2002年に産声を上げたメディアプラスは、日本でいち早く専用端末やモニター、カメラ、音声機材を使用するビデオ会議システムを手がけ、その普及に貢献してきた。大手代理店の攻勢にも負けず成長を続けてきた秘けつをファウンダーの尾崎修司会長と菅野尚子社長に聞いた。

メディアプラス 尾崎修司会長 菅野尚子社長

メディアプラス 尾崎修司会長 菅野尚子社長

 コロナ禍以降、ビデオ会議システムは企業の必須ツールとなりつつあるが、その将来性に1990年代から目を付け、先駆者として走り続けている経営者がいる。メディアプラスの尾崎修司会長だ。

 かれこれ30年ほど前のバブル絶頂期、音響機器関連の商社につとめていた尾崎会長は、製品が黙っていても売れていく状況を経験する一方で、ちょっとした予感を持っていた。

「音響機器が必要なホールなどからのニーズが頭打ちになり、一般企業のオフィスへのAV(オーディオビジュアル)機器需要が増え始める兆しが感じられたのです」

優秀な海外製品を発掘

 まもなく、「これは莫大(ばくだい)な市場になる」と確信した尾崎会長は、AV設備を販売する新しい部署を社内に立ち上げる。この事業を進めるなかで発掘したのがノルウェーのタンバーグという会社だった。このタンバーグの製品であるビデオ会議システムに大きな将来性を感じた尾崎会長は、すぐさまノルウェーの本社に掛け合い、日本初の代理店契約を結ぶ。

 これまでのようにモノを売るのではなく、AV設備の設計施工から受注するまったくの新しいビジネスの形だけに立ち上げには苦労もあったが、周囲の反応は上々だった。また、インターネットの急速な普及は、「テレビ会議」への企業のニーズをさらに爆発的に押し上げると見込んだ尾崎会長は、2002年9月、会社からその事業を引き継ぐ形で、同僚2名とともに独立する。

 商社時代の尾崎会長の部下で、創業メンバーの一人である菅野尚子社長はこう述懐する。

「尾崎の目論見(もくろみ)は見事に当たりました。タンバーグは小さな会社で知名度もありませんでしたが、当時としては珍しくテレビ会議システムに特化し技術的にも優れていました。そのため、設立と同時に大手企業からの引き合いが殺到し、次第に〝知られる〟存在になっていきました」

 とはいえ、製品が売れ始めると、他社が黙っているはずはない。三菱や日立、NTTなどといった大手メーカーが代理店として次々と名乗りを上げ始める。再び菅野社長の話。

「当時、輸入業においては、メーカーとエクスクルーシブ(独占)契約を結び他社を排除する手法が一般的でした。しかし、尾崎会長はあえて独占契約を結ばないという戦略を選びました」

 尾崎会長の狙いはこうだ。

 タンバーグもメディアプラスも小さな会社であり、知名度が低いという弱点があった。が、大手代理店が販売に乗り出せば、製品がユーザーの目に触れる機会が増え、知名度が上がるというわけだ。とはいえ、大手が参入してレッドオーシャン化すれば、価格競争が巻き起こり、中小はその波に飲み込まれてしまうのが普通だろう。が、尾崎会長にはその不安はなかった。

「われわれは、誰よりもタンバーグ製品への理解度が深かったし、補完製品を独自開発するなど、技術面での優位性もありました」

 なかでも、他社との差別化のカギとなったのが「MCU」(多地点接続装置)と「MCUオペレータ」(現VMRオペレータ)というシステムの存在である。

 菅野社長に説明してもらおう。

「ビデオ会議システムを販売していくうちに、一つの企業が大量に購入するケースが増えてきました。複数の拠点をつなぎ、多くの社員が参加する会議のニーズが高まってきたのです。そうなると、システムを束ねて接続する〝多地点接続装置〟(MCU)の技術が必要になります。そこで、タンバーグと同じように無名だったイギリスのメーカーであるコーディアン(CODIAN)を発掘して代理店契約を結んだのです」

 コーディアンは多地点接続装置の専門メーカー。数十拠点を結んだテレビ会議が可能で、数百の地点に配信できるMCUは当時としては画期的なものだった。タンバーグもMCUを販売していたが、コーディアン製品には品質的にかなわなかった。そのため、タンバーグは後にコーディアンを吸収合併することになる。

 さて、ここまでの動きだけでも、尾崎会長の先見の明が際立つが、同社はさらに先を行く。MCUは高度で複雑なシステムなので運用するにはIT管理者の手が必要という弱点がある。これを解消するためにスケジューラを自社開発したのだ。スケジューラとは処理すべき事項の優先度に応じて制御・管理するためのソフトのこと。

「要するに、会議の予約設定や変更などを簡単に行えるソフトを自社開発したのです。これをMCUと抱き合わせて販売することで、ユーザーの使い勝手が大きく向上しました。そうなれば、お客さまの方も自然と、ビデオ会議システムも当社から……ということになります」

 このMCUオペレータの開発は、一朝一夕にできるものではない。本体製品を熟知しているメディアプラスの技術陣だからこそ可能だった。

「われわれは常に〝先行逃げ切り〟の経営を志向しています。待ちの姿勢では大手に飲み込まれてしまうからです」(尾崎会長)

