「働き方改革」で取引先の編集部が土日休むようになり、データが届くのが遅くなりました。結果的に納期の要求が厳しくなった気がしますが、我慢するしかないのでしょうか。(デザイン業)
「働き方改革」の推進によって、大企業を中心に業務の見直しと生産性向上対策が進められていますが、その取り組みの影響が取引相手側の負担を通常より増大させる場合、下請法や独占禁止法の違反行為となる場合があります。ご質問の「納期要求の厳格化」についても、下請け事業者が通常の取引条件に比して負担が増大した上、対価据え置きの場合には「買いたたき」として違反行為になる可能性があります。また下請法の適用とならない取引でも、当該の行為が「優越的地位の乱用」として独占禁止法違反となる場合もあります。
下請法は親事業者に11の禁止事項を課しています。「下請け代金の遅延禁止」、「買いたたきの禁止」などです。働き方改革に伴う行為は、このうち五つの禁止事項に該当する可能性があります。公正取引委員会が公表している事例の具体例をご紹介しましょう。
①買いたたき
◆従来の対価のまま通常より短い納期の発注があり、下請け事業者のコストが増加する場合
◆社外秘資料を提出させ、下請け事業者の業務が効率化した分の対価を一方的に下げる場合
◆通常の単価で一方的に多頻度配送に変更する場合
②減額
◆事前に約束した上乗せ請求(短納期発注)を、通常の対価分だけ支払い、上乗せ分を減額した場合
◆親事業者の自己都合で設計変更等をしたのに、納期延長と認めず遅延ペナルティーを課した場合
③不当な給付内容の変更、やり直し
◆親事業者の発注仕様の不明確さが原因なのに、発注と異なるとしてやり直しをさせた場合
◆集荷トラックを待機させる契約にもかかわらず、当日一方的にキャンセルし対価を支払わない場合
④受領(じゅりょう)拒否
◆合意の納期を一方的に短縮し、納期遅延を理由に受領を拒否する場合
⑤不当な経済上の利益の提供要請
◆親事業者の働き方改革で発生した新たなデータ入力を、取引の相手側に無償で行わせた場合
◆契約上は運送のみの業務となっているにもかかわらず、倉庫内荷役等を無償で実施させた場合
増加コスト踏まえた交渉を
働き方改革は、業務の改善活動が「担当者間」で実施されるケースも多く、上司の責任者が認識しない中で結果的に取引相手側に負担を与える活動となる場合があります。従って親事業者の中で下請法違反が潜在化する場合も多いと考えられます。
下請け事業者は、親事業者からの依頼や要求が下請法や独占禁止法に違反するケースと思われた場合、泣き寝入りせずに親事業者の責任者とコンタクトを取り、価格交渉等の面談の機会を作るようにしましょう。その際、作業量増加や休日勤務、人員増等人件費コスト増加などのデータをしっかりと収集し、客観的な資料を作成することが重要です。
なお、このような価格交渉を実施しても状況が改善できないときは、「下請かけこみ寺」という国の相談制度があります。秘密厳守で相談できますので活用をおすすめします。