取引先の大手メーカーから値下げの要求がありましたが、簡単にのめる話ではありません。粘り強く価格交渉を行うための基礎知識や進め方について教えてください。(部品加工)

 下請け事業者に対し、親事業者が合理的な説明がなく自社都合で通常の対価に比べ著しく低い価格にする、あるいは一方的に値下げを要求することは、下請法や独占禁止法に違反するおそれがあります。また、原材料費や労務費などの上昇に伴うコストが増加するのに価格の見直しに応じない場合も同様のおそれがあります。

 国は下請法や独占禁止法の運用を通じて、下請け事業者の利益を正しく保護し、親事業者に対し公正な取引を促す施策を推進しています。コロナ禍においても、2度の通達により親事業者の配慮を強く要請しています。

客観的データの資料化が重要

 下請法には親事業者の禁止事項として「買いたたきの禁止」があります。発注に際し同種や類似の「通常支払われる対価」に比べて著しく低い価格に定めることを禁止しています。

 この「通常支払われる対価」は「市価」とされ、世間で類似する取引(量や質が類似)の対価にあたります。市価の把握が困難な場合は、それに近い取引を参考にして決定します。

 多くの親事業者は複数企業から部品を調達していますが、部品そのものの原価管理はしていません。そのため、価格は複数の下請け事業者が提出した原価計算資料等を客観的資料として活用し決定しています。従って下請け事業者は原材料価格や人件費、工場経費などの推移、外的環境の動向を把握し、客観的なデータを適切に整理・資料化し、親事業者に提供することが最も効果的な価格交渉の進め方です。例えば各種バネメーカーA社(東京都)は、数百種類あるスプリング(バネ)の厳密な原価計算が困難なため価格交渉は苦手でしたが、新たに原材料価格推移表、労務費用や光熱費の推移表などの説明資料を準備し粘り強く交渉した結果、価格の見直しが果たされました。

 国は、下請け関係が多い業界に「下請ガイドライン」、「自主行動計画」の策定を促し、傘下の親事業者への徹底を図っています。下請ガイドラインは現在18業種、自主行動計画は16業種49団体が策定しています。さらに下請け関係者に対する「適正取引の支援」活動も強化しており、価格交渉能力向上のために、「価格交渉サポートセミナー」を開催しています(詳しくは検索サイトから「適正取引支援サイト」参照)。

 また、下請事業者は弱い立場にあるという状況から、行政は積極的に立ち入り検査や下請Gメン訪問などを実施し、違反する親事業者には改善指導や勧告を実施しています。例えば、2019年に書面調査28万6,000社、立ち入り検査841社を行い、688社に改善指導を実施しました。親事業者174社から1.2億円を下請事業者に返還等させたほか、勧告も7件公表しています。

 なお、国は下請取引について各県に「下請かけこみ寺」(0120-418-618)という相談窓口を設置しています。業界団体などとともに適正な取引を目指して積極的な活動を行っており、下請事業者も価格設定の基礎知識を習得し、自信をもって価格交渉に臨みましょう。

掲載:『戦略経営者』2021年3月号