中小製造業がひしめき、日本を代表するものづくり集積地帯として知られる大阪府東大阪市。同地で今年55期目に入ったのが、金属プレス加工や炉中ろう付け加工を展開するチトセ工業だ。中西啓文社長と顧問税理士の尾中寿氏に、『FX2』を活用した業績管理と資金繰りに与えた影響などについて聞いた。

自社開発の無線デバイスで新工場をIoTのモデルに

──事業の概要と特徴について教えてください。

中西啓文社長

中西啓文社長

中西 金属プレス加工、炉中ろう付け加工(ブレージング)、無線電子機器が3本柱です。売り上げの約7割を占める金属プレス加工は、金型の設計から試作、量産までの一貫受注できるのが強み。ハイブリッド車や電気自動車に搭載する金属部品や弱電部品関係など、どちらかというと中小物の精密部品のプレス加工を得意としています。
 二つ目のブレージングとは、水素ガスを満たした連続炉の中にアッセンブリーした製品を投入し、銅やニッケルで接合する特殊な加工技術です。水素ガス中で接合するので加工製品が酸化しない、1000度近い温度で接合し高強度を実現できる、毛細血管現象を利用するので微細な部品も接合できるなどの特徴があり、機械部品や内燃機エンジン部品向けの受注が多くなっています。この方法で接合加工を手がけている同業者は関西地方でも数えるほどしかなく、取引先は全国に100社以上あります。

──三つ目の無線機器事業は新規事業ですね。

「ログビー」

高い耐水性・耐久性が特徴の「ログビー」

中西 はい。受注加工だけでやっていくには製造業にとって厳しい時代です。自主経営力を高めるためにも何とか自社ブランドをつくりたいと考えて開発したのが無線データロガー「ログビー」です。温度や湿度、照度などの環境データを無線でパソコンなどに送信する小型・低消費電力のデータロガーで、高い防水性と耐久性があるのが特徴です。当初は農業用途を想定していましたが、国土交通省の新技術情報提供システム「NETIS」に登録したところ、コンクリート養生向けで販売実績が立つようになりました。品質の高いコンクリートを敷設するために、コンクリート中の水分や温度をセンサーでワイヤレス管理する建設会社が増えてきているようです。

──徹底した品質管理が評価されているとか。

中西 父が創業した当社は今期で55期目を迎えますが、創業から約40年は、テレビチューナー部品の製造とブレージングが中核事業で、北米地域などへの輸出も手がけていました。大口の取引先だったパナソニックがかつて下請け中小企業への教育に力を入れており、当社も同社の事業部長賞獲得を目指したり、合理化コンクールに応募したりするなかで技術力や品質管理力を磨いてきました。ISO14001や9001も取得するなど、パナソニックとの取引を通じて会社としての実力が鍛えられたと思っています。

──デジタルマーケティングにも力を入れているとか。

中西 2年前に自社ホームページを全面刷新し、本格的にデジタルマーケティングに取り組み始めました。自社製品のログビー専用ページを立ち上げたほか、初めてグーグル広告も出稿したのです。その結果ログビーについての問い合わせ件数が格段に増え、実際の受注にもつながっています。成果は自分たちもびっくりするほどで、あらためてデジタルマーケティングの威力に気づかされました。

──新社屋を建設中だそうですね。

新工場外観予想図

新工場外観予想図

中西 現在の工場建屋は、創業当初の区画にその後隣地を買い足した経緯があり2棟に分かれています。機械の配置が土地から制約を受け、通路が迷路のように張り巡らされているので、動線が悪く非効率的なことが課題となっていました。現住所から600メートルほど離れた場所で9月に完成予定の新社屋・工場では、広さはほぼ同じですがこうした問題を解消できる見込みです。さらに現有の最大能力160トンを上回る300トンのプレス機を増設するほか、ログビーを活用した生産の見える化によってIoTのモデル工場化を目指す「クールファクトリー」プロジェクトも推進します。製造業らしくないおしゃれでスマートな工場にして、地域のランドマーク的存在になれればうれしいですね。

部門別管理の徹底で各部門の自立意識高める

──『FX2』を導入した経緯について教えてください。

尾中寿顧問税理士

尾中寿顧問税理士

尾中 開業と同時に入会していた異業種交流会に、事業承継間もない中西社長がいらしたのがきっかけです。その後は当事務所が毎年開催している経営支援セミナーにもお越しいただきました。まだ経験値が少なく経営のアドバイスを求められていたので、過去志向の会計ではなく、事業計画や経営ビジョン、計数管理に基づいた未来志向の近代的なTKCの考え方についてお話ししたところ、意気投合したのを記憶しています。私は「いい会社」の定義には、「常に限界利益や労働分配率に目配りをすること」が含まれると考えていますが、中西社長がそうした数字に高い関心を持っていたのが非常に印象的でした。