「先行逃げ切り」との表現は印象的だが、テレビ会議に目をつけて無名のタンバーグと代理店契約を交わし、さらに無名のコーディアンを取り込むと同時に自社開発のスケジューラを販売……といった臨機応変の動きにはまさにこの言葉がうってつけのようにも思える。

 2010年に巨大企業のシスコがタンバーグを買収した際にも、尾崎会長はあわてなかった。シスコには100を優に超える代理店があるが、「ビデオ会議」の分野でメディアプラスほどの技術レベルに達しているところは少ないからだ。また、同社はビデオ会議に必要なオフィスのデザインから細かな周辺機器まで、あらゆる製品を扱っている。要するにビデオ会議環境を構築する際のソリューションをワンストップで提供するコンサルティング企業としてのプレゼンスを確立しているのである。

国内外でアライアンス

 さらに2017年、こうした立ち位置を盤石にするためにGPA(グローバル・プレゼンス・アライアンス)に加盟した。GPAとは、世界50の国と地域のAVシステムに実績を持つ企業からなる国際同盟(原則各国・地域に1社ずつ)。技術プラットフォームを標準化して、グローバルに展開する企業のサポートを行うことを目的としている。

「すでに、GPAを通して多くのグローバルビジネスにかかわってきました。当社は、規模を大きくする代わりに、今後ともアライアンスによってユーザーの需要に対応していきます。国内においても同様で、全国の同業者との連携関係の構築を継続して進めています」

 ここへ来て、ビデオ会議システムへのニーズはさらに爆発的に高まっている。しかし、一方では価格競争が進み、「Webex」「Teams」「Meet」「Zoom」の4大ウェブ会議ソフトが定番化しつつあるのも事実。「いまや定番のウェブ会議ソフトを当社が販売する必然性はありません」と菅野社長。

「当社が扱わないソフトが増えれば増えるほど、これらのソフトを〝多拠点・多人数で、良い音響・映像で、最適のオフィスで〟使いたいといったニーズも増える。周辺環境を整えることで、これに応えていくことが当社の存在意義だと考えています」

 さて、尾崎会長の「先行逃げ切り」戦略は現在も継続中である。

 ひとつは、すでに展開中のオンライン会議で使用されるシステム同士をうまくゲートウエイ(中継)する技術の拡散。オンライン会議システム黎明(れいめい)時代から積み上げてきた技術とノウハウは他社の追随を許さない。さらには、端末カメラなどのAV機器をローカルで制御し、セキュリティーを保ちながら人の移動や密集具合、電気、空調などオフィスの状態をモニタリング、オンタイムで管理できるシステムを鋭意開発中だ。これを「次の〝逃げ切る〟ためのツールにしたい」と言う尾崎会長。

 最後に事業承継への思いを語ってくれた。

「私自身、一線で頑張ることに限界を感じており、菅野や幹部スタッフ中心の経営体制にシフトしつつあります。創業者にとって会社は子どものようなもの。M&Aの案内は毎日のように目にしますが、企業のスピリットを理解して実践してもらうには苦労をともにしてきたスタッフに任せたいと思うのは当然でしょう。このほど松下守(顧問税理士)先生に相談しながら『特例承継計画』の適用申請を行う決心をしました。会社は先行逃げ切りでも経営者は逃げ切るわけにはいきません」

(本誌・高根文隆)

会社概要
名称 株式会社メディアプラス
設立 2002年9月
所在地 東京都千代田区飯田橋3-11-6
売上高 9億9,500万円
社員数 30名
URL https://www.mediaplus.co.jp/

コンサルタントの眼
会計参与 顧問税理士 松下 守
税理士法人日の出事務所 東京都江戸川区南小岩6-29-8

 尾崎会長とのお付き合いは前の会社に勤められていたころからで、かれこれ25年以上になります。さまざまなことがありましたが、なかでもまっさきに思い出す出来事があります。尾崎会長は夏休みを利用し、数日掛けて趣味であるご自分のバイクを完全解体され、パーツを交換しながら1から組み立て直されたのです。その集中力と細やかな手際、モノをつくり上げる技術に感心した覚えがあります。

 そうした緻密な能力は、財務管理にも生かされています。会社設立以来、常にバランスシートの内容を注視しながら経営のかじ取りをされ、当初は多少苦戦されていたようでしたが、2期目からは爆発的に業績を上向けられました。今年20期を迎えましたが、いまやエクセレントカンパニーの名を不動のものとしています。自己資本比率60%超、限界利益率30%超をキープ。もちろん内部留保は潤沢で財務的な問題点はまったくありません。

 いきおい、株価は高止まりし、事業承継には悩ましいところではありますが、尾崎会長は「親族外」承継を実施され、実力主義にもとづいた会社の確実な存続を目指されています。M&Aなどで組織をやみくもに大きくするのではなく、人を育てつつ足もとを固めながらアライアンスで生き残っていく戦略を選択されています。しっかりとした経営基盤と高い技術力で、さらなる発展が期待できる優良企業です。

掲載:『戦略経営者』2021年3月号