ちまたにあふれんばかりの「省エネ技術」だが、高い技術で使い勝手が良く、汎用(はんよう)性もあるオリジナル技術を展開する企業は思いのほか少ない。栃木・宇都宮のクラフトワークは、そんな数少ない企業のひとつだ。益子進会長、卓之社長、みち江さん、そして、あすか中央税理士法人の半藤一人所長代理に取材した。

クラフトワーク株式会社

創業者の益子進会長(左)と卓之社長

 地中熱をはじめ太陽熱、工場内の排水熱、機械排熱、生活排水など、ありとあらゆる「熱源」から熱を取りだし、冷暖房へと転換するシステムを手がけるクラフトワーク。いまや各界から注目を浴びる企業で、取材当日も益子進会長は震災の北海道からかろうじて帰宅。同行していた専務の益子暁弐氏は、その足で兵庫県淡路島に向かうなど、慌ただしいことこの上ない。「あまりに引き合いが多く、とても対応し切れていない」と進会長は嘆く。

 HEMS(ホーム・エネルギー・マネジメント・システム)と言う言葉は近年、人口に膾炙(かいしゃ)してきているが、同社が標榜(ひょうぼう)するのはひと味違う、VEMS(バリアス・エネルギー・マネジメント・システム)というもの。「バリアス(various)」つまり多面的に熱源を抽出し、それらをうまく集約してコントロールしながら、さまざまな温度ニーズ(場所)に振り分けるオリジナルの技術である(右下図参照)。「多彩な熱源」というところがミソ。地中熱にこだわりすぎると深い穴を掘る莫大(ばくだい)なコストと手間が必要になるが、身の回りに散在している熱源を活用しながら総合的に冷暖房に転換することができれば、一気にハードルは低くなる。しかしその分、オリジナルのアイデアと技術力が必要となることは想像に難くない。うまくハマればエネルギー消費の30~50%を削減できるというからすごい。

 どう見ても高度なハイテク技術のように思えるが、「実際はローテク。いまある技術を組み合わせただけです」と進会長は笑う。しかし、その「組み合わせ」が普通の人にはできない。

「長年、現場でコツコツと積み上げてきたノウハウがわれわれのベースにはある。机上だけではVEMSのアイデアは浮かびません」

オリジナルの装置を開発

 難解な技術論はさておき、まずは、益子卓之社長に同社が手がけた具体例をあげてもらおう。

VEMS

「山梨県のある食品倉庫では、地下水熱と地中熱を利用して、荷さばき室を摂氏15度に保ち、事務室は予温熱で5度増しの20度を実現しました。また、栃木県の牧場では、家畜のし尿熱と地中熱を抽出し、牛舎内の冷暖房と給湯に利用しています。熱エネルギーをさまざまな用途に分散させるのはわれわれの得意分野です」

 コスト削減効果も想像以上だ。都内の行政庁舎では、防火水槽の貯留水をサーバールームの冷却装置の冷熱源に利用し、昼間の電力が22%削減された。また、奥日光の温泉旅館では、温泉排熱から熱を回収し、室内の冷暖房、給湯へ利用。ガス代金が60%も減少した。

 VEMSのもう一つの特徴は使い勝手の良さである。卓之社長が説明する。

VEMSキット

VEMSキット

「現場の状況にあわせた設計図を書き、当社でつくってしまうスタイルなので、あとは〝3番弁と5番弁をつなげて〟などと配管を指示しておけば、地方の事業者でも施工できるようになっています。現場で施工のすべてを行うと、ヒートポンプや熱交換器をつけることでシステム全体が大きく複雑になっていき、配管をどうすればよいかが分からなくなったりします。当社のVEMSは、そのような現場の混乱を防ぐという特長も持っています」

 この事業に参入してから7年。「すでに100件以上の案件を手がけてきた」と創業者である益子進会長は言う。「私が内装屋としてこの業界に首を突っ込んでから44年(1976年)になりますが、当初はヒートポンプなどまったく眼中にありませんでした。ところが、ドイツのキッチンメーカーと取引しはじめたことで、ヒートポンプと出会い、また、ドイツ人の一寸の無駄もない省エネルギーへの考え方を知りました」

 時はちょうどバブル景気の末期。柱だった内装・リフォーム業に陰りが見え始め、進会長は省エネ住宅ビジネスへと舵(かじ)を切ることを決意する。

 2002年に暁弐専務がドイツへわたり、現地の有力メーカーからヒートポンプを活用した省エネ住宅に関する技術を学ぶ。帰国後、ほどなくして、一戸建て住宅でVEMSの第1号を手がける。

「当時、オール電化を主力にしていましたが、〝本当の意味での省エネではない〟という思いが常にありました。チャンスだったのでヒートポンプによる省エネ住宅を手がけましたが、次にはつながらなかったですね」という進会長。

 ところが、東日本大震災が風向きを変えた。当時、主力だったオール電化住宅が一気に下火となり、ヒートポンプを利用した新しいコンセプトの省エネ住宅を前面に打ち出す業態へと転換したのだ。クラフトワークの新時代のスタートである。

利益を出すための仕掛け

集合写真

前列左端が益子みち江さん、右端が半藤一人あすか税理士法人所長代理

 一方、同社は長らく悩みを抱えていた。管理体制の脆弱(ぜいじゃく)さである。経理担当の益子みち江さんの話。

「当社ではVEMS関連事業をはじめ、住宅設備の販売・施工やアフターメンテナンスなど、年間300もの現場があるのですが、以前の経理体制では、それぞれの収益があいまいで、個別の収益がほとんど分かりませんでした。そのため、コネクションがあったTKCさんに直接相談し、顧問税理士を紹介してもらいました。2014年のことです。その際、社長や専務からは、各現場の損益をタイムリーに分かるようにしてくれとの依頼を受けました」