中西 社長就任当初、長い間工場管理に専念していた私には、経営指標を読み解く力がありませんでした。しかし尾中先生に紹介していただいた『FX2』から出力される資料は分かりやすいうえ、月次巡回監査ではさまざまなアドバイスをいただける。業績を常にパソコンで確認できるのも私の性格に合っていました。

尾中 当時中西社長から、もうかっている会社の特徴を聞かれたことがあり、「巡回監査を翌月10日までに終え、同業他社より早く意思決定を下した会社が利益を出している」と答えた記憶があります。以前の会計事務所では試算表が出てくるのが2~3カ月遅れだったこともあり、そのあたりのスピード感を評価してもらえたのだと思います。

──部門別管理や予算実績管理について詳しく説明してください。

炉中ろう付け加工

炉中ろう付け加工

中西 金属プレス加工、炉中ろう付け、ログビー事業、営業、金型の5つに分けて部門管理を行っています。巡回監査時には《部門業績報告書》と《部門別予算実績比較表》、《勘定科目残高推移表》の3つは必ず詳細にチェックし、それぞれの資料はプリントアウトして各部門の責任者に配布しています。予算の作成については決算月の6月にまず、各部署で予算計画を立ててもらいます。各部署が計画づくりに一から携わることで、費用対効果の自覚を通じた目標達成への高い意識付けができるようになりました。最終的には当期の人員採用計画等を考慮し、私と専務、尾中会計事務所を交えた会議で事業計画に数字を落とし込んでいます。

──月次決算の内容は社内でどのようにフィードバックしていますか。

中西 当社では毎月1日から5日の間に営業会議を開催し、前月の業績と今月の課題を全社的に振り返る機会を設けています。予算と実績がかい離した場合には、その原因を探り、素早い対策をとるようにしています。直近の例でいえば前月(2018年12月)、前年同月比の売り上げは20%伸びた一方、経常利益率は低下するという増収減益になりました。分析した結果、前年はあった高付加価値商品の売り上げが今年はなかったのと、業務がオーバーフロー気味で生産性が悪化したことが原因でした。こうした情報をすぐに現場と共有できるのがいいですね。

対話する姿勢の継続が「経営力」評価につながる

──毎年金融機関に出向き業績報告を行っているとか。

集合写真

左から中西敏専務取締役、営業部の中西進之輔氏、
中西社長、尾中税理士

中西 ここ数年、決算時に私が金融機関に直接説明に行っています。その結果、地銀2行と交渉して経営者保証を外すことができました。こういうと簡単なように聞こえますが、もちろんただ業績を報告しただけで保証を外せたわけではありません。決算報告と同時に、「割引率を改善してもらえませんか」などその都度取引条件の見直しについて交渉を重ねてきた結果だと思います。

尾中 担保に依存しない融資への方向付けをいま金融庁が懸命に行っています。しかしそうはいっても中小企業ではなかなか進展していないのが現状です。そうした状況下で、中西社長が金融機関の信頼を勝ち取り、経営者保証を外すことができたというのは本当にすごいことです。これが実現した最大の要因は、やはり中西社長の「対話する姿勢」にあると思います。中西社長は自社の業績を正確に把握し、それを他者に分かりやすく説明し、事業計画や将来ビジョンにかける思いも自らの言葉で語ることができる。しかも1年前に立てた計画がうそにならず、ほぼその通り実現させているのです。緻密な計画を作成・実現し、社長自らが事業にかける熱意を周囲に伝える「経営力」が評価されたのだと思います。

──今後の抱負を。

中西 当社は決して売り上げ至上主義ではありません。主力の3部門おのおのが独立した企業になり、グループとして共に成長していくのが目標です。それが現場で働いている社員みんなのやりがいにもなると考えています。そのためにも、部門別業績管理の徹底した継続がぜひとも必要だと考えています。

(インタビュー・構成/本誌・植松啓介)

会社概要
名称 チトセ工業株式会社
創業 1962年10月
所在地 大阪府東大阪市横小路町4-9-56
売上高 約10億円
社員数 49名
URL https://www.chitose-kk.co.jp/
顧問税理士 尾中税務会計事務所
税理士 尾中寿
大阪府東大阪市下小阪2-14-9
YANO八戸ノ里駅前ビル3F
URL:http://www.onakakaikei.net/

掲載:『戦略経営者』2019年2月号