技術進化著しいゲーム業界にあって、堅実な成長を続けているシリアルゲームズ。ゲームをつくりたいとの熱意を持つ5人の若者が2000年に立ち上げた企業である。2016年には自社タイトルのゲームをリリース。吉澤匡社長は『FX2』から得た精緻な財務データを業績判断に役立て、さらに飛躍を図ろうとしている。
ゲームサーバーの開発力を念願の自社タイトルに注ぐ
──初の自社タイトルゲームを発売したそうですね。
右から吉澤匡社長、上甲雅敬顧問税理士、伊藤淳監査担当。
中央は「ピタッチ!」の登場キャラクター
吉澤 スマートフォン向けオンラインパズルゲームの「にこにこ侵略パズル ピタッチ!」です。ゲームの世界観、キャラクターデザインなどすべて当社の開発によるものです。昨年10月の提供開始以来おかげさまで好評いただいており、ダウンロード数は2万件をこえました。基本的に無料でプレーできますが、ゲームを有利に進めたい場合、アイテムを購入してもらう仕組みになっています。
──得意とするゲームのジャンルはありますか。
吉澤 大手ゲーム会社からの受託開発が主力で、ロールプレーイングゲームが結果として多くなっています。スマホ向けゲームのほとんどは、ゲームサーバーに接続してプレーするオンラインゲームが主流です。人気タイトルともなると、数十万もの人が同時にサーバーに接続してプレーします。
大量のアクセスを効率よくさばくためには、高性能なゲームサーバーを必要最小限の台数で運用しなければなりません。サーバーの台数が多いと、管理コストがかさんでしまうからです。われわれのうりはゲームサーバーの開発力。当社の開発したゲームサーバーは性能を高く評価されており、数多くの引き合いをいただいています。
──開発だけでなく運営も手がけていると。
吉澤 原則、製品をリリースして終わりではなく、追加の開発や運営、保守業務も行っています。担当社員が頻繁に変わると取引先さまが不安に思われるので、全員正社員である点も当社の特徴です。業務の一部を他社に外注していますが、これまで派遣社員や契約社員を雇用したことはありません。ウェブサイトに全社員の顔写真とプロフィルを掲載しているのも「顔が見える開発会社」としての取り組みの一環。一時期、引き抜きの勧誘電話が絶えなかったため、氏名をイニシャル表記に変更しましたが。
──ゲーム業界は急成長しているだけにハードワークというイメージがあります。
吉澤 創業当初はマンションの一室で仕事をしていたため公私の別があまりなく、繁忙期になると寝袋を持ち込み泊まっていました。社員を募集するようになり、ここ10年ほどはそうした働き方を改め、残業の削減に取り組んでいます。
心がけているのは仕事を安請け合いしないこと。価格とスケジュールを取引先さまに十分説明し納得してもらったうえで、自信を持って製品を提供しています。この業界は業務単価が安く、相見積もりで他社に負けてしまうケースもあります。ですが、無理に受注した会社では納期に間に合わなかったり、期待されたほどの性能が得られなかったりして、注文が戻ってくることもあります。
繁忙期の負担を軽減した書面添付による調査省略
──長年書面添付(※)を実践していると聞きました。
書面添付10年連続実践の特別表敬状
吉澤 上甲(じょうこう)先生の事務所と創業時からお付き合いしていますが、『FX2』を活用して業績管理し、決算時には書面添付を毎年行っています。2013年に、書面添付10年連続実践の特別表敬状をいただきました。先日税務署から「意見聴取結果のお知らせ」にて調査が省略されたとの通知があり、その表敬状も額に入れて飾っています。
──税務署から書面が交付されたのはいつですか。
吉澤 ことしの5月末です。上甲会計事務所に税務署から意見聴取が行われ、税務調査が現時点で必要ないと判断されたとうかがっています。調査が省略されると上甲先生から電話で伝えられたときは、開発案件をかかえて忙しい時期だったのでありがたかったですね。
2009年に税務調査を受けたとき、領収書などの資料の漏れがないかとても不安でした。当時は『FX2』を利用しておらず、私が日々の取引をスプレッドシートに記録しているぐらいでしたから。丸1日調査に立ち会い、収入印紙を貼付していなかった契約書が見つかり、それが唯一指摘された修正事項でした。
