ライフスタイルの変化や購買チャンネルの多様化によって苦境に立たされている「商店街」。特に新型コロナ感染症は経営環境の悪化に拍車をかけた。逆風吹きすさぶなか、知恵や工夫を施し、活性化に取り組む商店街を取材した。

プロフィール
すずき・たかお●1951年生まれ。中小企業診断士。流通業全般の財務・マーケティング・販売促進などを得意とする商店街支援のエキスパート。創業者の支援、店主の教育・アドバイスなど、個店のサポート実績も豊富。商店街研究会の会長を務めるかたわら、一般社団法人地域振興支援協会代表理事、内閣府認証NPOまちづくり協会常任理事、東京信用保証協会企業サポートコーディネーターなどを務める。主な著書に同友館刊『TOKYO+ひときわ輝く商店街』(編著)など。

──全国の商店街を取り巻く現状について教えてください。

鈴木 買い物客の減少、商店主の高齢化、後継者不足等により衰退傾向にあるのは衆目の一致するところで、シャッターが下りたままの商店、空き店舗、空きテナントが目立つ商店街も少なくありません。1982年の商業統計によると、約170万にのぼるお店が商店街に存在していたようですが、2013年には約103万店舗まで落ち込んでいます。ただ、このデータは少し古いので実態はさらに少なくなっていると推定されます。最近は新型コロナの影響が商店街と店舗の営業を直撃しており、経営状況が一段と厳しくなったという声も頻繁(ひんぱん)に耳にします。

──コロナ禍はどのような影響を及ぼしているのでしょうか。

鈴木 一つは休業や時短営業に伴う日々の売り上げの減少です。ライフスタイルの変化やコンビニ、大型ショッピングモールの台頭により商店街を訪れる人が少なくなって久しいですが、コロナ禍により店舗の休業や時短営業が要請されたことで商店の売り上げが輪をかけて落ち込むようになりました。首都圏の一部の商店街では緊急事態宣言の発出期間中も多くの人出でにぎわっていましたが、これは全国的にみても稀(まれ)なケース。ほとんどの商店街では時短、休業要請の影響で売り上げが減り、閉店や廃業を余儀なくされたお店も少なくないと聞いています。
 もう一つは大規模な集客イベントが開催できなくなったこと。商店街の活気を促すための取り組みといえば、大勢の人が集まる大規模なイベントやお祭りを催すことが一般的でした。ところが新型コロナの感染を防ぐために「3密」を避ける習慣が根づいたことで、人が密集するような大がかりなイベントは開催しづらくなりました。

──感染対策を万全に行うことでイベントを再開した商店街もあるようですが……。

鈴木 例えば来場者数を制限したり、手指消毒や検温の徹底、人が多く集まりそうな場所に仕切りを設置する、といった対策を施し、開催にこぎ着けた商店街もあります。が、店舗の多くは個人事業者です。自分の店だけでなく商店街全体の感染対策に取り組むとなると、経済的な負担はもちろんマンパワー不足に直面し二の足を踏む場合がほとんど。スポーツや音楽イベントは続々と再開しつつありますが、商店街の場合はこれらの理由から、イベントの開催に踏み切れていないところもいまだに多くみられます。

「相互扶助」で乗り切る

──このような状況でも各商店が一丸となって危機を乗り越えようとしている商店街もあります。

鈴木 埼玉県所沢市にある所沢プロぺ商店街では、6月に商店街としては珍しい「必要経費10万円未満までの現金支給」プロジェクトを実施しました。これは商店街振興組合の会員事業者1人につき一律10万円未満の現金を支給するという取り組みで、消毒液やパーテーション、サーキュレーターの設置、マスクの購入といった新型コロナ対策に使うことができます。これらは商店街の予算からねん出されており、まさに「商店街全体で支え合う」ことでコロナ禍を乗り越えようとする活動といえるでしょう。
 さらに岩手県盛岡市の盛岡大通商店街では飲食店が中心となって開催している「お弁当パラダイス」(『戦略経営者』2020年11月号P14)が好評を博しており、商店が一丸となり知恵や工夫を施すことで活況を取り戻しつつある商店街も増えています。

