日本EU経済連携協定(日EU・EPA)により、ワインや焼酎などの酒類が輸出しやすくなると聞きました。制度の概要と活用メリットについて教えてください。(酒類卸売業)

 日EU・EPAは、日本とEUとの間で貿易や投資など経済関係を強化する目的で締結された経済連携協定です。

 2018年7月17日に両政府間で署名され、19年2月1日に発効しました。物品の貿易だけでなく、サービスや知的財産権などを含む全23章で構成される包括的な協定となっています。

 日EU・EPAの発効により、双方の工業製品にかかる関税が最終的に100%撤廃されるほか、EU向け農林水産物品等輸出でも牛肉、お茶、水産物等の輸出重点品目を含めほぼ全てで関税が撤廃されます。

 EUの輸入統計から算出すると18年には、日本のEU向け輸出で約3000億円の関税を支払っており、日EU・EPAを効果的に活用すれば、大きな関税削減効果と貿易の拡大が期待できます。

 実際にEU側の輸入統計をみると、関税率が下がった乗用車、二輪車、冷凍ホタテ、関税が発効と同時に撤廃となったしょうゆ、牛肉などの輸出額が2月以降伸びているなどの効果が表れています。

 一方、こうした特恵関税の恩恵を受けるには、日EU・EPAの規定に従って、日本産品と認められるための条件(原産地規則)を満たすことが必要です。第三国から調達した原料を含むEU向け輸出品は、品目ごとに定める条件を満たさないと「日本産品」と認められず、EPAによる特恵関税の適用が受けられません。日本からEU向けに輸出する品目が、無条件でEPAの適用を受けられるわけではない点に留意が必要です。

「自己申告制度」を採用

 これまで日本がアジア等の国々と締結してきたEPAでは、原産地証明方法として主に「第三者証明制度」が採用されてきました。事業者はEPAによる関税削減・撤廃の適用を受けるため、商工会議所に必要書類を提出、発給手数料を支払い、原産地証明書の発給を受ける必要があったのです。

 日EU・EPAでは、事業者が自ら原産性を満たしていることを申告する「自己申告制度」が採用されています。この制度では、原産地証明取得のための申請手続きや同証明書を取りに行く手間と時間が削減され、かつ発給費用も不要となることから、手続きと費用の両面で従来のEPAよりメリットが大きくなっています。

 関税以外では、酒類についてのEUにおける規制緩和・撤廃が盛り込まれました。国産ワインをEUに輸出するには、これまでEUのワイン醸造規則を満たす必要がありましたが、日EU・EPAの発効により、国税庁が定める「日本ワイン」の基準を満たせば、EU向け輸出が出来るようになりました。単式蒸留焼酎については、これまでEUにおいて700ミリリットルや1750ミリリットル等の決められた容量でしか流通・販売が出来ませんでしたが、日EU・EPAでは四合瓶(720ミリリットル)や一升瓶(1800ミリリットル)での輸出が可能となりました。さらに、日EU双方の地理的表示(GI)が相互保護されることになりました。神戸ビーフなど指定された日本の48農産品と酒類8産品がEU市場でも保護され、例えば、外国産の牛肉を「神戸ビーフ」と称してEU市場で販売することができなくなります。

 他方、10月末までにEUからの離脱を目指している英国についてですが、EUとの合意がないまま離脱すると、その瞬間から日EU・EPAの適用対象外となります。日本から英国向けに輸出し、日EU・EPAを利用している事業者は注意が必要です。

 ジェトロは、日EU・EPAの特恵関税利用のための解説書を含む各種情報を下記サイトで公開しています。ぜひご利用ください。

掲載:『戦略経営者』2019年7月号