新型コロナ感染症が「足で稼ぐ」というセールスの常識に風穴を開けたことで、新たな営業スタイルの確立が急務となった。有識者へのインタビューや企業の実例を通して、これからの時代にふさわしい営業活動のあり方を探る。

プロフィール
たかはし・こういち●東京大学経済学部卒業。外資系戦略コンサルティング会社を経て2011年にTORiXを設立。これまでの経験をベースとして上場企業を中心に50業種3万人以上の営業強化を支援。行動変容を促すアプローチにもとづき、年間200本の研修、800件のコンサルティングを実施している。主な著書に『人を巻き込む仕事のやり方』(ファーストプレス)、『無敗営業「3つの質問」と「4つの力」』(日経BP)。

 コロナ禍で顧客を訪ねる営業活動が制限されるなか、ウェブ会議システムを活用したオンライン営業を取り入れる企業が増えています。一方、画面越しの商談に慣れることができず、思うような結果を残せていないという人も少なくありません。実際に私のところにも「相手のリアクションが薄くコミュニケーションがうまくとれない」「ITに疎い顧客へのアプローチが難しい」といった類いの相談が後を絶ちません。

 このような人たちには実はある共通点が存在します。それは、オンライン営業を「訪問営業の延長」として捉えていること。訪問営業で培ったスキルやテクニックをそっくりそのままオンラインに応用できるわけではないのです。ウェブ会議システムをうまく活用して成果を出すためにも、オンラインに向いている状況・向いていない状況を整理し、それぞれの状況に適した手法を検討することが重要です。そのためにも、まずはオンライン営業のメリットとデメリットについてしっかりと理解する必要があるでしょう。

オンライン商談との相性

 まずメリットとして、「物理的制約を受けずに商談を進行できる」「画面共有機能を活用して効果的なプレゼンができる」「録画機能を活用して商談の振り返りができる」などの要素が挙げられます。オンラインであれば遠方の顧客でも手軽に商談できるので売り上げや商圏の拡大が期待でき、自宅や職場を離れる必要がないので、交通費や移動時間が一切かからないこともオンラインならではの強みと言えます。

 さらに、画面共有機能を使ってリアルタイムで議事録を作成・回覧したり、録画機能を使って商談の振り返りに生かすといったように、ウェブ会議システムの特徴をうまく活動に落とし込む例も多く見られます。例えば、若手社員の商談を上司や先輩が視聴し、アドバイスやフィードバックを行うという使い方をしている企業もあります。

 デメリットとしては「熱意や気持ち、感情といった非言語コミュニケーションが伝わりにくい」「打ち解けていない顧客と円滑に商談が進められない」「ITリテラシーに起因するハードルの高さ」などが挙げられます。実際に営業職の人たちに話を聞いてみると、新規顧客との関係構築に頭を悩ませており、非対面でどのように関係を深めていくかが課題として認識されているようです。

 そのほか、「商談の参加者が多く仕切りが難しい」「商談が長時間におよびお互いの集中力が途切れてしまう」といった悩みの声もよく耳にします。

 これらを整理すると図表1(『戦略経営者』2020年8月号P12参照)のようになります。各項目の4象限のうち右上がオンライン営業に向いている状況、左下が向いていない状況です。すなわち、①ITリテラシーが低く情緒的なコミュニケーションを得意とする顧客②高価格で感覚的な要素を訴求ポイントに持つ商材(不動産や高級家具など)③大人数かつ長時間に及ぶ商談、の三つの状況がオンライン営業には向いていないと言えます。

 ただし、このような状況でも工夫ややり方次第で充実した商談に持ち込むことができます。ではどのような工夫を施せば良いか。これを知るには、オンライン営業を「三つの視点」に分けて、それぞれの視点から対策を練る必要があります。

電話・メールを併用

 オンライン営業で成果をあげるために必要な視点とは①「対面だからこそできていたこと」をオンラインで実現する②「対面でもオンラインでも変わらず必要なこと」を心得つつオンラインで実践する③「オンラインだからこそできること」を活用して商談の質を向上させる、の3点です(『戦略経営者』2020年8月号P12図表2参照)。