ECの活用に商機あり

──集客に成功している店舗の取り組みについて紹介してください。

鈴木 インターネットをうまく活用して来店客や売り上げを増やしているお店がいくつかあります。例えば首都圏のある酒屋では店舗とECショップの二段構えで商品を販売しています。とりわけ目を引くのがリアル店舗をショールーム化することでその場で試飲ができたり、店員とのコミュニケーションのなかで自分に合ったお酒を探せる点。ECを活用して販路を拡大しつつ、リアル店舗でしか体験できない仕組みを取り入れるというリアルとオンラインの良さを両取りした戦略で、集客と日々の売り上げの増加を実現しているようです。

──ECをうまく活用すればリアル店舗の売り上げ拡大といった効果も期待できると。

鈴木 昔は「年輩の人ほどネットでモノを買わない」と言われていましたが、今は年齢に関係なく多くの人がアマゾンやヤフー、楽天市場といったECモールを使ってショッピングしています。たしかに、ネットで買い物をする習慣が根づいたことで商店街の来客数が一段と減ったことも事実です。が、ECを活用することは幅広い年齢層に商品を販売できるチャンスでもあります。ポイントはリアルとオンラインをうまく融合させること。単にECサイトを設けて商品を売るだけでなく、店舗に足を運びたくなる仕掛けを施すことでより高いレベルでの集客と売り上げの増加が期待できるでしょう。

──「リアルの店舗に行きたくなる仕掛け」とは?

鈴木 オンラインではできない要素をとことん追求することに尽きます。例えば来店客とのコミュニケーション。食品を扱う店であれば「おすすめのレシピや調理法」、雑貨屋であれば「生活用品の意外な使い道」を伝えるなど、来店客と積極的にコミュニケーションを図ることで「また来たい」と思えるような店づくりを意識する必要があるでしょう。ちょっとした世間話も十分効果的です。
 日常生活の困りごとを聞いたり助言するというコミュニケーションを継続することがお店の魅力づくりにつながり、ひいては商店街全体の魅力を形成します。商店主はいわゆる〝その道のプロ〟と呼ばれる人たちで、商店街は〝プロの集団〟。生活上の疑問やアドバイスを気軽に話し合える関係性を構築すれば、多くの人々が商店街に足を運ぶきっかけになることでしょう。

──「GoTo商店街」事業もまもなくスタートする見込みです。見通しは?

鈴木 この事業は、新型コロナ対策はもちろん商品の販促費やイベント開催にかかる諸経費などに使えるため、商店街活性化の大きな後押しになるとみています。とはいえ場当たり的に使い道を決めたり、補助ありきのイベントを打ち出しても商店街の振興にはつながりません。「GoTo商店街」を有効活用するには「何のために使うのか」「どのような成果が得られるのか」、イベントを催すのであれば「GoTo事業終了後も持続可能か」といったことを商店街全体でしっかり議論しておく必要があります。

地域の生活を支援する

──ずばり、商店街が活況を取り戻すためのポイントは?

鈴木 各商店がそれぞれ当事者意識をもって商店街の運営に参画することが重要だと考えます。しかし、先ほど述べたとおり商店主は自分の店の経営で手いっぱいで、商店街の運営に消極的な姿勢を示すことが多いのが実情です。商店街の発展に自発的に関わるための仕組みをいかに確立するかが今後の課題と言えるでしょう。

──商店主が商店街の運営に積極的に携わっている実例などはありますか。

鈴木 例えば、香川県高松市にある高松丸亀町商店街では、商店主や地元住民などが出資者となり商店街の景観保全やテナントミックスといった商店街のマネジメントを行う組織(高松丸亀町まちづくり株式会社)を設立し、特定の誰かに負担が偏ることなく、商店街の運営に参加できるスキームを確立しました。会社設立前は空き店舗や空きテナントが商店街のいたるところにありましたが、今ではそれらの〝空き〟は埋まり、集客と収入面の両方でV字回復を実現しています。

──これからの商店街のあり方についてお考えを聞かせてください。

鈴木 単にモノを売り買いする場所ではなく、地域コミュニティーの核となり、住民のくらしに寄り添いながら「地域の生活を支援する」という発想が求められます。そのためにも商店街を構成する各店舗がそれぞれの強みを発揮しつつ、当事者意識を持って商店街の発展と地域住民の生活に密着する姿勢がより重要となるでしょう。

(インタビュー・構成/本誌・中井修平)

掲載:『戦略経営者』2020年11月号