前列左から2人目が廣岡靖相談役
1952年創業の老舗縫製品メーカー・ヒロオカ。熟練の技術を武器に多彩な縫製品を製造しており、ここ数年は増益を記録している。秘けつは技術を横展開した豊富な商品群と緻密な計数管理、そしてタイムリーな業績開示だ。堂東貢祐社長と田原会計事務所の津田弘一税理士、酒井隆馬公認会計士に同社の経営・財務戦略について聞いた。
確かな縫製技術を生かしてバラエティー豊かな商品を展開
──事業内容を教えてください。
堂東貢祐社長
堂東(どうとう) 自社製品の製造販売と輸入品販売を軸に事業を展開しています。自社製品事業ではゴルフカート用のメッシュシートカバーやレインカバー、バイクのシートカバー、自転車のハンドルカバーなど多岐にわたる縫製品の製造販売を、輸入品事業ではビジネスバックやクーラーバッグ(自社企画)などのカタログギフト販売を手がけています。
──創業は1952年。歴史の長い会社ですね。
堂東 祖父が創業した「広岡カバー商会」が当社のルーツです。その後、89年に叔父(廣岡靖相談役)が社長に就任。カタログギフトや輸入品の販売など幅広い事業にも挑戦するようになりました。
──社長ご自身の経歴は?
堂東 私は2003年に入社し、営業職として製品の販売促進に取り組んできました。そして14年に3代目の社長として経営のバトンを受け継ぎ、現在に至ります。
──長年培ってきた縫製技術が強みと聞きました。
堂東 当社製のシートカバーには従来のものに比べて厚みがあり、通気性やクッション性、耐久性に優れた10ミリ厚のメッシュ素材を採用しています。立体的で分厚い素材なので、高い技術力を持っていないとうまく縫い合わせることができませんが、当社の職人たちは創業以来培ってきた縫製技術を修得しています。さらに、CADや高周波加工機器、特殊ミシンなど縫製加工をバックアップする設備を導入しており、量産体制も構築しています。
──製品の横展開にも意欲的ですね。
堂東 当社には「生活者に寄り添ったものづくりを行う」という思いが脈々と受け継がれており、お客さまや従業員の声を参考に、技術力を生かした製品を続々とリリースしています。例えば、子どもがランドセルの汗蒸れで困っているという声をもとに製作した「エアースルー・ランドセル背パット」や、自転車通学時にスクールバックが雨に濡れるのを防ぐレインカバーなど。当社には女性のスタッフが多く勤めているので、普段の生活で困っていること、便利グッズのアイデアなどを幅広く収集するよう心がけています。
津田弘一税理士
津田 ランドセル背パッドはヒロオカさんで働く女性スタッフの発案で、私自身とても良いアイデアだと思いました。子どもが毎日使うものですし、夏場は特に汗蒸れが深刻ですからね。ヒロオカさんの技術力なら形にできると確信していましたし、完成品も想像以上の出来栄えに感動したことを覚えています。
──コロナ禍の影響は?
堂東 コロナ前に比べて輸入品バッグ類のギフト販売が大きく落ち込みましたが、ゴルフ場向けの製品や乗用屋外車両などのシートカバーの販売が好調に推移し、最終的には対前年比で数%の減収と増益で着地しました。
──業績が堅調に推移していますが、要因は何でしょう。
堂東 対策をスピーディーに実行できたことでしょうか。当社は中国の企業とやり取りすることが多いので、新型コロナウイルスに関する情報を比較的早く入手し、打ち手を素早く実施してきました。特に昨年の3月に始めたインターネット販売は評判も上々です。「何か新しいことに取り組まないと大変なことになる」と、かつてないほどの危機感を抱き、商品開発や販路開拓戦略を矢継ぎ早に仕掛けたことが奏功したと感じています。
熟練の縫製技術が武器(中)、本社社屋(右)
業績データを適時に開示し金融機関と円満な関係を構築
──田原会計事務所とのご関係は?
