旭新運送株式会社

茨城県神栖市に本社を構え運送業を営む旭新運送は、従業員による株式取得(EBO)により設立されたルーツをもつ。前身の企業から培ってきた50年をこえるノウハウを武器に、全国への液体輸送を手がける。川村忠幸社長に黒字経営を続ける上での経費管理のポイントを聞いた。

重大事故ゼロに向け「安全運行」へ積極投資

──「ローリー輸送のエキスパート」をうたわれています。

川村忠幸社長

川村忠幸社長

川村 輸送しているのは主に化学品、食用油などの液体です。具体的には水道水に滅菌処理を施す薬品、液晶ディスプレー関連薬液、カップ麺やチョコレート、ポテトチップスといった食品に用いられる油脂等があります。輸送比率は化学品7、食用油3ぐらい。化学品ではコンタミネーション(混交)が起こると爆発の要因となるため、厳重な取り扱いが求められます。ドライバーは各自「危険物取扱者」の資格を取得しており、一般の運送会社ではなかなか引き受けられない領域であると自負しています。

──全社の車両台数は?

川村 過酸化水素ローリー、化学品用ローリー、食品用ローリーなど合計120台を保有しています。国内4カ所に営業所があり、各拠点を中継基地としてドライバーが交代できたり、輸送品目を変更して実車率を高められるのも強みです。

──安全運行に向けた取り組みをお聞かせください。

川村 あおり運転対策として全車両にドライブレコーダーを装備しているほか、GPS内蔵のデジタルタコグラフを導入し、車両の位置を把握するとともに、急ブレーキを踏んだ地点が本社のモニターにリアルタイムで表示されるなどの機能を利用して、急発進、急加速、急ブレーキの抑制を図っています。
 また、安全性優良事業所を示す「Gマーク」を全営業所で取得しているのも安全対策の一環。「Gマーク」は全国の運送業事業所のうち、およそ29%が取得しているそうです。

金生谷良男常務

金生谷良男常務

金生谷(かねおや) 安全運行のためにはドライバーの健康管理が何より大切です。重大事故を防止するため、ことし4月から政府の推奨している脳のMRI検査を全員に受診してもらうようにしました。

──ドライバー教育も重要です。

川村 外部講師を招き、輸送品の適正な取り扱い方法に関する研修や、顧客対応のコミュニケーション研修などを実施しています。元パイロットの方に安全教育を行ってもらったこともあります。原則として乗務員教育計画表にのっとり、毎月実施している形です。

金生谷 安全確認のために行う指差呼称のやり方を収めたビデオ教材も独自に制作し、社員教育に活用しています。

安全性優良事業所を示す「Gマーク」を取得

安全性優良事業所を示す「Gマーク」を取得

──採用環境はいかがでしょう。

川村 運送業界のドライバー不足は深刻で、車両と仕事はあっても、運転する人がいないという話を同業者から聞きます。そのような状況に対応するため、求人サイトに掲載する応募条件として、入社後に危険物取扱者資格を取得することを認め、45歳前後まで年齢枠を拡大しました。本社ロードサイドに従業員募集告知看板を掲示することも検討しています。

──一般的に運送業は受注産業といわれますが……。

川村 当社ではドライバー一人ひとりに名刺を持たせているんです。ねらいは社員としての自覚を促し、営業活動の一端を担ってもらうため。そのかいあってか仕事ぶりや人柄が評価され、荷主さまからドライバーを指名いただく場合もあります。

月末の営業会議が経営サイクルの肝

──EBO(エンプロイー・バイアウト)により設立されたそうですね。

神栖市にある本社

神栖市にある本社

川村 当社の前身企業は東証1部上場企業の物流子会社として1962年に創業しました。化学品、食品の輸送を請け負ってきましたが、組織体制の見直しにともない、2000年に従業員が株式を取得して独立。株主5名、資本金1000万円でスタートし、その後増資を行ったことで現在は資本金2200万円の体制になっています。私は常務などをへて、昨年6月に4代目社長に就任しました。

──顧問税理士の八幡(やわた)寛史先生とは創業以来のお付き合いだとか。

川村 当社と同じく00年に前身企業から独立した会社の中に、八幡先生が税務顧問に就任したところがあり、その話を聞きつけてオファーし、快く引き受けていただいた次第です。先生に勧められ、設立当初に『FX2』を導入しました。もともとドライバー出身ですから、会計の分野はどちらかというと苦手。先生と巡回監査担当者の田谷さんから業績データの見方について、毎月いろいろ手ほどきを受けています。

──毎月の監査の際、話し合う内容は?

