がんから復職した社員が最近退職してしまいました。復帰した社員に少しでも長く働いてもらうためにはどうしたらよいですか。(小売業)

 生涯で2人に1人はがんになる可能性があると言われ、新たにがんと診断される件数は、毎年100万例を超えます。

 一方、医療の進歩により生存率は年々高まっており、国立がん研究センターによれば、全がん種の10年相対生存率は58.2%、早期発見であれば9割を超えます。これまで、がんは死をイメージさせる「不治の病」でしたが、今は生活の質を保ちながら「長く付き合う病」となっています。

 がん患者の約3分の1は働き盛りの世代で、治療しながら働く人は増えています。しかし、突然がんと診断されると死をイメージし、患者も周囲も戸惑います。「迷惑をかける」と考え自発的に退職、あるいは、「知られては不利」と病気を職場に言わないこともあります。家族や職場からは、「治療に専念した方がよい」と退職勧奨されることもあります。がんの種類や症状によって治療が個々に異なり、育児や介護が重なることがあるのも問題を複雑にしています。

 では国はどんな対策を打っているのでしょうか。2012年、がん対策基本法に基づく第2次がん対策基本計画に「患者の就労支援」が盛り込まれ、がん診療連携拠点病院内の相談支援センター等において、仕事も含めた無料相談ができるようになっています。16年には「事業場における治療と職業生活の両立支援のためのガイドライン」が厚生労働省より発行されました。また同年改正されたがん対策基本法では、働くがん患者の雇用継続等に配慮することが企業の努力義務として定められました。

事情に応じて柔軟な対応を

 少子高齢化が加速する中、社員の健康を守り、継続的な人材を確保することは急務となっています。がん患者が治療を受けながら働ける職場を整備する取り組みは、人材の定着や生産性の向上、多様な状況にある人材活用による事業の活性化にも寄与します。また、社員にとって、仕事は生活の糧だけでなく、働きがいや自己実現の一環でもあり、支援によりさらに信頼関係が深まると同時に、他の社員への早期発見・予防へのメッセージにもなります。

 職場復帰後は、体調や仕事のペースが戻るまで半年から1年程かかりますが、社員はすぐに前のように働けると考え、焦ってしまい、無理をして再入院することもあります。また、体力低下による疲れやすさ、倦怠(けんたい)感、痺(しび)れなど目に見えない症状は、周囲にはなかなか伝わりません。対話不足が続くと職場に居づらくなってしまいます。

 そうした事態を招かないためには、事業主が明確に方針を決め、病気になっても、個々の状況に応じた柔軟な働き方ができる仕組みづくりに着手することが必要です。さらにがんの知識について全社員を啓発し、個別面談によって該当社員から適宜状態を確認し配慮することも大切です。直属の上司だけが抱えることなく周囲と連携し、組織全体で支えあう風土を日頃から作っていきましょう。保健スタッフや主治医からの助言、キャリアコンサルタントによる支援など、必要に応じて多様な専門家を活用することも検討してみてください。

掲載:『戦略経営者』2018年5月号