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左から大村あさみ監査担当、八木隆行顧問税理士、
穂積道和社長、西田吉孝京都信用金庫東大阪支店課長

町工場が軒を連ねる東大阪市に本社を置き、特殊ネジの製造を得意とするホヅミ。リーマン・ショック時に経営危機を迎えるが、顧問税理士の支援により計画に基づく経営を続け、黒字体質に変貌をとげた。穂積道和社長と八木隆行顧問税理士、大村あさみ監査担当と京都信用金庫東大阪支店の西田吉孝課長を交え、「会計の信用力」がもたらした効果などを聞いた。

60年間培ってきた技術力で多様な特殊ネジを生産

──足元の業況を教えてください。

穂積 ネジは”産業の塩”と言われるように、経済活動の根幹を支える部品です。ですから製品が突然売れなくなることは、まずありません。取引先さまの業種は多岐にわたるため、ある業種の景気が悪くなっても、別の業種が落ち込みをカバーするといった具合に、バランスをうまく保ってきました。
 ただ、直近の2021年4月期の売上高は、前年度の実績を若干下回りました。鉄鋼部材の仕入れ値の上昇が最大の要因です。新型コロナの影響により需要が冷え込むなか、鉄鋼メーカーが減産しており、材料市況が非常に高騰しています。

──ホヅミさんのネジが用いられているおもな最終製品は?

ゼロから設計した医療用注射器

ゼロから設計した医療用注射器

穂積 取引が多いのはクレーン等の建機や農機具関連。そのほか、ガス器具、事務機器などにも使用されています。お預かりした図面をもとに作っているので、どのような完成品に使われるのか分からない場合も多々あります。
 ニッチなところでは、医療用注射器やマンホールのふたのオープナーなどを製造したこともあります。いずれも取引先さまから依頼を受け、設計図を製作して仕上げました。手がけているのは量産品でない、特殊なネジばかり。ホヅミに相談すれば何とかしてくれると頼りにしてもらっています。

──困っている企業の駆け込み寺のような存在ですね。日ごろ営業活動はおこなっていますか。

穂積 何か仕事をくださいと訪ねまわることはほとんどなく、取引先さまから紹介をいただくケースが大半です。時代の流れにあわせてウェブサイトを開設して以降、大学をはじめとする研究機関から依頼される案件も増えています。ゼロから挑戦できる業務は大きなやりがいを得られるし、ノウハウもたまる。挑戦の機会をいただけるのは、大変ありがたいと感じています。

──従業員の働き方で工夫されている点は?

穂積 従来は、夜の8時ごろまで残業するのが当たり前でした。昨今は働き方改革もあり、週休2日制を導入して終業時刻を夕方の5時半とし、できるだけ午前中に集中して業務に取り組むよう心がけています。今のところ特に残業時間も増加せず、業務が回っている状態です。
 製造業ではテレワークの導入がむずかしいといわれますが、最近はできないこともないのではという感触を得ています。

──昨年には創業60年を迎えられました。

穂積 先代社長である父親が、戦後まもなく立ち上げた個人商店が当社のルーツです。ネジは1本製造して数銭の世界。数百万本、数千万本の積み重ねにより、ようやく売り上げがたちます。リーマン・ショックまでは順風満帆だったため、経理業務も税理士任せで、業績に対してあまり関心がありませんでした。そうした意識を改めてくれたのが顧問税理士の八木先生です。

「月次損益管理」の徹底で金融機関の提案を呼び込む

──八木会計事務所と顧問契約を結んだ経緯を教えてください。

穂積 顧問契約を締結したのは09年で、取引先さまから紹介されたのがきっかけです。

八木顧問税理士 ホヅミさまのメインの仕入れ元が、われわれの事務所の関与先という縁から穂積社長と知り合いました。ホヅミさまの業績数値を客観的に分析して、立て直せるか判断してほしいとの依頼を受けたんです。

──すると当時の状況は厳しかった?

