優秀な人材をなかなか採用できずに困っているという中小企業にぜひ目を向けてもらいたいのが、「外国人材」だ。日本人では採用が難しい優秀な人材を、中国や東南アジアをはじめとする外国人なら採れるケースも往々にしてある。外国人材で〝経営力〟を強化した中小企業の動きを追う。

プロフィール
おの・ともえ●東京都小平市在住。1972年東京生まれ。日本語教師として、日本語学校・専門学校・語学学校で15カ国の留学生や外国人ビジネスマンに日本語を指導。2011年、ASIA Link(アジアリンク)を創業。

──「外国人材」を貴重な戦力として役立てている企業が増えています。

外国人を生かす経営

小野 厚生労働省の「『外国人雇用状況』の届出状況まとめ」(平成28年10月末現在)によると、108万3000人以上の外国人がいま日本で働いているといいます。
 割合として一番多いのは、配偶者が日本人であるなどの「身分による在留資格」で働いている外国人(38.1%)。次に多いのが、外国人留学生の在学期間中のアルバイトといった「資格外活動」(22.1%)、さらに「技能実習」(19.5%)、「専門的・技術的分野」(18.5%)と続きます。
 この「専門的・技術的分野」に含まれるのが、「外国人留学生の正社員雇用」です。日本の大学・大学院を卒業した留学生を、大手企業や一部の中小企業が積極的に採用していることが、外国人労働者の数を4年連続で押し上げている大きな要因となっています。

──なぜ外国人留学生を採用するのでしょうか。

小野 海外展開に力を入れるようになった企業が、「将来の海外拠点の幹部候補」として留学生を採用したり、「販路拡大のための海外営業の担い手」、あるいは「海外の顧客、海外支社とのやりとりを担うブリッジ人材」として採用しています。また、「国籍を問わず優秀なエンジニアや専門職の確保のため」という理由で採用しているケースも目立ちます。

中小企業には大きなチャンス

──近年、日本の大学は海外からの留学生を精力的に受け入れています。

小野 以前は、中国からの留学生が圧倒的に多かったのですが、経済的に豊かになったベトナムをはじめとする東南アジアの留学生もだいぶ増えてきています。独立行政法人日本学生支援機構(JASSO)の調査によると、23万9000人以上の外国人留学生が日本の学校で学んでいるといいます。
 それらの留学生のうち6割以上が、「先端技術を学ぶことができる」「日本の経営方法を学ぶことができる」といった理由から、日本企業への就職を希望しています。なかでも人気が高いのが「メーカー」「商社」「IT」「金融」などの業種です。

──実際に日本で就職できた留学生はどのくらい?

小野 たとえば、平成27年度に日本の学校を卒業した留学生は約4万2000人いて、そのうちのおよそ63%(約2万7000人)が日本での就職を望んでいましたが、実際に就職できたのは1万5000人程度(約58%)でした(『戦略経営者』2017年10月号14頁・図3参照)。つまり1万人以上の留学生が日本での就職を断念して、母国に帰ったりしているわけです。
 この層を放っておくのは、あまりにもったいない話。これまで人材不足に悩んでいた中小企業にとっては、大きなチャンスとなります。

優秀でも就職が難しい

──就職できなかった留学生は、就職できた留学生に比べて一段劣るということはないのですか。

小野 それは大きな誤解です。実は、「就職が決まらなかった留学生=優秀ではない」という図式は必ずしも成り立たないのです。たとえ優秀な留学生でも、思うように就職できない状況があるのです。

──それはどういうことですか。

小野 いま留学生で最も多いのが「中国出身・文系」のカテゴリーに属する人たち。しかし昨今、企業側のニーズが高いのは「ASEAN国籍」および「理系専攻」の留学生なんです。つまり、「需要と供給のギャップ」が存在することが、優秀でも就職できない留学生を生み出しているのです。これは裏を返せば、文系で優秀な人材が余っているということです。
 また、「日本語能力のミスマッチ」があることも理由の一つです。企業側が望んでいるのは、ビジネスレベルの日本語能力をもつ留学生。その一方で大学側は、グローバルに活躍できる人材の育成を優先して、英語のみで授業・研究ができる留学生コースを拡充するなど、企業側のニーズと大きく食い違っているところがあるのです。たとえば東京都内のある国立大学には、日本語の読み書きはあまり得意ではないものの、英語がペラペラの優秀な理系人材がたくさんいるのですが、思うように就職が決まっていません。しかし彼らは若いので、会社に就職してからでも日本語の習得は十分間に合います。「日本語習得は入社してから」と割り切ってしまえば、専門性の高い人材を採用できるチャンスはあるでしょう。

──なるほど。

小野 さらに、大手企業が選考基準にしている、年齢・職歴・SPI(適性検査)の3つの壁にぶつかっている留学生が多いという事情もあります。外国人留学生の多くは日本語学校で1~2年ほど勉強してから大学に進んだり、母国で働いて資金をためてから来日しています。にもかかわらず、日本人の新卒採用と同じ感覚で、「若ければ若いほどいい」「他社のカラーに染まっていないほうがいい」といった価値基準でふるい分けをしている企業がまだまだ多いのが実情です。SPIについても、そもそも日本人ではないので不利。このあたりをもっと配慮してあげてほしいものです。