堂東 12年前に、地元の商工会が主催する後継者塾で津田先生とお会いしたのが最初です。当時は事業を承継する前でしたが、会社を引き継ぐにあたっての手続きや心構えなど親身になってアドバイスいただきました。その縁もあって当社の会計参与をお願いし、津田先生の勧めで『FX2』を導入しました。
──特に活用されている機能はありますか。
堂東 《変動損益計算書》ですね。特に製造原価や販管費の動向を注視しており、材料費が高騰していないか、経費をかけすぎていないか、販売促進費をどの部門に積極的に投下するか……など、自社の現状把握や将来の打ち手は、《変動損益計算書》の数値や指標をチェックして、判断材料の一つにしています。
酒井隆馬公認会計士
酒井 堂東社長は私が知るなかでも特に会計データを重視する経営者です。会計伝票も経理担当者の方がタイムリーに入力されていて、月次決算も早々に実施できています。また、巡回監査後には社長、廣岡相談役を交えた業績報告会を開催しており、マネジメントレポート(MR)設計ツールで作成した部門別の損益計算書等をもとに、部門ごとの現状整理と今後の戦略などについてディスカッションしています。
──社長自身が経理業務を兼任していたこともあるとか。
堂東 恥ずかしい話ですが、社長になった当時は従業員とのコミュニケーションが不足しており、意見の食い違いが頻発しスタッフが退職する事態を招いたことがありました。社長業の傍らで請求書発行や伝票入力を行うのは想像以上に大変でしたが、経理業務の流れはもちろん、担当者の気持ちや業績をリアルタイムで把握することの重要性が理解できたので、この経験は会社を経営する上で大きな糧になりましたね。何より、従業員とコミュニケーションを図るときは、相手の立場をしっかりくみ取ることを意識するようになりました。
津田 社長から「経理担当者がいないので記帳代行してもらえないか……」と相談されたこともありましたが、「本気で会社を引っ張る覚悟があるなら自社でしっかり計数管理しなさい」と突き返したのを今でも覚えています。会計はマネジメントの羅針盤。企業経営という大海原を着実に突き進むには、自計化を実施し、業績をリアルタイムで把握することが欠かせません。逆境は自分自身と会社を成長させる絶好のチャンスです。苦しい決断でしたが、社長とともに成長したいという思いで判断しました。
──金融機関への業績開示も積極的ですね。
ゴルフカート用品では業界トップシェアを誇る
堂東 はい。当社では「TKCモニタリング情報サービス」(MIS)を活用して、三菱UFJ銀行、中兵庫信用金庫、但馬銀行の3行に決算書と月次試算表データを提供しています。財務内容を包み隠さず開示することは緊張感を伴いますが、金融機関さんも当社の経営状態をタイムリーに把握することができ、必要なときに好条件の融資提案を受ける機会が増えました。MISによって金融機関とのやり取りがスムーズになったと感じています。また、「紙で出力して担当者に渡す手間が省けたので助かります」と経理担当者の反応も良好です。
酒井 新型コロナ対策の特別融資を申し込むには試算表等の業績資料を提示する必要がありました。他の会社さんが業績資料の準備に四苦八苦するなか、ヒロオカさんはすでに月次試算表データを送信していたので、融資の申し込みがスピーディーに進みましたね。申し込みから振り込みまでに要した期間は1カ月程度。MISで最新業績を開示していなければ、ここまで迅速に手続きを終えることはできなかったでしょう。
──今後の目標を教えてください。
堂東 今回のコロナ禍を機に、変化に対応する、複数の販路を持つことの重要性を改めて理解しました。時代の変化に対応し、当社が持続的に発展していくためにも、経営理念である「社員が仕事を通じて人格形成、生きがいを見つけ、成長できる企業を目指す」ことを意識しながら、社会に役立つ製品を多く展開していきたいと考えています。
(本誌・中井修平)
名称 | 株式会社ヒロオカ |
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創業 | 1952年 |
所在地 | 兵庫県丹波市氷上町市辺102-1 |
社員数 | 12名 |
URL | https://www.khirooka.co.jp/ ECサイト(Yahoo!ショッピング) ※ほかamazon、楽天市場もあり |
顧問税理士 |
田原会計事務所
税理士 田原義朗 兵庫県丹波市柏原町柏原1116-1 URL:https://www.tkcnf.com/tahara |