「ジョブ・カード」という制度が労働者だけでなく企業にとってもメリットがあると聞きました。制度の詳細と活用方法について教えてください。(建設業)

「ジョブ・カード」制度は、働いている人やこれから働こうとしている人が、職務経歴や免許・資格、学習・訓練歴等の情報を職務経歴シートおよび職業能力証明シートに記入することで、自分自身の職業能力を証明するツールとして作成するところからはじまります。これらを記入する過程で自らの職業経験の棚卸しをすることによって、現在の職業能力が明らかになり、自分の強みは何かを認識することができるようになります。

 この自分の強みに加え、「大事にしたい価値観、興味・関心を持っていること」や「今後やってみたい仕事(職種)や働き方、仕事で達成したいこと」、「今後向上・習得すべき職業能力や、その方法」などをキャリア・プランシートにまとめます。その結果、生涯におけるさまざまなキャリア形成の場面で、労働者自身が活用できるツールとして完成させる仕組みとなっています。

 ジョブ・カードを作成する際は、キャリアコンサルタントやジョブ・カード作成アドバイザーによるキャリアコンサルティングを受けることが有効です。キャリアコンサルタントやジョブ・カード作成アドバイザーは、「何を書けばよいのか分からない」「どのように内容をまとめたらいいのか分からない」など、ジョブ・カードを作成する際の、自己理解や仕事理解に対する考え方の整理を手助けします。

 さらには、自分では特に強みとは認識していなかったようなことが、キャリアコンサルティングを受けることにより、強みであると気付くかもしれません。コンサルティングを通じてジョブ・カードが一層充実したものとなり、就職活動での自己PRや職業能力の向上など、具体的な活用へと発展させることができます。

社員の定着率向上も

 ところでジョブ・カードといえば、主に求職者が正社員への就職活動の際に活用するものとして認識されてきました。ところが最近では、未曾有(みぞう)の人材不足を背景に、職場への定着率向上や会社組織の活性化を目的として、企業側がジョブ・カードを有効なツールとして活用するケースも出始めています。

 例えば、採用活動において、企業個々のニーズに合わせた人材を採用するためにジョブ・カードを活用し、応募者の適性やスキルを把握することが挙げられます。また、現有の従業員が、ジョブ・カードの作成や、キャリアコンサルティング等の支援を受けることにより、キャリア形成に対する意識を高め、自らの仕事や職業能力の向上に主体的に取り組むことができるようになります。

 従業員個々の課題に対応した人材育成が推進され、それに合わせた能力評価制度などが整備・運用されてくると、従業員自身が高いレベルでの成長を実感することができ、社員の定着率も向上していきます。こうした一連の好循環により、会社組織全体が活性化され、生産性の向上につながっていくことが期待されるのです。

 ジョブ・カードを活用した人材育成を実施する事業主を対象に、賃金助成や経費助成が行われる「人材開発支援助成金」制度も整備されています。詳しくは、ジョブ・カードの作成方法から活用方法までを分かりやすく解説した厚生労働省の「ジョブ・カード制度総合サイト」を参照してください。

掲載:『戦略経営者』2019年2月号