リモートワーク化時代を見据え、当社もデジタル化を推進したいと考えています。電子契約に興味があるのですが、基本的な概要と導入する際の注意点について教えてください。(人材派遣業)

 電子契約は、これまでの紙で行っていた契約書の締結や管理のデジタル化を実現するシステム/サービスです。紙の契約書では、印刷・製本、押印、封入までの作業に時間と手間がかかるうえに、収入印紙や郵送などのコストが発生します。それが電子契約では、サービス利用料はかかるものの、これらの業務時間やコストを削減できます。

 加えて、電子的に保管された契約書は検索が容易であり、原本の紛失や改ざんのリスクも低減されることから、コンプライアンスの強化につながる点もメリットとなります。さらに、コロナ禍におけるテレワーク環境でも、契約業務が行える環境を整備しようとする企業が増加しています。こうした背景から、国内の2018年度の電子契約サービス市場は、前年度比83.5%増の36億7000万円とアイ・ティ・アールでは推計しており、19年度も同70.0%増と引き続き急成長を維持し、23年度に200億円に迫ると予想しています。

 電子契約サービスの多くは、作成した契約書取引先との交渉や承認、そして電子署名や署名された後の契約書をクラウドストレージへ保管・検索する機能までを対象とするものが多くなっています。具体的な機能としては、一般的に図表のような7つのステップが中核となっています。

 電子契約では、契約書に単にサインや電子印影を追記するだけではなく、認証局で発行される電子証明書が付与されている電子署名によって、本人性が担保されるため法的効力が高まるとされています。この本人性の確認において、自社と取引先の双方が電子証明書を取得し電子署名を施すタイプと、電子契約サービス事業者が取得した電子証明書により、自社・取引先が電子署名を行う立会人型の大きく2つに分けられます。

 また、タイムスタンプを利用することで、電子契約書の作成者や作成日時が証明され、改ざんの検知や監査証跡が可能になるため、法的な有効性が高められます。通常、電子署名の有効期限は1~3年ですが、タイムスタンプを付与することにより10年、さらに新しいタイムスタンプを付与することで、20年、30年と延長でき、長期保管が求められる契約書にも対応できます。

 電子契約の留意点として、定期借地・定期建物賃貸借契約やマンション管理業務委託契約など、書面での契約が法律で定められている契約類型が存在する点があげられます。ただし、国も電子化を推進しているため、今後の規制緩和が期待されます。

 現時点での最大の留意点は、取引先が電子契約に応じてくれるか否かです。しかし、一気にすべての契約書を電子契約に移行するのではなく、グループ企業間など限定された範囲から電子契約を展開していくことでもメリットは享受できるため、「電子化できない契約書があるから」とか「電子契約に応じてくれない取引先があるから」といった理由で、導入を諦める必要はありません。

掲載:『戦略経営者』2020年9月号