社員が健康診断の再検査をなかなか受けてくれません。大事になる前に早めの対応を取りたいのですが、どのような対策をとるのが有効ですか。(サービス業)

 従業員の健康は、企業が十分な力を発揮するには欠かせないものです。近年、従業員の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践する経営手法である「健康経営」に注目が集まっています。従業員の健康保持・増進に取り組むことは、従業員の活力向上や生産性向上等の組織の活性化をもたらし、結果的に業績向上や組織としての価値向上につながることが期待されています。

 この背景には、①生産年齢人口(15歳~64歳)の減少、②人手不足問題、③従業員の高齢化などがあげられます。特に中小企業では人材採用難という問題も重なり、従業員にいかに健康で長く働いてもらえるかが企業の成長のカギを握っているといえます。また1人の人財の重みは、従業員数が多い大企業より中小企業の方が大きく、「健康経営」は中小企業にとってこそ大切な取り組みなのです。

従業員は大切な「人財」

 中でも健康診断は、従業員の健康状態を知る上で必須の取り組みです。労働安全衛生法でも事業者に実施義務、従業員には受診義務が定められています。しかし、健康診断後の再検査については、法律は事業者の実施義務と従業員の受診義務を定めていません。そのため、再検査の受診については従業員の判断に委ねられています。

 しかしながら事業者には、従業員が安全・健康に働くことができるように配慮する「安全配慮義務」があります。従業員に何らかの異常が見受けられると知りながら業務を行わせ、健康を悪化させた場合は「安全配慮義務」違反に問われることがあります。そのため、再検査の判定を受けたら速やかに受診推奨する必要があります。再検査を受診することは、病気の早期発見にもつながります。「自覚症状がない」「時間がない」「忙しい」ことを理由に受診しないのはもっての外です。何のために健康診断を受けたのか分かりません。

 再検査の受診率を上げる一番の対応は、従業員に健康管理の大切さを理解してもらうことです。その際には、会社として欠かせない人財であることを伝えることが重要です。それでも受診してもらえない場合は、就業規則などに「必要に応じて健康診断の再検査を命じる」旨の規定を設けることや、会社が再検査の費用を負担し、受診推奨することなどを検討する必要もあるでしょう。また外部の支援機関の情報提供や相談窓口を活用することも有効です。全国健康保険協会では、健康診断や健康診断後の保健指導について情報提供しています。地域産業保健センターでは、従業員50名未満の事業者とその従業員を対象に、健康相談窓口や保健指導等のサービスを無料で提供しています。

 最後に、健康診断に関する補助について紹介します。キャリアアップ助成金「健康診断制度コース」や「人間ドック、健康診断受診補助」などがあります(『戦略経営者』2017年7月号P39・図表参照)。

 健康経営を進める上で重要なことは、経営者がその大切さに「気づく」ことです。従業員がベストパフォーマンスを見せるには、健康状態が良好でなければなりません。従業員の健康が会社の発展につながると考えて、事業者と従業員のお互いが理解し合い、取り組んでいくことが大切です。

掲載:『戦略経営者』2017年7月号