長野市の郊外で地域密着経営を貫く森下商会。創業して70年近くになる自動車整備工場だ。二人三脚で経営に当たる森下康正社長、都子(とこ)夫妻は昨年、経理業務を抜本改革し、管理体制の強化に乗り出した。夫妻と竹内良輝顧問税理士に業務の内容と財務戦略について話を聞いた。
地域密着型経営で「過疎化」に打ち克つ
──創業が1952年と、とても古い会社ですね。
森下康正社長
森下社長(以下社長) 祖父がこの地で自転車店をはじめ、父が継いだころからバイク、自動車の整備を手がけるようになりました。
──モータリゼーションの波が押し寄せる前です。
社長 自動車整備業者としてはかなり早い開業だったようで、その後、1966年に「認証工場」を取得しています。車を持っている人も少なかったでしょうから先見の明があったということでしょうか。
──社長ご自身は?
社長 私は、高校卒業後に自動車整備の専門学校で2級整備士の資格を取得。その後、長野トヨタに就職し、自動車検査員の資格をとらせていただきながらトータルで8年間在籍した後、89年にこの会社に入り、専務を経て2006年に社長に就任しました。
──業容を教えてください。
社長 車検、定期点検、一般整備、車販(新車・中古車)、自動車保険と総合的に手掛けています。もっとも売り上げが大きいのが車検で、次が一般整備でしょうか。ただ、当地はとくに過疎化による人口減少が顕著で自動車の絶対数が減少していますから、最近では、それを補うために定期点検や車販、保険の拡販に力を入れるようにしています。
──強みは?
社長 徹底した地域密着の姿勢です。車検の扱い数は年間約400件。この数字をベースにしながら、次回の車検はもちろん定期点検などほかの業務にリピーターとして戻ってきてもらう取り組み、つまり「車検防衛率」の向上に力を入れています。具体的には、メカニックの技術力の向上をはじめ、案内はがきの送付などのマーケティング展開や接客技術の修得などです。それから、約50年前から一定以上の整備設備を持ち、検査の資格を持った自動車検査員を置くことを条件とする「指定工場」であることも強みのひとつでしょうか。当社の商圏内では、8社の競合他社が存在しますが、公の試験場に車を持ち込むことなく最後まで手続きを完結できる指定工場は3社のみ。そこがユーザーの支持を得ている要因の一つでもあると思います。
──メカニックや接客の技術力向上にはどのように取り組んでおられますか。
社長 オン・ザ・ジョブトレーニングのほか、全日本ロータス同友会(ロータスクラブ(※))の研修なども利用しています。
※全日本ロータス同友会(ロータスクラブ)
自動車整備業者の組織として1975年1月に設立。自動車整備業界の近代化、社会的地位の向上、さらには法定需要依存体質からの脱皮など、新しい業界づくりの理想を掲げてスタートし、1社ではできないことも全国の同友(約1600社)が結束する事で成長してきた。
──ロータスクラブの研修会とは。
社長 メカニック向けに「ロータスサービスアドバイザー」研修・認定制度、接客技術の向上には「フロント研修」が開講されているので、それらを利用しています。当社は5名のメカニックがいて、機会をとらえては、これらの研修に参加させています。
──社長ご自身のロータスクラブ入会は?
社長 10年ほど前でしょうか。先代が入会していたのでそれを引き継いだ形です。数年前には販売事業部長をつとめたこともあります。春夏秋と3回行われる全国一斉キャンペーンでは、一流メーカーや保険会社のサポートを受けながら拡販のきっかけをつくることができるし、支部例会などへ参加することで、同業他社の生の状況を知ることができ、とても参考になります。
金融機関のダメ出しをきっかけに大転換
──竹内良輝先生とのご関係は?
