第2波がピークアウトし、秋冬の第3波が懸念される新型コロナ感染症。疫病的にも経済的にも未知のゾーンに突入する警戒感が広がっている。本特集では、「予言」を得意とする経済評論家の鈴木貴博氏のインタビューを皮切りに、金融機関と企業に取材して、現況の一端をレポートする。

プロフィール
すずき・たかひろ●百年コンサルティング代表。東京大学工学部卒。ボストンコンサルティンググループ等を経て、2003年に独立。未来予測を得意とし大手企業の経営コンサルティングに従事するほか、経営評論家として各種メディアなど多方面で活躍。著書に『仕事消滅』(講談社)、『戦略思考トレーニング』シリーズ(日本経済新聞出版社)、『日本経済予言の書』(PHP研究所)などがある。

──新型コロナ騒動は続いていますが、政府の経済優先の施策が目立つようになってきました。

ウィズコロナ時代の着眼点

鈴木 当初、新型コロナ感染症はまったくの未知の疫病で、専門家会議の例の「死者42万人」という数字を前提として対策がとられていました。ところが、どうもそこまでのものではなさそうだということで、「GoToキャンペーン」に象徴されるように、今度は「外へ出ろ」と言い始め、指定感染症第2類から外そうという動きさえ出てきています。要するに、生死以上に経済へのダメージが大きいことが分かってきたのです。今後、秋冬にかけて第3波の到来が予想されますが、この調子だと、先の緊急事態宣言のような施策がとられることはまずないでしょう。

どっちを向けばいいのか…

──しかし、国民の不安は続いています。

鈴木 そこが難しいところですね。海外の例を見てみましょう。成功例が二つあります。まずドイツ。メルケル首相はコロナの深刻性をアピールして国民に忍耐を訴え、助成金や補助金など法的支援で徹底的にバックアップしました。結果として死者数は欧州では極めて少なかった。それとスウェーデン。この国はご承知の通り、ロベーン首相の指揮のもと「過剰に反応すべきではない」とロックダウンを行わず、リスクの高い高齢者に配慮した医療体制を整備しつつ、市民は普通の生活を維持。早期の集団免疫獲得を目指しました。結果、経済の落ち込みを最小限に抑えることができたし、人口当たり死者数もイタリア、英国とそう変わりません。両国とも政治家が声高にコロナ対策を語り、結果に対しては「自らが責任をとる」と明言しています。

──日本はそうではないと。

鈴木 国民に「新しい日常を」といいながら、観光や飲食に補助金を出して外に出てくださいと。いったい何をやりたいんだとなりますよね。まさに謎の緩和政策。国民はどっちを向いていいのか分からない状態です。

──秋冬にはかなり厳しい第3波が来ると見ておられますね。

鈴木 私は感染症に関しては素人ですが、統計や歴史の面からこう推察しています。まず言えるのは、パンデミックが1年でおさまった事例はほとんどないということ。過去の例から終息までに2年かかるとして2022年の春くらいまでは今の状況が続くでしょう。また、感染者数は多いものの死者数が少なかったブラジルが、寒い時期に入ってその死者数が激増していることから、日本でも寒い時期に入る今年から来年にかけての秋冬の重症者数の割合は、2月~5月あたりの第1波の時と同じように増加することが類推されます。しかも、そうなったとしても政府は先の緊急事態宣言のような施策はとらないでしょうから、死者数は現在の10倍、1万人くらいに膨れ上がっても不思議ではないでしょう。

──恐ろしいですね。

鈴木 1万人という数字だけ聞くとそう思われるでしょう。しかし、季節性インフルエンザに関連する死者数も年間で約1万人(推定値)です。自動車事故による死者は年間3000人強ですが、昭和の時代には1万人を超えていました。にもかかわらず、インフルエンザ罹患者を隔離せよとも自動車をなくせともならない。その視点で考えれば、なかなか伝わりにくいのですが、私は経済を優先させるべきだと思います。

今が構造改革のチャンス

──今後、どのような社会が予想されますか。

鈴木 まず国民全体の所得が減少します。これが一つ。二つ目は「新しい日常」つまりソーシャルディスタンスをベースとする社会となります。そして三つ目には、データやデジタル技術を活用した変革、いわゆる「デジタルトランスフォーメーション」がより進みます。この三つの変化をうまくとらえて対応できたところに生き残りのチャンスが生まれます。

──具体的には?