川村 売り上げ予測や資金繰りをふまえ、車両の入れ替えなどの設備投資計画について話し合うことが多いです。車両は高額ですから、綿密に計画を立てて更新を行っています。

──日ごろどんな流れで経理業務をされていますか。

舘恵美総務・経理係長

舘恵美総務・経理係長

舘(たち) 各営業所から小口現金や物品購入に関わる伝票類を本社に郵送してもらい、『FX2』に仕訳入力しています。仕訳辞書を活用したり、操作方法でわからない点は監査担当の田谷さんに電話で随時質問したりしているので、毎月スムーズに入力できています。

川村 タイムリーに仕訳入力することで、月の中旬までに前月の業績を把握できるようになりました。

──全企業の7割が赤字と言われるなか、長年にわたって黒字経営を継続されています。

川村 帳表をチェックする機会が多いのですが、なかでも「月例経営分析表(資金移動図表)」がイラストで視覚的に業績を把握できるため、とても重宝しています。注目しているのは、燃料代をはじめとする変動費の推移ですね。
 足元では燃料単価が上昇傾向にあり、変動費の13~14%を占めるようになっています。全社でひと月に使用する燃料は15万リッターほどで、単価が1円変われば、利益額の変動は15万円にのぼることになります。購入費用を抑えるため3社から銭単位の見積書を出してもらい、できるだけ安い価格で仕入れるよう心がけています。

──部門別業績管理機能を活用されていると聞きました。

川村 ①本社・鹿島営業所②千葉営業所③富士営業所④三重営業所の四つの部門を『FX2』に登録しています。毎月20日ごろに巡回監査で数字をチェックしてもらい、月末の金曜日に開催する営業会議で業績を共有し、対策を話し合うというのが当社のサイクルです。営業会議には全営業所の所長が参加し、最新業績を元に営業所ごとの課題や計画も討議しています。7月から8月にかけて猛暑で荷動きが前年に比べて鈍かったぶん、業績への影響が少々心配です。

──一般社員の方にも業績を公開されていますか。

川村 年2回の賞与支給の際、決算報告として業績を各社員に伝えています。業種柄、すべての社員を一堂に集めて会議を開催するのは難しいのが現状です。

八幡寛史顧問税理士

八幡寛史顧問税理士

八幡 旭新運送さまでは、『TKCモニタリング情報サービス』を活用して金融機関に決算書および月次試算表を送信し、金融機関に対する信用力を高めることができています。『FX2』の業績データをベースに営業会議用の独自資料を作成されており、今後『FX4クラウド』にレベルアップすれば階層管理など、より詳細に業績を分析できるようになるでしょう。

──抱負をお聞かせください。

川村 当面の課題は、ドライバーを各拠点に適正に配置して業務効率を高め、省エネを図りつつ、売り上げを伸ばすことです。ただ、省エネの推進もドライバーの安全運行があってこそ。安全運行につながる装備はこれからも率先して導入していくつもりです。年商20億円という目標を達成するため新拠点の開設や物流関連事業への進出など、八幡先生と田谷さんに相談しながら打ち手を決めたいと考えています。

(本誌・小林淳一)

会社概要
名称 旭新運送株式会社
設立 2000年6月
所在地 茨城県神栖市知手中央1-9-8
売上高 14億円
社員数 90名
URL http://www.kyokushin-kk.jp/
顧問税理士 八幡寛史
税理士法人桜頼パートナーズ会計 八幡事務所
千葉県香取郡東庄町笹川い4713-75
URL:https://www.tkcnf.com/yawatakaikei/

掲載:『戦略経営者』2018年10月号