 紹介されたのは、あすか中央税理士法人(並木正裕代表税理士)だった。所長代理の半藤一人氏は述懐する。

「当初、クラフトワークさんからは原価管理をきっちりと行い、利益を把握したいとの要望があったと記憶しています。月次の業績管理が不十分でしたからね。そこで現場台帳をつけながら同時に財務管理も行える建設業用の自計化(経理業務を自社で行うこと)システム『DAIC2』をお勧めしたのです」

 社会的に価値が高く将来性もある先端事業を手がけながら、経理は手書きで行われており、アナログ感満載だった。並木代表、半藤氏をはじめ、あすか中央税理士法人の担当スタッフは、このギャップを何とか埋めようと、みち江さんを巻き込みながら奮闘する。まさに、「クラフトワーク版経理革新プロジェクト」である。

 パソコンを触ったこともなかったみち江さんの驚異的努力の甲斐(かい)あって、半年後には、各現場の損益がリアルタイムに分かる体制を作り上げる。さらには、国の推し進める「経営改善計画等策定支援事業」に申請し、経営改善計画を策定、メインバンクから6000万円の設備投資資金を得たのも、この経理革新プロジェクトのおかげだ。

ドイツ製システムキッチンの販売・施工も手がける

ドイツ製システムキッチンの販売・施工も手がける

「それぞれの現場の実行予算と業績の予実対比はもちろん、未成工事の進捗(しんちょく)管理も行えるようにしました。そうすることで、利益の出そうな現場とそうでない現場を早期に割り出し、経営陣の次の一手に役立ててもらえると考えたのです。実際、次第に社長や専務の数字の見方、仕事の仕方が変わってきていると実感しています」(半藤氏)

 とくに、主力のVEMS事業は、数千万~数億円単位の規模を持つ仕事だけに、損益を見誤るとダメージが大きくなる。一方で同事業は比較的歴史が浅いため、採算度外視の〝種まき〟的な案件も少なくない。『DAIC2』導入以降、みち江さんが「なぜ、この事業は利益がでないのか」と経営陣に詰め寄る場面も増えてきたという。

「暁弐専務に、採算性の悪さを指摘しつつ、もう少し利益がとれる仕事にできないのかと直言すると、〝今後はメンテナンス事業をパックで請け負える体制に移行しないといけないね〟という返事が返ってきました。少し安心したのですが、このとき、具体的な数字をつきつけることは、経営者にとってモノを考える契機になると感じました。最初は、私なんかがパソコンを扱えるのか心配でしたが、いまでは、経営に参加できている実感があってとても楽しいですね」

理念と収益性を両立させる

 とはいえ、VEMS事業は進会長、卓之社長、暁弐専務の掲げる「企業理念」のコアを形作っている。省エネ社会の実現、あるいは地方を創生したいといった使命感に色濃く縁取られているのだ。それだけに、大事になるのはバランスである。理念だけでは会社は継続できない。収益性を高め、利益を出して初めて企業は存続し、理念が有効な形で生きてくる。その意味でも、みち江さんと『DAIC2』、そしてあすか中央税理士法人の存在は、今後とも極めて重要な役割を担っているといえよう。

宇都宮市大谷町でのいちご栽培プロジェクト

宇都宮市大谷町でのいちご栽培プロジェクト

 既述の通り、現在、クラフトワークのVEMS事業は引く手あまたの状態である。いわゆるオンリーワンに近い存在のなのだ。知財戦略も万全で、現在、取得している特許の数は10(出願を合わせると18)。唯一の悩みの種は人材。現在、18名の社員で回しているが、もちろん、需要をこなし切れていない。そのため、人材育成が今後の成長の鍵を握ると進会長は語る。

 一方、卓之社長は「まず、ここ3~5年で内部管理体制をしっかりさせたい。事業面では、当社の歴史のなかで積み上げてきた地元の顧客のニーズをすくい上げると同時に、地域振興、地方創生というテーマにも挑んでいきたいですね」と強調する。

 ちなみに、同社は大谷石の採掘場跡(宇都宮市大谷町)での空間利用プロジェクトに主要メンバーとして参加し、夏イチゴの栽培を形にしようと奮闘中だ。まさに地方創生的活動である。地域に根付く活動を行いながらも、一方で全国市場へ積極的にアプローチしていく──クラフトワークの今後に目が離せない。

(本誌・高根文隆)

会社概要
名称 クラフトワーク株式会社
設立 1974年
所在地 栃木県宇都宮市下金井町619-3
売上高 5億4000万円
社員数 18名
URL http://www.kraftwerk75.co.jp/

顧問税理士の眼
あすか中央税理士法人 所長 並木正裕
栃木県宇都宮市桜1-1-31
https://www.asuka-tax.com/

並木正裕

 クラフトワークさんは、地中熱や水熱を利用したヒートポンプシステムの設計・施工、住宅機器の販売・施工をされている会社です。当事務所とは平成26年9月にご契約をいただきました。それ以前はTKC会員以外の事務所が顧問をされており、記帳その他をすべて委託されている状況で、栃木県のフロンティア企業に認定されるなど高い技術力に定評のある会社であるにもかかわらず、十分な利益管理ができていませんでした。

 そのため、まず『DAIC2』で自計化していただき、現場ごとに利益管理ができる体制を構築しました。その上で、国の経営改善計画策定支援事業を利用し、社長、専務を中心に経営計画を策定。金融機関からの支援をいただきながら業績改善に努めてきたことが近年の好業績につながっています。また、TKCモニタリング情報サービスを利用し、決算書や四半期試算表を金融機関に送信していることも、信頼の強化につながっていると感じています。

掲載:『戦略経営者』2018年10月号