリーを持とう、ブドウをつくろうと思いました。

2年目には3ヘクタールに

──とはいえ、農業をするには土地が必要です。

鎌田 ブドウの産地だった福知山市の三和町で土地を探しました。とはいえ、まったくの素人ですから農業に関する知識はゼロです。土地を貸してくれる農家などありません。なので、最初は農家から野菜を仕入れて販売するという八百屋さんのような商売から始めました。1年間それを続けるとぼちぼち信用がついてきて、小さい土地を貸してもらうことができたのです。

──どんな土地でしたか。

鎌田 耕作放棄地の日当たりの悪い中山間地の土地でした。でも結果的にそれが良かったですね。誰もやりたがらない土地で自ら土を掘り起こし、日が当たらないからホウレンソウなど半日陰を好む作物を植え、獣害対策を施しました。恵まれた土地ではなかったからこそ、後に生きてくる良い経験をすることができたと思います。

──作物の種類は?

鎌田 ブドウはすぐに諦めました(笑)。産地といってもワイン用ではなく生食用だったのです。で、葉物野菜からスタートしましたが、収穫の実績をあげると次々と土地を借りることができるようになり、2年目には早くも3ヘクタールにまで広がりました。
 農家は土地を遊ばせるわけにはいきませんから、栽培が重荷になってきている兼業農家などがわれわれに栽培を委託するのです。また、丹後地方では国営農地がたくさんあって国から「借りてくれないか」という話があり、一気に5ヘクタール増えたこともありました。その時はサツマイモの「産地化」の話が来ていて、渡りに船でした。ありがたかったですね。

──「産地化」がキーワードなのでしょうか。

鎌田 はい。産地化はわれわれの事業の目的意識でもありました。サツマイモは東日本大震災の影響で北関東の産地の生産量が減ったことで、京都で産地化できないかとわれわれが動いたという経緯がありました。あるいは、京野菜の「万願寺とうがらし」も、創業間もなく手掛けて大量に生産することで産地化の実現のお手伝いができたと思っています。

──ともあれ、土地はわれわれが思うよりも簡単に取得できるということですか。

鎌田 もちろん場所にもよりますが、少なくとも中山間地はそうです。われわれのところにも毎年10ヘクタールくらい「借りてくれないか」という話が来ていました。取捨選択が大変だった記憶があります。

──あとは、その土地をどうビジネスに生かしていくかですね。

鎌田 農協など既存ルートを使って大規模に売りさばくか、有機農業など作物に付加価値をつけて個別に売っていくかの2通りあります。われわれは、ひたすら規模を追求してマス型・大量生産のスタイルで行きました。安定的に供給できるボリュームを持つために、周りの農家も巻き込みました。たとえば、万願寺とうがらしは5月に作付けして11月に出荷されるので、その後が空いてしまいます。われわれが声をかけて何々をこれくらいつくってくださいともちかければ、農家は喜ぶし、農協も喜ぶ。そうこうするうちに農協とも仲良くなりました。

「慣行栽培」から入る意味

──イメージだけで言うと、新たに農業に参入する人は、有機や無農薬といった手法をとりがちのような気がしますが。

鎌田 私はそもそも農業そのものには興味がありませんでした。学校の勉強でも植物関係は苦手。なので、最初はまわりに教えられてその通りにするしかなかった。それこそ地域や農協の栽培指針に従ってね。私も最終的には有機栽培や自然栽培を手掛けることになるのですが、そこから入らなくてよかったと思っています。従来型の「慣行栽培」を知らずにそこに行くのは危険です。

──なぜでしょうか。

鎌田 いろいろありますが、地域に入り込んで農業を行う場合、一人だけ違ったことをすると迷惑がかかったりします。われわれが有機に参入した際も、単一農地でやりました。
 それと、慣行農業で地域ごとの栽培指針に則って栽培をしていると、次第にその栽培指針が、必ずしも必要ではないことが分かってきます。たとえば、事前対策や管理をきっちりすることで、施肥や農薬を減らすことができる。つまり、慣行農業を経験することで、農業の細かく深いところまで理解することができるわけです。

──流通面はどうでしょう。

鎌田 農産物の流通の主流は市場です。慣行農業で大量につくって市場に卸すというのが一般的なやり方でしょう。有機栽培や無農薬栽培でたくさん売るためには生協さんやオイシックスさんなどといった川下と懇意になるしかありません。いずれにせよ、最初は農協の流通網を利用するのが無難です。とはいえ、われわれは自前で物流網をつくりました。農家が農業だけしていればいい時代ではないのも確かです。

──6次産業化については?

