中小企業大学校東京校の「経営後継者研修」は次代の経営者を目指す後継者の育成を目的とした研修プログラムで、40年の歴史を誇る。しかし、今年はコロナ禍の影響を受け、研修が一時中断。学びの成果を披露する「ゼミナール論文発表会」も1カ月遅れの開催となった。新型コロナによる数々のトラブルを乗り越え、中小企業大学校を巣立っていく後継者たちの姿を追った。
「経営後継者研修」は国が行っている唯一の後継者育成プログラム。年度によってばらつきはあるものの、毎年20名程度の研修生が10カ月(例年10月上旬から翌年7月中旬)かけて企業経営に必要な知識、スキル、マインドを育む。学習に集中できるようカリキュラムは全日制を採用。研修生は自社の業務からいったん離れ、「会社を継ぐ」という同じ意志・目的を持った同期受講者たちと一緒に、立派な経営者になることを目指して学びを進める。そのため、研修生は原則として東京校(東京都東大和市)に併設する寮において共同生活をしながら研修期間を過ごすことになる。長期間同じ空間をともにすることは学習内容の理解を深めるだけでなく、卒業後もお互いに切磋琢磨(せっさたくま)し合う〝生涯の仲間〟づくりにつながっていると研修生、OB・OGからも好評だ。
ちなみに、中小企業大学校は全国に9拠点あるが、経営後継者研修を実施しているのは東京校のみ。800名以上にのぼるOB・OGとのつながりも堅固で、最近では卒業生の後押しがきっかけで受講を決めたという研修生も多い。
誰よりも自社に詳しくなる
経営後継者研修は全国の中小企業経営者や経営幹部から厚い支持を得ている。その要因は何と言っても「経営者に必要な知識や素養を身につける」ことに特化した科目構成にある。
研修では講義(経営戦略、マーケティング、財務、人的資源管理など)や演習(業務プロセス分析実習、経営計画策定演習など)を通して、経営者に求められる知識・スキルを身につける。そして、これらで学んだ内容を総動員して研修の軸である自社分析(沿革・経営理念分析、経営戦略・マーケティング分析、決算書・財務分析、人的資源管理分析、第二創業プラン策定など)に臨む。講義や演習で得た知識をベースに多角的な視点から自社を分析することで、実際の企業経営に使える〝知恵〟を習得することができる。
これらの分析結果をもとに自身の将来構想やアクションプランを立案。その内容を研修の集大成である「ゼミナール論文発表会」で報告する。そのため、ゼミナールでは経営コンサルタントや公認会計士といった経営支援を生業(なりわい)とする講師のもと、自社分析のフォローアップや発表内容のブラッシュアップに取り組むことになる。ゼミ生による白熱したディスカッションも頻繁(ひんぱん)に交わされており、自社分析や論文の深掘りはもちろん、経営後継者としての意識や覚悟が醸成されるなど、ゼミナールでの経験は研修生を大きく成長させている。
万全な感染対策を実施
40年という歴史を誇る経営後継者研修だが、今年は新型コロナの影響により4~6月の3カ月にわたって研修を中断。研修生はいったん自社に戻り、身につけた知識やスキルを普段の業務で実践するなど自発的な学習に努めた。その後、7月から研修を再開。校舎や教室の入り口に消毒液を配備する、マスクの着用を義務づける、研修生や講師どうしのディスタンスを保つ、教室の換気を良くするなど感染防止に万全を期した。加えて寮の談話室を当面の間使用不可とし、大規模な懇親会、飲み会の開催も禁止している。
研修のフィナーレを飾る「ゼミナール論文発表会」も8月27・28日と例年より1カ月遅れの開催となった。来場者には検温を義務づけ、体温が37.5度以上の人の参加を断るとともに会場では常にマスクを着用するよう求めた。発表者はマスクやマウスシールドを着けて発表を行い、マイクも使用のつど除菌ペーパーで拭き取ることを徹底。研修生やゼミナール講師による講評も座ったままで行った。参加者どうしのディスタンスを維持することはもちろん、座席の前にアクリルパーテーションを設置し、座席前後での飛沫(ひまつ)感染防止にも努めた。
今回、研修生には不便な対応を強いることとなったが、感染対策と研修受講を両立させるためにも、10月から始まる41期生の研修でもこれらの取り組みを継続するつもりだ。さらに昨今の社会情勢を踏まえて、「テレワーク」や「業務のIT化・クラウド化」などホットなトピックをテーマにした講義もカリキュラムに盛り込む予定にしている。
このように引き続き衛生面への配慮を意識しながら、次世代の企業経営を担う後継者たちを育てていきたいと考えている。
(構成/本誌・中井修平)