株式会社伊勢崎金型製作所 様

群馬県伊勢崎市で50年以上にわたって金型製作を手がけている伊勢崎金型製作所。創業以来培ってきた高い製造技術が持ち味だが、事業の性質上、これまで「資金繰りの改善」に苦心してきたという。いかにしてキャッシュフローの安定化に成功したのか──。森孝之社長と経理業務を担当する森佳子さん、小林英伸顧問税理士、森義典監査担当に詳細を聞いた。

熟練の技術を横展開し未曽有の危機を突破

──事業内容を教えてください。

森孝之社長

森孝之社長

森孝之社長(以下社長) プラスチックを成形するときに用いる金型の設計・製作を手がけています。社名にもあるとおり、当社は創業以来約50年、この伊勢崎の地で事業を続けてきました。近くには北関東自動車道と関越自動車道が走っており、交通アクセスも良好。さらに、取引先の多くが関東甲信エリアに拠点を置いているので、設計から製造、納品までスピーディーに、かつワンストップで請け負っています。

──どのような製品を製造しておられますか。

社長 完成品の多くを占めているのは自動車関連部品の金型と、手鏡やファンデーションのケースといった化粧品の筐体ですが、これ以外にも家電部品や精密機械部品などの成形金型も作っています。手前味噌(みそ)になりますが、当社の強みである豊富な機械・設備と創業時から培ってきた高度な技術力を武器に、お客さまの細かい要望やオーダーにも柔軟に対応しています。さらに、最近は若手社員の入社も相次いでおり、技術の継承も課題の一つに掲げて取り組んでいるところです。

──新型コロナウイルスの影響はいかがでしょう。

本社社屋

本社社屋

社長 受注件数が通常時に比べて3割ほど減少し、その影響で昨年度の最終損益は赤字で着地しました。特に深刻なのが化粧品メーカー向けの製造販売。外出の自粛やマスクの着用が習慣化したことにより化粧品の売れ行きが軒並み不調で、多くのメーカーが生産ペースを落としました。当社もコロナショック以前はひっきりなしに注文が入っていましたが、今は例年ほどの勢いがありません。コロナ禍が落ち着き、人々の往来が戻れば売り上げも徐々に回復すると予想していますが……。当面は我慢の時が続くと思っています。

──今まさに苦境に立たされていると……。

社長 はい。ただ、当社はかつてのリーマンショックを乗り越えた実績がありますし、小林会計事務所さんから心強いサポートを受けているので、今回の危機も必ず突破できると信じています。

小林英伸税理士

小林英伸税理士

小林税理士 伊勢崎金型製作所さんでは、かねてより商工中金の「対話型当座貸越(無保証)」で、2,000万円の融資枠を設定するなど、新型コロナが流行する以前から資金繰りの安定化に向けた取り組みを実施していたので、昨年の春頃も資金調達に右往左往することなく、業務に集中している様子が見て取れました。

──リーマンショックの際にはどのような経験をされましたか。

社長 当社ではもともと、大口の取引先である自動車部品メーカーに向けて金型を生産してきました。ところが、リーマンショックの影響でこのメーカーからの発注が大幅に減少し、会社を存続できるかどうかの瀬戸際に立たされたのです。私が社長に就任したのもそんな状況の真っただ中。「このまま何もしないと倒産する」と居ても立ってもいられず、就任早々新しい取り組みを矢継ぎ早に実施したことを今でも覚えています。

──具体的にどのような取り組みを?

社長 1つが取引先の拡大です。同業者や経営者仲間のつてをたどったり、自社のホームページに問い合わせフォームを設けるなど営業活動に注力したところ、徐々にではありますが首都圏のメーカーを中心に注文をもらう機会が増えました。もう1つが技術の横展開。取引先の増加により、さまざまな要望やニーズへの対応を余儀なくされました。化粧品の筐体を作り始めたのもちょうどこの時期で、これまで培ってきた切削、研磨等の技術を生かして多彩な製品づくりにも挑戦しました。
 このように、営業活動に力を注ぎ取引先を増やしたこと、製造技術を横展開したことが実を結び、リーマンショックを乗り越えられたと考えています。

