一時のブームが沈静化し、やや停滞気味だった3Dプリンター市場に動きが出てきた。2013年から3D関連の事業を手掛けるベンチャー、アイ・メーカーの原田逸郎社長は、急成長への手ごたえを感じている。原田社長と白庄司英明顧問税理士、山谷功監査担当(白庄司会計事務所)に話を聞いた。
──3Dプリンターの足もとの市況は?
原田 良いと思います。本格的な拡大期が迫っていると考えています。製法や造形技術に関する特許が次々に切れ、併せてメーカーの製造スキルも飛躍的に向上しているからです。最近では1台数十万円のデスクトップタイプの3Dプリンターでも造形精度が向上し、品質も安定してきました。今後さらに市場が拡大することが予想されます。
ウェブで顧客を呼び込む
──早くから3Dプリンター関連のビジネスを手掛けておられます。きっかけは?
原田逸郎社長
原田 3Dプリンターを使用することで、ものづくりのプロセスが大きく変わります。クラウドで設計情報を共有化し3Dプリンターを使用すれば、より効率的で、より良いモノを生み出せる環境が整います。それにより多くの企業の競争力強化や、価値ある製品を生み出すお手伝いができると思い、2013年に起業して、3Dプリンターの情報サイトを立ち上げました。しばらくは、造形材料の販売、ウェブメディアの制作などを行い、16年くらいから3Dプリンターそのものを本格的に販売するための準備に取り掛かりました。
──昨年から、3Dプリンターメーカーであるフォームラブズ(Formlabs)社の販売代理店として本格稼働されたのだとか。
原田 9月にリリースされ年末に初出荷される「Form3」という製品が優れもので、既に多くの企業や個人さまから引き合いをいただいています。デスクトップタイプでありながら産業用のクオリティを実現した3Dプリンターとして、製造業に限らずさまざまな業界での使用が期待されています。
月間20万PVのホームページ
──どのような販売戦略を?
原田 当社の最大の強みは、まだ分かりにくい3Dプリンターに関する知識と情報を、どこよりも詳しく分かりやすくユーザーに提供できることです。その結果として、現在自社サイトには月間で約20万PVのアクセスがあります。こうした信頼性の高いコンテンツをお届けすることで、お問合せや造形サンプル、テストプリントのお申込みをいただき、購買につなげています。
──「Form3」とはどのような商品なのですか。
原田 全世界で5万台以上の導入実績を誇る「Form2」の後継機です。光造形という方式のプリンターで、価格や安定性などそのクオリティーは従来のものに比べて段違いに高いと評価されています。これまでデスクトップタイプの低価格3Dプリンターは、品質や安定性の部分でコントロールがとても難しかったのですが、Form3はこの二つの課題を解決した革新的な3Dプリンターといえます。当社でも大学や研究機関、製造業やデザイン会社などの企業、そして個人と、さまざまな方面からの引き合いがあります。
積層跡が目立たない滑らかな表面
──どのような用途に?
原田 製造業では試作品はもちろん、治具や工具、一部最終品にも使用されるようになっています。それほど精密度と強度が向上しているということです。あとは、指輪などのジュエリーや時計といった鋳造品のワックスモデル、あるいはフィギュアなどの制作にも利用されています。あの海洋堂さんも活用されているようですよ。
「これぞプロ」の決算書
──白庄司税理士事務所との関係は?
原田 地元の信用金庫に融資の相談で訪れた際、担当者から「もっとちゃんとした決算書をおつくりになった方がいいですよ」といわれ、白庄司先生をご紹介いただきました。当時は、良い決算書と悪い決算書があることさえ知りませんでした(笑)。市販の会計ソフトを使って、ほんの数ページの決算書を作っていただけなので、白庄司事務所の指導による70~80ページにわたる決算書を見たときは「これぞプロ」と感心しました。
──会計ソフトは?
白庄司英明顧問税理士
白庄司 決算のご依頼をいただいたのが関与のきっかけだったのですが、会社設立以来、原田社長ご自身が他社クラウド会計ソフトに入力していた仕訳データを『FX2』の他社仕訳読込み機能を使って読込み、最初の決算からTKCシステムによる一気通貫の決算をしています。
──白庄司事務所の関与によって、何が変わりましたか?
原田 まず金融機関からの信頼感が違います。決算書の記載内容が充実しているらしく、融資を受けている金融機関の担当者に喜ばれています。
白庄司 原田社長は会計の重要性をよく理解されているので記帳が遅れることがなく、「記帳適時性証明書」(P65参照)にはほぼ全て「◎」が付いています。そんなところが評価されているのではないでしょうか。(書面添付制度にもとずく)添付書面の記載を充実させていることも評価されているかもしれません。
──『FX2』の活用で変わったことはありますか?
原田 以前は税務署に提出するだけのために帳簿に入力していましたが、『FX2』により経営判断の材料として会計データを使えるようになりました。
山谷功監査担当
山谷監査担当 『FX2』には経営計画策定ツールである『継続MAS』から予算データを取り込む機能があるので、予算と実績を比較できるのが良いですね。さらに『マネジメントレポート設計ツール』を使って、エクセル上で経過済みの月の実績値と未経過の月の予算を横並びにして推移を見たり、予算値をエクセル上で上書き修正して着地予想を見直したりしています。
──経営計画の活用は?
原田 緻密な財務管理に基づく経営計画の策定によって、データを具体的な営業活動に落とし込めるようになりました。たとえば、問い合わせの数と成約の数を予想して、売り上げや利益計画を立てるといったようなことですね。
白庄司 計画を立てる際には、販売数量や単価、販売方法、仕入れ単価や方法、実現のために必要となる要員やその教育、設備、スペースなどを原田社長に質問します。それにより、戦略を実行するためのイメージが社長の頭のなかで明確になる効果が期待できるのでは、と思っています。
高精彩で精密なデティール
──部門別管理は?
山谷 ウェブ制作、3Dプリンター(製品販売)、プリントサービス(3Dプリンターによる成型サービス)の3部門に分けて管理しています。
原田 部門別に分けることで、具体的に動けるようになった部分があります。ウェブ制作と物販の区別がつかないデータだと、実際、営業活動の根拠にすべき数字としては、あまり役に立たないのではないでしょうか。その意味では、とてもありがたいですね。
より細かいニーズに対応していく
──これからが勝負ですね。
原田 はい。市況も良いし、今はやる気に満ちている状況です。今後は、ユーザーのニーズにどれだけ緻密に応えられるかが勝負だと考えています。そのためには、3Dプリンターを産業用にまで広げる形で機種をそろえ、ユーザーにあった最適なものを提供できるようにしていきたいですね。あわせて、プリントサービスにもより力を入れていき、中小メーカーの外注ニーズにもこたえていく。3Dプリンター関連ならなんでも応えることができる総合サービス業を確立し、より細かいニーズに対応していきたいですね。
(本誌・高根文隆)
名称 | 株式会社アイ・メーカー |
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所在地 | 東京都調布市小島町2-54-4 |
売上高 | 約1億円(2019年度見込み) |
URL | https://i-maker.jp/ |
顧問税理士 | 税理士 白庄司英明 白庄司税理士事務所 東京都調布市布田1-26-10 URL:https://www.zeirishi-support.com/ |