パワハラ防止対策を法制化する動きがあると聞きました。いつ施行され、どういった内容になるのでしょうか。(印刷業)
パワーハラスメント(以下、パワハラ)による自殺をはじめ職場の人間関係による事件や訴訟などの報道を目にする機会が増えています。厚生労働省の調査でも、労働相談の中で「いじめや嫌がらせ」に関するものが急増しており、解雇や雇い止めなどの相談を大きく上回っています(※1)。
以前のような新卒一括採用・終身雇用を前提とした男性中心の職場と違い、現在は人材の流動化が進み、多様な人々が働いておりパワハラが起きやすい(表面化しやすい)職場環境になってきていると言えます。
このような状況のもと、パワハラ防止に向けた対策を義務化するために「労働施策総合推進法」(以下、推進法)の改正が審議されています(※2)。
推進法の概要は以下の通り。
①推進法ではパワハラを「職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上の必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されること」と定義しています。
②事業主の責務として、パワハラ防止のための適切な相談体制の整備や雇用管理上必要な措置が義務化されています。
なお、「必要な措置」の具体的な内容やパワハラの線引き、具体例などは今後、労働政策審議会での審議を経て、指針として示されることになっています。
また、労働者が相談したこと、および相談への対応に協力した者への解雇等の不利益な取り扱いが禁止されています。
③パワハラに関する労使紛争について、その解決援助等の規定が整備されています。
このほか、パワハラではありませんが、セクハラやマタハラ(マタニティハラスメント)等の防止対策の強化を目的に男女雇用機会均等法や育児・介護休業法の改正も予定されています。
なお、推進法は、早ければ来年4月から施行される見込みです。ただし、相談窓口の設置等の措置義務について、中小企業では3年程度の猶予期間が設けられます。
※1 平成29年度個別労働紛争解決制度の運用状況参照。
※2 推進法案は「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律等の一部を改正する法律案」(一括改正案)に含まれる。
対策の検討は早めに
今やパワハラは、行為者・被害者間の人間関係によるものとして片付けることはできません。今後は企業としてパワハラを発生させない積極的な取り組みが求められます。特に、パワハラ等を許さないとの企業方針の明確化、就業規則や懲戒規定等の整備・見直し、実効性のある社内研修(管理者向けやコミュニケーションスキルなど)や情報発信等の実施、被害者が相談しやすい相談窓口の設置など、企業の実情に沿った実施が必要です。
中小企業の場合、異動等によりパワハラ行為者と被害者を引き離すことが困難な場合もあります。また相談窓口といっても、社内だけでは対応に限界があるのも事実でしょう。しかしながら、パワハラ等による従業員の休職や退職、職場環境の悪化は、企業の業績や新規採用等にも大きく影響します。先行して取り組んでいる企業や外部専門家に相談しながら、早めに検討を始めることが重要と言えます。