 まず①の視点について見ていきましょう。新規顧客との商談や熱意や感情を前面に押し出したコミュニケーションは対面だからこそできることで、これをオンラインに置き換えることはきわめて難しいです。従って、このような場合にはウェブ会議システムだけでなく、電話・メールといったコミュニケーションツールを幅広く活用することをお勧めします。あらゆるツールを併用することは1回あたりの商談の時間を短くすることにもつながり、個別連絡であれば電話やメールの方が圧倒的に使い勝手がよいです。商談のすべてをウェブで開催する必要はありませんし、簡単なヒアリング程度であれば電話の方が手軽にできます。何より、相手によっては電話やメールの方が操作に慣れている場合もあるので、「何が何でもウェブ会議システムを使う」という固定観念は持たずに、状況に応じてツールを使い分けるのがポイントです。

 相手の要望等でどうしてもウェブでやらなければならない場合には、説明はできるだけ小分けにし、適宜質問を投げかけるようにしてください。このとき、「なにか悩んでいることはありませんか」といった抽象的な問いかけではなく、「この1カ月間での課題は何だとお考えですか」などのような具体的な質問を投げかけるようにしましょう。

 続いて②の視点です。対面とオンラインのどちらの状況でも「事前準備」が商談の行方を左右します。とりわけオンラインの場合には、ウェブ会議システムがきちんと動作しないことには商談を進められないので、自分の携帯電話番号などを事前に共有し、起動や接続がうまくいかない場合でもすぐにフォローできる態勢を整えておく必要があります。

 また、対面営業では資料作成、営業トークの確認などの準備をしっかりと行い、万全の状態で商談に臨むことが一般的ですが、オンライン営業の場合はあえて「ほどよいツッコミの余地」を残しておいた方が商談がうまくいく場合があります。詳細は後ほど説明しますが、例えばオンライン営業で用いる資料は対面のときと比べて8~9割程度の内容が網羅できていれば良いでしょう。

 とはいえ、商談のクオリティーを下げてはいけませんので、対面・オンライン問わず事前準備をしっかりと行うことに変わりはありません。

ツッコミの余地を残す

 最後に③の視点です。オンラインだからこそできることとして「顧客と同じ画面を見ながら商談ができる」「商談の内容を資料にリアルタイムで反映できる」などがあります。

 ここでお勧めしたいのは資料をワードやパワーポイントの「編集モード」といったリアルタイムで書き込み・編集ができる形式で画面共有すること。提案内容にツッコミの要素を残しておけば顧客の反応を引き出すことができ、それらの意見を適宜資料に書き込むことでさらに議論が盛り上がるという好循環が生み出せます。オンラインでは参加者一人ひとりが孤独になり、商談も淡々と進みがちなのであえて提案内容に〝隙〟をつくって顧客を巻き込む〝二人三脚〟タイプの商談が有効です。

 これら三つの視点を一般的な商談プロセスに落とし込むと図表3(『戦略経営者』2020年8月号P13参照)のようになります。従来の商談が「簡単な商品説明とニーズのヒアリング」「担当者へのプレゼン」「決裁担当者へのプレゼン」の3段階を経るような場合、オンラインのデメリットを小さく、メリットを大きくするためにプロセスをそれぞれ分解します。例えばオンラインに向いていない初期商談は電話やメールを活用することで関係の構築と簡単なヒアリングを行い、本格的な商談は一度に長時間にならないよう複数回に分けて開催する。特に中盤では、相手の意見やアイデア等を交えながら二人三脚で商談をつくり上げるように意識しましょう。

 商談の場以外の振る舞いも重要です。常に顧客との接点を保っておくために電話やメールを活用してこまめに連絡を取るように心がけましょう。対面・非対面問わず、商談の場以外のアプローチに精力的な人は抜きんでた結果を残していることが多いようです。

 このようにコロナ禍が生んだ状況も考え方や工夫次第では大きなチャンスになります。オンライン営業でしっかり成果を挙げるためにも、自社の営業プロセスを分解し、それぞれに適した営業手法を検討することが大切です。

(インタビュー・構成/本誌・中井修平)

掲載:『戦略経営者』2020年8月号