新型コロナウイルス対策として、希望する従業員に自転車通勤を許可しました。しかし東京都では自転車保険の加入が義務付けられているようです。どう対応したらよいでしょうか(家具・建具卸売業)

 自転車保険の加入は、2015年10月に兵庫県で義務化されて以降、義務化の流れが広がっており、現在、全国28の自治体で義務化ないし努力義務化されています。東京都では2020年4月の条例改正で、都内で自転車に乗る人すべてが自転車保険加入を義務付けられています。

 自転車は世代を問わず生活に密着し幅広く使われていますが、自転車事故で他人をケガまたは死亡させた場合の賠償責任は自動車事故の場合と同様です。自転車の安全な利用への対策が社会的な課題となっています。

 2008年に神戸市内で小学生の少年が、夜間に自転車で帰宅途中、歩行中の女性と正面衝突しました。女性は頭蓋骨骨折等で意識不明の重体となり、2013年に神戸地裁は少年の母親に約9500万円の賠償を命じました。この判決は社会的に大きなインパクトを与えましたが、その他にも、自転車事故での高額賠償を命じる判決は相次いでいます。

 ご質問にある「東京都自転車の安全で適正な利用の促進に関する条例」は、2013年7月に制定され、自転車保険加入義務化は今年4月の改正によって追加されました。

 条例では、都や市区町村、自転車利用者、一般事業者などに対して、保険加入、情報提供、研修・講習の実施などの義務ないし努力義務を規定しています。保険加入については、他人の生命・身体への損害賠償保険の加入が義務、他人の財産の損害賠償保険の加入は努力義務となっています。

 自転車通勤をする従業員がいる場合、自転車損害賠償保険等の加入状況を確認することが努力義務になっています。もし未加入の場合は、保険の加入について情報提供を行いましょう。

 保険に加入しているかどうか分からないという従業員には、自転車に付いている「TSマーク」の確認を行います。点検日から1年以内のTSマークが貼られている場合は自転車保険に加入しています。ただ赤色のTSマーク付帯保険は保障の限度額が1億円ですが、青色のものは限度額1000万円と保障が大きくないので注意が必要です。また自動車保険、火災保険、障害保険の個人賠償責任補償特約、クレジットカードの付帯保険などで自転車事故での賠償責任をカバーしている場合もあります。こういった情報を従業員に提供して、未加入の場合は加入を促す対応をとることになります。

 以上のような通勤利用の場合の保険加入は本人が行いますが、業務利用の場合(自転車を使って事業活動を行っている場合)は、事業者自身が事業用の賠償責任保険に加入する義務があります。

 この他自転車通勤者が駐輪場を確保できているかを確認することが会社の義務、自転車安全利用推進者を選任、安全運転研修の実施等が努力義務となっています。都の条例に罰則規定はありませんが、従業員の通勤途中の自転車事故では会社が使用者責任を問われることもあり、また、会社が義務や努力義務を怠っていることで、道義的責任を問われたりすることも考えられますので注意が必要です。就業規則等の関連規定の整備も必要になるでしょう。

掲載:『戦略経営者』2020年8月号