豪雨、台風、地震……。相次ぐ自然災害により、水害や停電対策など新たな課題が浮き彫りになった。被害を最小限に抑え、早期に事業再開するために中小企業が行える備えとは──。

プロフィール
ほんだ・しげき●現三井住友海上火災保険株式会社入社。その後、現在のMS&ADインターリスク総研株式会社に出向し、リスクマネジメントおよび危機管理に関する調査研究、コンサルティングに従事。企業の防災、減災や事業継続計画に関する提言を数多く行っている。編著書に『今までなかった!中小企業の防災マニュアル』(労働調査会)がある。

──企業のリスク対策をコンサルティングされるなかで、中小企業の災害対策の現状をどう感じていますか。

本田 東京商工会議所が2017年に会員企業に実施した調査によると、「事業継続計画」(BCP)を策定していると回答した企業は27.4%で、策定率は従業員規模が小さくなるほど低下することがわかりました。BCPを策定していない理由としては、策定ノウハウ・スキルおよび人的資源の不足を挙げた企業がそれぞれ約6割にのぼりました。人手不足のなか、BCP策定まで手が回らないという声をよく聞きますが、日本企業の99%超を占める中小企業の事業継続は切実な問題です。
 BCPとアルファベットに略されると、どこか高尚な感じがして身構えてしまうのは大変もったいないことです。中小企業は大企業に比べて経営資源に限りがあり、景気や社会環境の変化、とりわけ災害などの特異な事象に対して脆弱(ぜいじゃく)ですから、身の丈にあった「防災計画」の策定から着手されるのをおすすめします。

──防災計画とは?

本田 災害の被害を最小化する活動が防災活動であり、その内容を記載したものを防災計画といいます。災害対策の大前提として①とにかく生き残る②優先順位をつける③災害対策を見直し向上させる、の3点があります。
 災害時には電気・水道・ガス・通信回線などのインフラがダメージを受け、ヒト・モノ・カネの経営資源に制約が生まれる点を平常時は忘れがちです。優先順位を決める社員が無事でいられるともかぎりません。災害時はふだんの当たり前が通用しないことを肝に銘じてください。

──防災計画策定にはどのようなツールを活用できますか。

本田 市区町村等が作成している「ハザードマップ」をまず確認してください。ハザードマップには津波ハザードマップ、液状化マップ、揺れやすさマップなどさまざまな種類があり、「国土交通省ハザードマップポータルサイト」では各自治体の作成したハザードマップにリンクが貼られています。
 ことしは豪雨被害が各地で相次ぎ、水害対策に関する問い合わせが増えています。水は低地に流れ込み貯(た)まるのが自然の摂理であり、倉敷市真備町で大規模冠水したエリアは、倉敷市の作成した洪水ハザードマップの予想浸水域にほぼ重なりました。浸水が予想される地域にある事業所や工場では、電子機器や重要書類などを上階に移す等の対策が必要です。

防災訓練は検証の場

──北海道胆振東部地震では電源の重要性を改めて感じました。

本田 北海道で発生したブラックアウトは2日程度でほぼ解消しましたが、今後発生が予想されている南海トラフ沖地震、首都直下地震後においては、停電がより長期化することを念頭におくべきです。
 何よりも最優先に確保してほしいのは、通信用の電源。従業員の安否確認、事業所間の連絡に用いるのに加え、外部からの問い合わせに対応し、企業として存続していることを示す必要もあります。例えばウェブサイトの内容を更新できなかったり、通話手段が途絶したままだったりすると最悪の場合、自社の存在が抹消されてしまうおそれもあります。
 災害発生当初は通信回線が錯綜(さくそう)してすぐに電話が通じないかもしれません。仮に回線が復旧しても端末の電源が切れている可能性もあるので、スマートフォン用の電池式充電器があると安心です。パソコンが使用できない場合も想定し、従業員の緊急連絡先については、一定以上の役職社員は、紛失などに注意を払いつつ用紙で保管しておくとよいでしょう。

──防災計画の実効性を高める方法を教えてください。

本田 先に述べたとおり、最初から完璧な計画づくりを目指す必要はありません。日ごろから避難訓練や安否確認訓練を行い、見つかった不備を改善するというPDCAサイクルを繰り返してください。よく見受けられるのが、せっかく防災計画やBCPを策定したのに、絵に描いた餅になってしまっているケースです。膨大な書類のBCPを策定して安心してしまい、書棚に眠らせている企業は少なくありません。
 防災訓練を実施せずに災害に直面するのは、模擬テストを受けずに試験に臨むのと同じこと。訓練を実施して初めて、自家発電機の燃料が不足していたり、消火器の薬剤が切れていたり……といった不備を発見できるのです。訓練を繰り返すことにより、連帯感も高まっていくでしょう。
 また、防災用品を定期的に棚卸しし、従業員数の増減により過不足が生じていないか、防災食やマスクが使用されていたりしないか等を確認することも重要です。

──計画の中身を不断に見直すことが大事だと。

本田 確率論として、就業中よりも業務時間外に地震などの災害に遭遇する可能性の方が高く、自宅の防災もぜひ行うようにしてください。書棚や家具などの転倒防止対策を施し、家族の安否確認方法を決めておきます。道路が寸断されて支援物資が届かないことも予想し、できれば1週間分以上の水と食糧を備蓄しておくのが望ましいでしょう。
 いずれにしろ企業における危機管理はトップダウンで行う必要があります。災害への備えを実施するかどうかは経営者の決断次第です。災害対策をコストではなく、将来への投資ととらえて前向きに取り組んでほしいと思います。

(インタビュー・構成/本誌・小林淳一)

掲載:『戦略経営者』2018年11月号