最近「情報銀行」という言葉をよく聞きますが、自分の情報を第三者に預けるのは不安です。どのような仕組みなのでしょうか。(労働者派遣業)

 昨今、情報銀行という仕組みが検討されています。情報銀行とは、個人のデータ管理を本人に代わって行うサービスを指します。

 個人がデータを自ら管理する場合、自分のデータを企業に提供するか否かは自身で判断する必要があります。しかし、情報銀行を用いれば、事前の契約(例えば「情報漏えいをしたことがない企業には提供してもよい」といった契約)に基づき、情報銀行が個人の代わりに判断してくれます。情報銀行はデータを提供する対価を企業から受け取り、一部をマージンとして得た上で、個人に対価を還元するというビジネスモデルが想定されています。

 こうした情報銀行の仕組みは、個人の同意(契約)のもとでデータの流通を円滑化するという目的で政府において検討されてきました。足元では、複数の企業が情報銀行を始めることを公表し、本格的な事業化に向けて始動しています。具体的には、情報銀行が住宅の電力使用状況データを宅配事業者に提供することで、宅配事業者は届け先の個人の在宅している場合が多い時間帯を把握でき、再配達コストを削減できるという事業が検討されています。また、情報銀行によって個人の健康診断の結果が病院に提供され、診療がスムーズになったり、診療結果や処方箋が薬局等に提供され、薬の調剤に役立てる事業も検討されています。

管理体制が問われる

 このように情報銀行を利用することで、企業(特にBtoC企業)はこれまで得られなかった個人のデータを得て、その個人に最適化された付加価値の高い商品、サービスを提供できるようになります。

 一方、個人は自分のデータの管理を情報銀行に任せられ、データの提供と引き換えに対価や最適な商品、サービスを享受できます。ただ、課題も多く残っています。

 総務省委託調査の結果を見ると、個人は「既存の仕組みで問題ない」と考えており、かつ、企業等に情報の管理を委託することに不安を覚えている様子がうかがえます。また、「年代」等の匿名性の高い情報は提供してもよいとする一方、「指紋等の生体情報」「マイナンバー」等の個人を特定できる情報の提供には不安を感じています。

 こうした不安を払しょくするためにも、情報銀行がデータの安全管理措置を徹底するとともに、データの提供先企業の安全性等についても検査する必要があり、提供先企業にも十分な安全管理体制が求められます。また、個人にとっては、自分を特定されるデータを提供する不安を上回るメリットを得られなければ、企業にデータを提供することを選択しないでしょう。企業は、個人のデータを利活用することで、個人にとってどの程度利便性の高い商品、サービスを提供できるのかを検討するとともに、その付加価値について周知を図る必要があります。

 このほかにも、情報銀行が事業として収益を安定させられるのか、やり取りするデータの標準化は可能か等の課題も挙げられます。情報銀行を事業として検討している事業者は、こうした課題に真摯(しんし)に取り組む必要があり、情報銀行以外の企業は情報銀行とどう関わっていくのか、データを利用することで顧客にどのような商品、サービスが提供できるか等を考えておくべきでしょう。

掲載:『戦略経営者』2019年2月号