中小企業には「ペルソナ」を用いたマーケティングが向いていると聞きました。基本的な知識を教えてください。(飲食店経営)

 ペルソナとは、一言でいうと架空の顧客像です。従来のマーケティングでは、顧客を「層」として、年齢、性別、職業などの属性で捉えていました。一方、ペルソナは、顧客を「人物」として、属性のみならず、価値観やライフスタイルまでストーリーを通し具体的に捉えます。1999年にソフトウエアの分野で提唱されて以来、幅広い業種で導入が進んでいます。

 このお金をかけず、タダでもできる『ペルソナ』マーケティングを有名にしたのは、スープ専門チェーン「Soup Stock Tokyo(スープ ストック トーキョー)」です。同社の誕生のきっかけは「1998年、スープのある1日」という物語調の企画書でした。キャリアウーマンを主人公にしたペルソナに極めて近いマーケティング手法を活用し、2018年3月期には年間売上高100億7000万円(グループ総計)の会社に成長しています。

 中小飲食店の事例もご紹介しましょう。千葉市のビストロ「マイヨジョーヌ」は、34歳女性「田淵由紀」のペルソナを作成しました。「仕事は千葉大学の研究員。服装はナチュラルで、身近な人との会食を楽しむ……」といったストーリーです。そして、食べログのページやウェブサイトに簡単な修正を加えました。例えば、写真を大盛りの肉料理から、会食を想像させるワインとパスタに差し替えるなど、「田淵由紀」の価値観に合わせたのです。このわずかな修正で、食べログのアクセス数は前月の4倍、翌月のランチ客に30代のOLが増え、以後継続的にウェブ予約が入るようになりました。

 このように「刺さる」マーケティングを実践しやすいのが、ペルソナのメリットです。モノがあふれる現代、顧客の関心はコト(体験)やトキ(共有)に移りました。料理そのものに加え、店舗での体験や、仲間と共有することにお金を払っているため、飲食店は顧客の価値観を捉える必要に迫られています。「個」の時代では、同じ「30代・女性」でもさまざまな価値観があります。具体的な人物を想像すると、心を深く捉えやすくなるのです。

 また関係者で同じ顧客像を共有できるのも、ペルソナの大きなメリットです。店舗と顧客はウェブ、看板、チラシ、接客などいくつかの接点があります。店舗のあり方に一貫性を持たせるとブランドイメージは強固になります。

 一方、デメリットもあります。ペルソナを描くときに思い込みや店舗側の都合を優先すると、顧客の実態とかけ離れて刺さるマーケティングにつながりません。

 よって導入手順としては、まずはリサーチです。既存顧客や知り合いに聞いたり、ウェブやSNSの情報などから〝生態〟を探ります。そして、特徴を書き出します。次に、項目ごとにまとめ、箇条書きで「簡易ペルソナ」を作成します。項目は「ペルソナひな型」で検索してみてください。時間がなければ簡易ペルソナだけでもよいでしょう。それだけで成果を挙げている企業も少なくありません。最終的には、簡易ペルソナをもとに、名前、年齢、職業などを詳細に設定し、ストーリーを完成させればより確かなものとなるでしょう。

 ペルソナという二人といない人物にフォーカスすることで、商品やサービスが必然的に差別化されます。多大な費用と時間をかけずとも、競合と差別化し、新たな市場を作ることができる、中小企業にマッチしたマーケティング手法なのです。

掲載:『戦略経営者』2019年7月号