ペーパーレス化の観点から、社内文書の脱ハンコ化を進めたいと考えています。進め方や注意点について教えてください。(電気工事業)

 脱ハンコを検討する際には、「社外契約」と「社内承認」が対象となります。

 この二つのケースで脱ハンコの難易度が高いのは、言うまでもなく社外契約です。顧客や取引先が紙面での契約を望んでいる場合に、脱ハンコして電子契約に置き換えることは現実的ではありません。一方で、社内承認については、脱ハンコに切り替えることは比較的に容易で、かつあまり費用をかけずに推進できます。

 紙を印刷してハンコを押印するというプロセスは、用紙と時間を費やします。また、ウィズコロナにおいて、社内承認のためだけにリモートワークを中断し通勤時間が発生しているとしたら、仕事の生産性を低下させる原因になります。

阻害要因は「思い込み」

 比較的に難易度も低く、リモートワーク状況下でメリットが享受できる社内承認の脱ハンコを阻害している要因の一つは、紙とハンコが無いと承認作業が進まないという思い込みです。この壁を打破するためには、社長が社内承認に関して、脱ハンコをすると決断する必要があります。

 このことを踏まえて、社内承認の脱ハンコの具体的な方法について、二つご紹介します。一つ目は、メールを使用する方法です。承認者が複数いるような場合に有効です。

 ①依頼者が承認依頼メールを作成
 ②承認者が確認し、承認の旨を返信すれば承認
 ③承認の証跡が必要な場合には、後日承認依頼メールと承認メールを紙で印刷して保管

 承認自体が、メールベースとなるため、リモートでも承認可能で、後続作業が滞ることがありません。

 社内承認の脱ハンコのもう一つの方法は、電子印鑑を活用する方法です。電子印鑑とは、ハンコの印影を電子化したものです。ここでは、印影データにタイムスタンプ等の使用者の識別情報が含まれていない、単純な印影の電子データを想定しています。次のようなプロセスが考えられます。

 ①依頼者が承認依頼ドキュメントをワード等で作成
 ②依頼者が共有フォルダに承認依頼ドキュメントであるワード等のファイルを保存
 ③特定のタイミングで承認者が承認依頼フォルダを確認
 ④承認者が電子印鑑を張り付けしPDFで保存
 ⑤承認者が承認済みフォルダにPDFを格納

 承認すべきドキュメントが比較的に多くあり、かつ一定のタイミングで承認することが必要な場合には、こちらの電子印鑑と共有フォルダで承認を進める方法が有効かもしれません。

 どちらの方法を採用する場合においても、承認の目的を見直して、紙で行う必要性が本当にあるのかを検討することが第一歩となります。また、どちらも法的要件がない社内承認プロセスの脱ハンコを想定しているので、法的要件がある場合などは、自社の状況に応じて承認プロセスを作り上げていくことが必要となります。

掲載:『戦略経営者』2020年10月号