最新鋭の機械設備がずらり(右)

最新鋭の機械設備がずらり(右)

バンクミーティングを経て資金繰りを大幅に改善

──『FX2』を活用した自計化(会計ソフトを導入して自社で経理を行うこと)を実践されていますね。

社長 かつては手書きの伝票を起こしていましたが、小林会計事務所の森さんから「最新業績は常にチェックできる状態にした方がいい」と勧められて導入を決めました。『FX2』を使い始めてからは、材料や部品の調達や設備投資といった経営に関わる意思決定を速やかに判断できるようになりましたね。

森佳子さん

森佳子さん

森佳子さん(以下佳子さん) 導入当初はうまく使いこなせるか不安でしたが、森さんが操作方法を丁寧に教えてくださったので、今ではスムーズに運用できています。ありがたかったですね。

森監査担当 伊勢崎金型製作所さんでは巡回監査を毎月欠かさず実施しており、監査後は最新業績をもとに1~3カ月後の見通しや今後の打ち手を議論しています。社長は普段から工場の業務で忙しくされているので、売上高・材料費・粗利益・減価償却費・人件費などの月次データ(過去5期分)を集約した業績資料を、自由に帳表が作成できる「マネジメントレポート(MR)設計ツール」であらかじめ作成し、なるべく短い時間で打ち合わせを済ませるように心がけています。

──特に重宝している機能はありますか。

佳子さん「仕訳辞書」と「銀行信販データ受信機能」でしょうか。特に当社は預金取引が多いので、「銀行信販データ受信機能」によって、預金関係の仕訳はほぼ手入力せずに済むようになりました。経理業務にかける時間も『FX2』導入前の半分以下になり、今では空いた時間を他の業務に回しています。

──資金繰りについてはいかがでしょう。

社長 金型を1つ完成させるだけでも長い期間がかかるので、いかに資金繰りを安定させるかが当社の長年の課題でした。資金ショート寸前に至ったことも一度や二度ではありません。それだけに小林先生や森さん、それに金融機関からのサポートは本当にありがたかったです。

小林税理士 一時期、運転資金の融資すらままならない状態になり、2014年12月、群馬県信用保証協会に協力いただき、当事務所でバンクミーティングを開催しました。バンクミーティングには取引実績のある東和銀行と群馬銀行の支店長らが参加。『継続MASシステム』で作成した事業計画をもとに今後の経営方針を決め、返済計画の変更に同意いただきました。その後、四半期ごとにモニタリングを実施し、現状分析や打ち手の検討を繰り返したところ、次第にキャッシュフローが安定するように……。会社・会計事務所・金融機関の三位一体で成し遂げただけに、達成感もひとしおでしたね。

森義典監査担当

森義典監査担当

森監査担当 TKCモニタリング情報サービス(MIS)を勧めたのも、資金繰りをさらに安定させ、経営基盤を盤石にしてもらいたいという思いからです。先ほど説明した「対話型当座貸越(無保証)」などのように、MISを絡めた融資商品も多くありますからね。最近では「ゼロゼロ融資」の申し込みもスムーズに実施できるなど、MISの効果を肌で実感しているところです。

社長 当社では群馬県信用保証協会をはじめ、5つの金融機関に決算書データを提供しています。コロナ禍では金融機関の方から例の実質無利子・無担保融資(ゼロゼロ融資)の利用提案があったりと、素早いアプローチを受けるようになりました。

──今後については?

社長 まずはコロナ禍で落ち込んだ業績を立て直すべく、高品質の製品づくりや営業活動にも、今以上に力を入れていきたいと考えています。リーマンショックを切り抜けてきたのです。コロナショックも必ず乗り越えてみせますよ。

(本誌・中井修平)

会社概要
名称 株式会社伊勢崎金型製作所
設立 1964年3月
所在地 群馬県伊勢崎市西上之宮町144
社員数 8名
URL https://www.immc.co.jp/
顧問税理士 税理士 小林英伸
小林会計事務所
群馬県伊勢崎市今泉町1-2-5
https://www.kktax.jp/

掲載:『戦略経営者』2021年4月号