上甲 法人税など税金に関わる修正点は指摘されませんでしたから、申告是認に限りなく近い結果だったと思います。4年前にも意見聴取があり、そのときは調査に移行しませんでした。シリアルゲームズさまは売上高、経常利益が年々増加傾向にあるため、4~5年おきに税務署から接触があるのかもしれません。
──上甲会計事務所の書面添付に対するスタンスをお聞かせください。
上甲 税務調査の経営者に与える心理的負担は少なくありません。自計化していない関与先企業さまでも巡回監査を毎月しっかり行っている場合は、率先して書面添付を実践しています。究極の目標は意見聴取すら行われない書面を提出することです。
前年同月のデータ対比で業績をデジタルに判断
──『FX2』への入力はどなたが行っていますか。
VR(仮想現実)装置を用いた
製品開発も進めている
吉澤 経理担当者を1名雇い、日々の伝票入力を行ってもらっています。巡回監査には監査担当の伊藤さんに来社していただき、監査が終わった後に『FX2』の《勘定科目残高一覧表》や《変動損益計算書》で数字を確認しながら、業績報告を受けるというのが毎月の流れです。
伊藤 もし仕訳の修正点がある場合、『巡回監査支援システム』から指摘事項を印刷し、それを元に訂正してもらっています。経理担当の方が経理業務に精通しているため『FX2』の立ち上げ、初期指導をスムーズに行えました。
──《変動損益計算書》ではどんな点をチェックしていますか。
吉澤 前年同月と比較して業績確認することが多いですね。売上高が前年より伸びているにもかかわらず、利益が減少しているといった事柄を把握できるのは助かります。それと注視しているのは利益の圧迫要因となる人件費の推移。費用の中でも金額が大きいので、ここをしっかり管理できていれば黒字を持続できるととらえています。
──帳表を会議で配布することは?
吉澤 巡回監査後の正確な数値を独自に作成しているシートへ転記し、取締役会議で配布しています。会社の取引が経理担当者と伊藤さんによる二重のチェックを受けることで、データの正確性が高まる点が大きい。巡回監査時に伊藤さんから仕訳の訂正事項を指摘されると、経理担当者はくやしがっています。
──今期の見通しはいかがでしょう。
吉澤 売り上げは前年比を上回りそうですが、社員の採用など投資がかさんでいるので利益は下がるかもしれません。9月に「ピタッチ!」を大幅にリニューアルし、登場キャラクターを追加したり、ゲーム性を変更する予定です。
上甲 昨年自社製品を発売したことで財務諸表にソフトウエアが資産計上され、会計面でガラッと変わった会社になりました。これからは資産価値をいかに高め、利益を生む体質にしていくかという視点が重要になります。
──目標をお聞かせください。
吉澤 直近の予定としては9月に幕張メッセで開催される「東京ゲームショウ2017」に出展します。マイクロソフトの「ホロレンズ」というヘッドマウントディスプレーを用いたMR(複合現実)技術の展示のほか、「ピタッチ!」のブースも設けます。この業界で働いている人なら自分の作品をいつかリリースしたいと思うもの。「ピタッチ!」の発売はその第1弾です。自社タイトルの開発を後押しできる職場環境づくりに今後もチャレンジしていきたいと考えています。
税理士が申告書作成にあたり次のような項目について、添付書面に記載します。
- 関与先にどのような資料、帳簿類が備え付けてあり、どの帳簿類を基に計算し、整理し、申告書を作成したか。
- 今期大きく増減した科目の原因及び理由。
- 関与先からどのような税務に関する相談を受け、回答したか。
- 税理士として関与先の申告書内容について、どのような所見を持っているのか。
日本税理士会連合会「書面添付制度をご存じですか?」より引用
(本誌・小林淳一)
名称 | 株式会社シリアルゲームズ |
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創立 | 2000年2月 |
所在地 | 東京都台東区台東1-21-4 東京ミシン会館ビル4F |
売上高 | 2億2,000万円 |
社員数 | 20名 |
URL | http://www.serialgames.co.jp/ |
顧問税理士 | 上甲雅敬 上甲会計事務所 神奈川県横浜市中区山下町193-1 山下町コミュニティビル6F TEL:045-641-7796 URL:http://www.jokokaikei.net/ |