映像の空撮あるいは土地の測量など、さまざまな領域で活用のはじまった無人航空機(ドローン)。いち早く商機を見いだした担い手の動きを追うとともに、理解しておくべき法制度を紹介する。
「空の産業革命」をもたらすと期待されるドローン。測量、インフラ点検、空撮といった分野で活用が進み、国内の市場規模は右肩上がりだ。「ドローンに対する関心がにわかに高まったのは、2015年4月に起きた首相官邸での落下事件です。この事件をきっかけに航空法が改正され、ビジネス環境が一気に整備されました」と熊田知之・日本UAS産業振興協議会(JUIDA)理事・事務局長は振り返る。それまで模型飛行機として扱われていたものが無人航空機として定義され、飛行方法や空域が明確にルール化されたことで企業の市場参入が相次ぐ。
ドローンを安全に飛行させるには、操縦の技能とルールに関する知識習得が欠かせない。前出のJUIDAでは、ドローンの操縦士および安全運航管理者を養成するスクールの認定制度を開始した。所定のカリキュラム(講義および実技)を修了し、試験に合格すると証明証が交付される。
「JUIDAは無人航空機産業の健全な発展をミッションとして2014年7月に発足しました。スクールには操縦技能コースと安全運航管理者コースの2種類があり、ライセンス取得者数は3000名をこえました。操縦技能証明証は国土交通省への飛行申請時に必要となる、飛行時間10時間以上の証明としても利用できます」(熊田氏)
操縦には通常、プロポと呼ばれるコントローラーを用いる。2本のスティックを上下左右させて前進後退、左進右進を指示することが可能だ。近年では、飛行を制御する自動航空管制システム(UTM)の研究開発も盛んになってきた。
ドローンを使用する現場では、パイロットと現場監督者がチームを組み、複数名で作業するケースが多い。飛行前に機体本体やバッテリーなどの部品、周辺環境を入念に確認し、消防・警察、さらには周辺住民への周知等の配慮が求められる場合もある。
「航空法だけでなく民法、道路交通法、電波法、個人情報保護法、自治体の定める条例など関連法規は多岐にわたります。加えてドローンを処分する際は産業廃棄物として扱われるため、廃棄物処理法も念頭に置かねばなりません」
注意しなければならないのが、操縦中に発注者からルール外の飛行を要求されること。事前の許可が必要な、建物などに30メートル未満に接近し飛行するのもそのひとつ(『戦略経営者』2017年12月号32頁参照)。許可なくルール外の飛行を行うと、罰金が科される。発注者の依頼になし崩し的に従うのは危険な行為といえるだろう。
周辺産業に波及
全国に120校ほどあるJUIDA認定スクールの運営事業者の中には、もともと学校法人だったり、自動車教習所だったり、学生の興したベンチャー企業があったり経営母体はさまざま。「前述した2種類のライセンスに加え、講師ライセンスを取得しスクールを開業する人も続々と出てきています。ドローンの教育産業が忽然(こつぜん)と生まれた印象です」(熊田氏)。2016年に開始した認定制度の認知度は徐々に高まっており、ライセンス取得が業務受託に際しプラスに働く事例が目立ってきた。
いまやインターネット通販サイトでも容易に入手できるドローンだが、思わぬリスクの発生に備える必要もある。気流の急変、操縦ミスなどによる墜落がその代表だろう。JUIDAは万一の備えとして、会員向けに団体保険制度を用意する。提携する保険会社は3社。ドローンに搭載する機器を補償対象にする保険もラインアップする。レーザー測量機器や赤外線カメラなどの高額な機器を搭載し飛行するケースが増えており、契約者は増加傾向にあるという。
人口減少が見込まれる日本社会。ドローンをはじめとするロボットの出番はますます増えていくだろう。とりわけ喫緊の課題として、インフラ点検業務がある。国内にある橋梁(きょうりょう)70万橋のうち、7万橋が築50年以上といわれている。トンネルや下水道管の老朽化も進む。高所や狭い配管内などはドローンの活用が期待できる。あるいは物流。現状ではGPSの精度が不十分なこともあり実用化できていないが、離着陸できるドローン専用ポートを設け、配送物を集中管理する構想も進行中だ。
「上空ばかり目が行きがちですが、工場や倉庫、オフィス等屋内でも運搬、監視業務への活用が見込まれます。いっそうの普及に向け、飛行時間や積載可能重量の限界など克服すべき課題は少なくありません。JUIDAでは国や自治体、企業と協力し、さまざまな実証実験を積み重ねています。準天頂衛星みちびきが実用化されれば、GPSの精度は将来的に数センチ単位まで向上されるでしょう」
(本誌・小林淳一)