鎌田 国が勧めている農業の6次産業化は求めるものが多すぎて、普通の農家にはハードルが高すぎます。加工品をつくるにもさまざまなハードルがあるし、マーケティングにしたって、いままではプロダクトアウトだった農家のやり方を、いきなりマーケットインに変えろといっても無理があるでしょう。ネットを使った個別の直販については、経費をうまく処理できるかどうかがカギになります。たとえば、夏場は商品よりも高いクール便で送らなければならないかもしれません。そこらあたりのリスクをうまくヘッジできないと、失敗に終わる可能性が高い。

──ご著書には農業を起業する際に重要なのが目的意識とビジネス戦略とあります。

鎌田 起業する際にはいろんなことを考えに考えました。数年先までの緻密な事業計画を立てて、必要なものや動きを具体的に描きました。それから前述した通り「産地化」という目的意識を常に持っていました。サツマイモや万願寺とうがらし、あるいは加工用トマトもそうです。そのなかで、いろんな農家と組み、生産地団体を立ち上げたこともあります。自前のロジスティクスを整備したのもその目的に沿ったものです。連携している農家に「どんどん持ってきてくれ」と……。

──ひとりでやるよりも周りを巻き込んで地域と一体となって取り組む意識が必要ということですね。

鎌田 私は新参者であり、農家のなかでは低レベルだと自覚していました。そのかわりマーケティングや販売戦略は得意です。そこを生かしていくという意識ですね。

生産工程管理がポイント

──農業で利益を出す技術的なポイントを教えてください。

鎌田 生産工程管理です。農業をメーカーとしてとらえる視点が重要です。われわれはリードタイムを意識したオペレーションを取り入れました。受注してから納品するまでの土づくり、種や施肥、調達後の仕分け、検品、調整などに費やす時間をできるだけ短くし、コストロスを防ぎました。必ず納期を守り、欠品は絶対にしない。われわれが、スーパーへ直販する場合、たとえば、「鍋の日」には水菜をどれくらい、「肉の日」には付け合わせとなる野菜をどれくらいなどと、事前に打ち合わせて生産管理を行い、絶対に納期を守ることを心がけました。そうすることで信頼関係が生まれ、川下にとってありがたい存在になることができるのです。
 農協など従来型の市場に卸す場合でも、生産工程管理は大事です。土を落として根を切って箱に入れてなどの調整作業は奥さんか近所のおばちゃんにお願いしたりするわけですが、これも、工程を洗い出してマニュアル化、ライン化するだけでかなり生産性が上がります。場合によっては外注も考えるべきでしょう。

──栽培に注力するあまり、調整作業はおろそかにしてはいけないと……。

鎌田 むしろ調整作業の効率化に目を向けてください。生産性が上がり、利益が出るようになります。生産管理については、『起業するなら「農業」をすすめる30の理由』(カナリアコミュニケーションズ)に詳しく書きましたので、よかったら読んでみてください。
 それから農業はなんといっても天候など不確定要因に左右される部分があります。なので、できるだけ多品目をつくるようにすべきです。われわれも、加工用トマト、サツマイモ、万願寺とうがらし、ナスなどの果菜類や各種葉物類と、さまざまなものをつくりました。

──農業を志している中小企業経営者に一言。

鎌田 創業前に「こと京都」の山田敏之社長に相談にうかがったとき、「農業はもうかりますか」と聞いたら「めちゃくちゃもうかる」と……。もちろん小規模兼業農家はそんなに利益が上がりませんが、農業法人は概ね稼いでいると思いますよ。種が1粒1円としてそれが100円で売れればすごいレバレッジです。私の知っている農業法人の経営者は、フェラーリを買ったりドバイに行ったりと、もうかってないところはないくらいです。農業は3Kだという認識も間違っています。玄関を開けて車に乗り、農地についたらトラクターのなかは冷房が効いている。スーツで作業をすることだって可能です。
 中小企業経営者が新規参入するのなら農業はお勧めだと思います。

(本誌・高根文隆)

掲載:『戦略経営者』2021年10月号