中小企業との親和性は高い

──それなら、年齢・職歴・SPIにあまりこだわらない中小企業への就職に留学生はなぜ目を向けようとしないのですか。

小野 留学生のほうから中小企業にアプローチをするのは現実的に難しいところがあります。とにかく情報が不足していて、特にBtoB(企業間取引)を業務とする中小企業となると、外国人には就職先の候補としてなかなか目に入ってこないのです。結局、名前を知っている大手企業やBtoC(企業対消費者間取引)の企業ばかりを受けることになります。

──そうした状況を変えていきたいものですね。

小野 ええ。留学生も大学側も中小企業の情報を求めています。企業側から情報を発信する仕組みや、出会いの場をもっと作ることができれば、マッチングの比率は高まっていくでしょう。
 そのような思いのもとに私たちが2014年から毎年開催しているのが、「社長LIVE」と名付けた、経営者と留学生の就職マッチング会です。今年3月に開催したときは、留学生85名(申込者154名から事前選考。合格者のみ参加)が会場に集まり、12人の経営者の言葉に耳を傾けました。最終的に8社17名のマッチング(採用内定)がなされました。

──かつて小野さんは日本語教師として、日本語学校や専門学校でさまざまな国籍の留学生を教えていたとか。

小野 そのときに目の当たりにしたのが、日本の企業に就職したくてもうまくいかずに帰国する留学生が大勢いるという現実でした。留学生の力になれる仕事がしたいと考え、2011年に「ASIA Link」を立ち上げました。「社長LIVE」の開催のほか、取引企業約100社に対し、およそ3000人の登録外国人(留学生・日本在住の外国人材)を紹介する事業もおこなっています。

──そんな小野さんは、就職における外国人留学生の「気質・考え方」をどのように捉えていますか。

小野 あくまで私の主観ですが、整理すると次のような感じです。
 ●一人ひとりの存在感が大きいチームで働きたい。若くても意見が言えて、チャンスがつかめる環境
  がいい
 ●経営層の近くで働き、経営を学びたい(起業家精神)
 ●自分の専門性や国籍の強みを生かしたい
 ●将来、母国の拠点に転籍したい
 いかがでしょうか。ここだけ見ても、外国人留学生は大手企業よりもむしろ中小企業とマッチするように思えてきませんか。どこに配属されるか分からない大手企業の総合職採用を内心は嫌がっている留学生もいます。社長自身の言葉で、「うちの中国事業を広げるために、あなたに来てほしい」といったメッセージをしっかり伝えてあげれば、中小企業に喜んで来てくれる留学生はたくさんいると思います。

──留学生の採用を成功させるうえでのポイントは何ですか。

小野 入社してからの具体的な仕事内容、さらには5年後、10年後にどんなポジション(役職等)に就いているかのロードマップをしっかり示してあげることが、より優秀な留学生を採用するためには大事なポイントになります。ここがあやふやだと、彼らのモチベーションも上がりません。

採用の流れは日本人と同じ

──留学生を採用するにあたっての手順(流れ)を教えてください。

小野 実は、日本人の新卒採用とほとんど変わらないんですよ。留学生も日本人学生と同じように3年生の秋くらいから企業研究をおこない、3月の就職活動解禁のあとに、各企業の個別説明会などを回るようになります。日本人を採用するのと同じフローで、面接などを実施していけばいいのです。
 ただ、求人票については、できれば日本人用と留学生用とをそれぞれ別に作ってください。そこに今後の海外展開のビジョンや、留学生に期待するメッセージを記します。これが書かれていないと、留学生は応募する気になれないのです。
 また、経営者はできるだけ早い段階で留学生と会っておくべきでしょう。彼らは、経営者の力量や人柄をみて「この会社は本当に海外で伸びていくのか」「自分は本当にこの会社で成長していけるか」などを判断していきます。なるべく早いうちから留学生と会ってハートをつかんでおかないと、先に他社での就職を決めてしまう恐れがあります。

──入社後についてはどんな配慮が求められますか。

小野 「フェアとケア」の2つを意識してあげることが肝要です。「日本人だから」「外国人だから」という心の壁を作らせないようするのがフェアで、母国を離れて単身生活を送っている外国人社員にきめ細かい配慮をするのがケアです。これは、できれば社長が率先してやってください。そうした社長の姿を見て、日本人の社員も「外国人の仲間を大事にしていこう」と思うようになるのです。

──最後に「外国人材」の活用について、中小企業経営者にアドバイスを。

小野 少子高齢化によって国内のマーケットはこの先、縮小を余儀なくされます。そうなると海外展開に力を入れる日本企業はますます増えると思います。そのときに貴重な戦力になってくれるのが、優秀な外国人材だといえます。社内に新しい風を吹かせるうえでも、留学生をはじめとする外国人材の活用をぜひ考えてみてください。

(インタビュー・構成/本誌・吉田茂司)

会社概要
名称 株式会社 ASIA Link
所在地 東京都小平市小川町2-1971 エッグビル305
URL http://www.asialink.jp/

掲載:『戦略経営者』2017年10月号