穂積 借入金がかさんでおり、リーマン・ショックのあおりを受けて業績は芳しくありませんでした。妻が日々の取引を振替伝票に記入していたものの、もうかっているかどうかまったく把握できなかった。いわゆるどんぶり勘定ですね。

──どんな手を打ちましたか。

穂積 当時施行されていた中小企業金融円滑化法の適用を受けるべく、八木先生に支援をあおぎながら経営計画を立てました。おもにメスを入れたのは経費関連。毎月1,600万円ほど売り上げれば、月次で利益を確保できるとのシミュレーション結果が得られました。
 円滑化法終了後は「経営改善計画策定支援事業」を活用し、金融機関に返済条件の変更を申し込みました。この間、八木先生とともに金融機関に毎月足を運んで試算表を提出し、業績を報告してきました。返済猶予期間の10年間は、計画を着実に実行するべく、月次での損益管理を徹底。パソコン1台購入するのもためらわれるほどでした。その結果、赤字に陥らない財務体質に改めることができました。

──その後の経過は……。

穂積 現在のメインバンクである京都信用金庫から、政府系金融機関2行を巻き込む融資枠組み見直しの提案があり、借入金を完済できました。
 その矢先のコロナ禍で業績が再び厳しくなりましたが、昨年4月に同信用金庫からセーフティネット貸付による融資を受けられました。おかげさまで手元資金に余裕がある状態で経営できており、全面的に支援してくれた八木先生と京都信金さまに感謝しています。

西田・京都信金課長 特殊ネジの製造会社として、ホヅミさまの企業名は東大阪で知れ渡っています。同業他社に比べて利益率が高く、会社の雰囲気など事業内容全般を評価させていただき、新たな融資スキームを提案しました。

八木 提案を受けたときは、にわかには信じられませんでした。穂積社長の黒字経営にこだわる姿勢が、このような機会をたぐり寄せたのだと思います。

──『FX2』を導入されたのは3年前です。

『FX2』を活用した財務管理が軌道に

『FX2』を活用した財務管理が軌道に

穂積 リスケされていた借入金返済のメドが立ち、パソコンを買い替えたタイミングで、自計化に踏みきりました。監査担当の大村さんが月次監査の際、《変動損益計算書》や《資金繰り予定表》などをもとに会社の状況を説明してくれるので、月次の損益状況を正確に把握できるようになりました。

大村 監査時には『FX2』から出力した帳表や独自に作成した資料を活用して、社長に業績を説明しています。最近は、雇用や人事給与面に関するご相談をいただく機会が多くなっています。

穂積 雇用調整助成金をはじめとする、国の支援策に関する情報も随時提供してもらっています。書類の作成に手間がかかると申請を敬遠しがちになるため、手続きも支援してもらえるのはありがたいです。

──自計化により、どのような効果を感じていますか。

穂積 以前は会社がもうかっているかどうか曖昧なところがありましたが、今では数字で客観的に判断することができます。最新業績から自社の経営状況がわかるので、翌月以降の業績推移も予測しやすくなり、対策を先手で施せるようになりました。

──金融機関に業績をコンスタントに開示されているそうですね。

穂積 八木先生から紹介された「TKCモニタリング情報サービス」(MIS)を活用して、月次データを取引金融機関に送信しています。従来のように金融機関の支店に足を運ぶ必要がなくなり、大変助かっています。

西田 新型コロナの影響から、現状ではお客さまとの面談にあまり時間を割くことができません。そうしたなか、MISでは直近の業績データがタイムリーに届き、金融機関の業務効率化につながる仕組みであると感じています。

──目標をお聞かせください。

穂積 製造業ではAIによる自動化が進展していますが、機械を動かしているのは人間です。当社の手がけているニッチな領域は、今後もなくならないと考えています。同業他社との連携も視野に入れつつ、ゆくゆくは自社ブランドを立ち上げたいですね。

(本誌・小林淳一)

会社概要
名称 株式会社ホヅミ
創業 1960年
所在地 大阪府東大阪市楠根2-6-43
売上高 約1億9,000万円(2021年4月期)
社員数 14名(アルバイト含む)
URL http://www.nejino-hozumi.com/
顧問税理士 八木会計事務所
顧問税理士 八木隆行
大阪府東大阪市今米1-2-48 松栄ビル803号
URL: https://www.yagi-accountant.com/

掲載:『戦略経営者』2021年8月号