森下都子さん
森下都子さん(以下都子さん) 税務顧問に就任いただいたのが5年ほど前でしょうか。それまでは、金融機関に試算表をもっていっても内容に不備が多く「これではちょっと……」などと苦笑される始末でした。そこで、きちんとした経理体制をつくろうと、ある会社に竹内会計事務所を紹介してもらいました。すると、税理士さんへ丸投げしていた状況から、「自社で行う経理作業」へと転換しなくてはならなくなり、覚えることが膨大で最初は大変でしたね(笑)。竹内先生自ら頻繁に来社いただいて手取り足取り教えていただきました。ありがたかったですね。
竹内税理士 私は細かいですから(笑)。ほどなく『FX2』も導入しましたが、基本修得のために最初は手作業からです。それこそ領収書の貼り方から指導しました。それまでの経理が大雑把だったので修正するのが大変でしたね。
──その後、TKC会計・給与パッケージ(『FX4クラウド』『PX2』など)を導入されたのは、昨春、ロータスクラブの長野支部例会でTKCの担当者からの説明を受けたことがきっかけだったのだとか。
都子さん その前段の話があって、一昨年の決算で、大幅に経理作業が遅れてしまって、申告期限に間に合わなくなりそうになったのです。竹内事務所の協力を得てなんとかことなきを得たのですが、冷や汗ものでした。理由は、自動車整備業者用の業務ソフト「ブロードリーフ」から数字を拾ってきて打ち直すという面倒な作業に忙殺され、月次の数字を締めるのが4、5カ月遅れてしまっていたことでした。なにしろ月間1000枚以上の伝票があり、しかも自動車関連の仕訳は独特で、たくさんの勘定科目が絡み合っているので大変な作業量になるのです。そこで竹内先生のところに「何とかならなりませんか」と相談し、TKCの担当者の方を紹介してもらったというわけです。
──で、どう解決されたのでしょう。
竹内良輝顧問税理士
竹内税理士 まず『FX4クラウド』を導入して、それから「ブロードリーフ」と連動させました。TKCの担当者に頻繁に来ていただきながら、ブロードリーフのデータを分析し、仕訳のための科目を一致させ、2カ月ほどで連携にこぎつけました。いまでは月次決算は完全に遅れを取り戻し、翌月には締めることができるようになっています。
都子さん 当時、つなぎの運転資金を借りるために金融機関にうかがっても、見せる試算表が3、4カ月前のものですから、「もっと新しいものはありませんか」などと言われてしまっていました。データ的にはきちんとしたものなのですが、数字が古いので参考にならないというわけです。とはいえ、仕訳に手間取り、月次決算を仕上げるのに3週間もかかる状況では早めるのは無理です。別の仕事もあるわけですから。それだけに、ブロードリーフから『FX4クラウド』への連携が完成したときにはうれしかったですね。気持ちがとても楽になり、おかげさまで昨年の決算は大変スムーズにいきました。
──金融機関からの反応は変わりましたか。
都子さん 何にも言われなくなりました。かといって、お褒めの言葉もいただけていませんが……(笑)。
──今後はいかがでしょう。
竹内税理士 経理面で言えば、部門別管理を実践していきたいですね。経理の早期化に満足することなく、車検、定期点検、一般整備、車販、保険と5部門別に損益を出し、経営戦略に生かしていただけるデータ提供ができればと思っています。
社長 確かに、月次データの経営への活用は今後の課題です。それと、本業に関しては、コロナの影響で車販が振るわず、車検もローテーション的に今年は少ない年に当たっていて、厳しい状況です。業界全体としては、とりあえずは横ばいが続くと思っていますが、当社の商圏はせいぜい1万人。典型的な過疎地なので、どうやって売り上げを上げるかに頭を悩ませています。とりあえずは今夏のロータスクラブの特別キャンペーン「夏の同友販売支援月間」を有効活用して売り上げを底上げしたいと考えています。
──承継者は?
社長 息子がまだ高校生なので、はっきりとしたことはわかりません。ただ、先代から70年近く、この地で操業してきた伝統ある会社なので、商圏を広げるアプローチを考えるなどしながら事業を継続していきたいですね。
(本誌・高根文隆)
名称 | 有限会社森下商会 |
---|---|
創業 | 1952年9月 |
所在地 | 長野県長野市信州新町新町962-2 |
売上高 | 1億5,000万円 |
社員数 | 10名 |
URL | https://morishitasyoukai.com/ |
顧問税理士 | 竹内良輝 竹内会計事務所 長野県長野市若宮2-4-8 |