消費税増税後、経営環境は厳しさを増していますが、今年も冬季賞与を支給したいと考えています。中小企業における相場を教えてください。(建設業)

 今年末の賞与は、年末賞与としては4年ぶりの減少が予想されます。

 背景には、企業収益の低迷が挙げられます。「法人企業統計調査」(財務省)によると、2019年の全産業(資本金1000万円以上、金融機関を除く)の売上高は、中国経済の減速や世界的なIT需要の鈍化に伴う外需の下振れに、円高の進行も加わり、2期連続の減収となりました。こうしたなかで19年4~6月期には、経常利益も、前年比▲5.0%と2四半期ぶりの減益となりました。

 さらに、先行き不透明感の高まりも賞与下押しに作用しています。中国経済の失速懸念、米中貿易摩擦の激化に伴う世界経済に対する悪影響への不安など、海外景気の腰折れ懸念が強まるなかで、賃金引き上げに慎重な姿勢が年初から強まりました。とりわけ外需減速の影響を受けやすい大企業では、年間の賞与支給ファンドを夏前までに決定する「夏冬方式」をとる企業が全体の8割にのぼるため、夏季賞与に続き、年末もマイナス支給となることが既に決まっている企業は少なくありません。

 加えて、上昇傾向にある所定内給与(基本給)が賞与を下押ししている側面も指摘できます。アベノミクスにより景気が上向いた当初、所定内給与は低い伸びにとどまっていました。固定費用となる基本給よりも、業績に応じて変動させやすい賞与を上乗せする企業が多かったためです。しかし、人手不足の深刻化を背景として、18年ごろから所定内給与を引き上げる動きが強まりました。19年度(4~9月平均)には、パートタイマーを除く一般労働者の所定内給与は、実に22年ぶりの伸びとなる前年比+1.0%に達しました。この動きが賞与には下押しに作用しています。

 これらの点から、今年末の賞与(厚生労働省、従業員規模5人以上ベース)は、全体では前年比▲0.8%と夏季賞与の▲1.4%に続き、マイナスとなる見通しです。

中小企業では▲1.5%程度

 以上は全体的な動きですが、中小企業では、より厳しい経営環境にあることを反映して、平均よりマイナス幅がやや大きくなる見込みです。

 実際、景況感を企業規模別にみると、日銀短観9月調査の業況判断DIは、大企業が13ポイントの「良い超」であるのに対し、中小企業は同5ポイントにとどまっています。さらに先行き(3カ月後)については、大企業が8ポイントの「良い超」に踏みとどまっているのに対し、中小企業では、▲3ポイントの「悪い超」に転じています。

 中小企業では消費税増税のコスト転嫁が大企業より遅れる傾向がこれまでもみられたことから、景況感は一段と悪化している可能性があります。ちなみに、前回の消費税増税からほぼ1年後の15年3月に、中小企業庁がおこなったモニタリング調査では、消費税を全て転嫁できていると答えたのは、従業員101~300人の事業者企業では90.1%、さらに、同6~20人では、85.9%にとどまりました。

 こうした点をふまえ、今年末の中小企業における賞与の伸び率は、平均を下回る▲1.5%程度になると予想されます。

掲載:『戦略経営者』2019年12月号