鈴木 国民の所得が減ると家電製品や自動車などの耐久消費財、住宅、旅行などに買い控えが起こります。これらはすべて所得弾力性が高いからです。
 それから、新しい日常に関しては、出張や宴会が減り、宿泊業や飲食業は厳しい。閉店や廃業が増えます。
 デジタルトランスフォーメーションについては、もちろん新たな需要を喚起する部分もありますが、良いことばかりではありません。デジタル化の進捗(しんちょく)によって効率化される分、仕事がなくなる企業が出てきます。あるいは、新しい日常とも重複しますが、オンラインでの打ち合わせが一般化すれば、移動手段である公共交通機関などの交通網がいらなくなるし、宿泊施設やビジネスに使用する喫茶店や飲食店などもニーズがなくなります。

──そのような悲観要因を認識して対策を打つことが必要だと……。

鈴木 我慢していればいずれ元に戻ると考えるのは明らかに間違っています。今回のコロナ騒動によって、キャパシティー(供給能力)が過剰となってしまった業種業界が大量に出現しています。まずは、自らの会社の経営資源が現在の市場規模に合致しているのかを冷静にリサーチしてみてください。おそらく、多くの企業でキャパシティーが余るはずです。それを可能性のある別の分野に移していくダイナミズムが求められているのだと思います。

──一方で「新しい日常」にはプラス要因もあるように思います。

鈴木 会議や出張を減らすことで、当然コストも減ります。現在の状況では、訪問を減らしたからと言って「けしからん」と怒るクライアントはありません。知らず知らずのうちに体質がスリム化し、構造改革が進むというケースが増えています。企業にとって一番重要なことは利益を出し続けることです。新型コロナで日本全体の経済需要が冷え込むなか、体質のスリム化によるコスト減が対策としてはもっとも効果が高い。そのことを意識して経営に当たることが求められるでしょう。

突破口をつかむ方法

──中小企業経営者は今後どうすればよいのでしょうか。

鈴木 繰り返しになりますが、まずは自らの業種に対する市場からの需要がどの程度なのかをしっかりと把握することです。飲食業や宿泊業は明らかに供給過剰ですよね。でも電気やガスはほとんど変わっていませんし、生活必需品を扱う企業など逆に好調のところもあるほどです。需要量を正確に測り、現在の市場における自社の適正なキャパシティーを考えてみてください。もし、需要が減っているのなら、撤退や閉店の検討をするべきです。次に、要らない仕事やモノを見つけ出して、デジタル技術を使うなどして順次つぶしていってください。さらに、そのキャパシティーの縮小や効率化などで余ったお金と人を、新たなビジネスチャンスに振り向けることができれば、突破口がつかめるかもしれません。

──具体的な事例で説明してもらえますか。

鈴木 飲食業を例にとってみましょう。現在、飲食は、リモートワークによって圧倒的に都心のオフィス街の需要が減少しています。一方で住宅街はそれほど減ってない。なぜなら在宅するサラリーマンが増えたからです。たとえば、都心に5店舗、郊外に15店舗計20店舗を展開する飲食店があったとすると、都心に展開する5店舗の全店あるいは何店かを閉店すべきです。そして余力を郊外立地の店舗に振り向けるか、あるいは新たな事業に乗り出してもよいでしょう。都心は地価が高いので、固定費の削減にもなります。
 それから、先ほどの「要らないものをデジタル技術でなくす」という観点で言えば、メニューなども候補にあがります。現在、中国の都市部では店舗からメニューが消えつつあります。テーブルに表示されているQRコードを読み取り、自らのスマホで閲覧し、注文まで行うことができます。日本ではタッチパネルを採用する店舗が増えてきましたが、これでは不十分です。タッチパネルのコンテンツをQRコードによってスマホに取り込めるようにすべきです。
 さらに、新たに参入すべき成長分野ですが、飲食の場合、これはもう圧倒的にデリバリーです。街を歩けばウーバーイーツだらけ。いま、デリバリーに着目しない飲食店経営者がいるとすれば、それは怠慢以外のなにものでもないでしょう。しかし、個店はともかく、多店舗展開する中小の飲食店でデリバリーの仕組みを一からつくるのは簡単ではありません。そこで、閉店や効率化で余った力をその仕組みづくりに振り向けるのです。

──少し明るい光が見えてきそうです。

鈴木 いずれにせよ、飲食店に限らず中小企業経営者は、新型コロナを奇貨として構造改革に取り組むことです。ただ我慢しているだけではダメ。私は、今回の騒動によって苦しむ業界がある一方で、新型コロナをバネに業績を向上させる企業も続出するのではないかと考えています。

(インタビュー・構成/本誌・髙根文隆)

掲載:『戦略経営者』2020年10月号