急成長のエアビーアンドビーやウーバーなどを筆頭に全世界で台頭しつつあるシェアリングエコノミー。民泊について法整備の議論が進むなど国内でも活性化の動きが強まりつつある。現状や課題、参入企業のいまをリポートする。

──シェアリングエコノミーとは何でしょうか。

シェアリングエコノミーの潮流

市川 内閣官房情報通信技術(IT)総合戦略室によるシェアリングエコノミー検討会議中間報告書によると、「個人等が保有する活用可能な資産等(スキルや時間等の無形のものを含む)を、インターネット上のマッチングプラットフォームを介して他の個人等も利用可能とする経済活性化活動」と定義しています。①インターネット上のプラットフォームがあること②遊休資産等を提供したい側と利用したい側のマッチングサービスであること③基本的に個人間取引であること④提供者が必ずしもプロである必要がないこと──などがシェアリングエコノミーの特徴です。

──具体的にはどんな事例がありますか。

市川 日本でも話題になっている、空いている部屋を旅行者などに貸し出す「民泊」が典型的な例でしょう。また自家用車の空席に人を乗せて料金を得るライドシェア、駐車場、会議室、旅行案内、子供の一時預かり、ベビーシッター、家事代行……さまざまなモノやサービスをシェアするビジネスが事業化されつつあります。変わったところでは「絵を描く」「占いをする」などのサービスをシェアしているなどの事例もあります。

──広がりを見せている理由は?

市川 一番は価格の安さでしょう。もともと使用していないで遊ばせている資産を特定の時間帯だけ提供するわけですから、モノやサービスは安価な価格で提供が可能になります。また使う側も中古のものに対する抵抗がなくなっており、特定の日時に「子供を預かってほしい」「犬の散歩に行ってほしい」といった要望に応えてくれるこの仕組みに大きな利便性を感じているようです。このようなサービスは以前にはやりたくてもできませんでしたが、インターネット上で瞬時にマッチングさせることができる技術の進歩によって可能になりました。

──サービスの質や安全安心の確保が心配です。

市川 法律による事前規制とは全く違う発想ですが、サービスの質を担保するのは、相互評価による事後チェックが基本です。民泊を例にとると、ゲストは宿泊後にその施設がよい施設だったかどうか、ホストはゲストがきれいに施設をつかってくれたかどうかをレビューに書き込み、そのレビューの蓄積を他のユーザーが読んで判断材料にするという仕組みです。

既存事業者への配慮必要

──ホテル・旅館業やタクシー業界からの反発の声も耳にします。

市川 業法で規制されている既存事業者が不利にならない「イコールフィッティング」を十分に実現する必要があります。いままで法令順守のコストを負担してきた既存事業者が客を奪われてしまうとなると、あまりに不公平ですからね。経済の新陳代謝が生じるのは歴史的にやむを得ませんが、過渡期には既存事業者に対するなんらかの救済措置や配慮は不可欠でしょう。実際、世界的に急成長しているシェアビジネスであるライドシェアに対する激しい抗議活動が繰り広げられた国や地域もあります。

──国内の法整備などについて現状を教えてください。

市川 3月10日に「住宅宿泊事業法案」が閣議決定され、①年間提供日数の上限を180日とする②提供者側が都道府県知事に届け出をし、仲介業者は観光庁長官に登録する③家主不在型の施設で委託を受けた住宅宿泊管理業者は国土交通大臣に登録する──などといった制度の大枠が固まりました。ただ年間提供日数の上限である180日についてはそれぞれの地域の実情を反映できるとされており、自治体によってはさらに少ない日数、場合によってはゼロ日となる可能性もあるなどいぜん見通しは不透明になっています。
 さらに旅館ホテル業など既存事業者との関係においては、3月7日に旅館業法の改正法案を閣議決定しており、①ホテルと旅館の営業種別を統合して規制緩和する②違法な民泊サービスの規制強化を目的に無許可営業者の罰金額を100万円に引き上げる──ことを決めました。このほか内閣官房情報通信技術(IT)総合戦略室内にシェアリングエコノミー促進室が設置されるなど、政府はシェアリングエコノミーの健全な発展を推進するスタンスを強めています。

──課題は?

市川 法整備や相談窓口の充実などでグレーゾーンをどれだけ解消できるかが一番のポイントだと思います。2点目はシェアリングエコノミー事業者とサービスを実際に提供する人の雇用関係のあり方。例えばライドシェアの場合、サービスを提供する運転手の社会保障がどうなるのかという問題が顕在化する可能性があります。さらに税制面の問題も手つかずのままです。副業としてシェアビジネスの提供者になる人が増えると予想されますが、開業届をして個人事業主としてきちんと納税をするのかどうかは不透明です。

──シェアリングエコノミーは新しい商品が売れなくなるという指摘もあります。経済全体にとってプラスになるのでしょうか。

市川 すでに誰かが保有しているモノを一時的に使用する権利を売買するわけですから、新商品が売れなくなる要因の一つにはなるかもしれません。カーシェアが普及すれば新車の販売台数にマイナスの影響を与えるというロジックです。一方プラス面は、全く新しい市場が誕生することで、既存事業者、女性や若者、シニアなどを含めた労働者の新規参入が促されます。民泊でいえば民泊施設の管理運営を代行するビジネスが、場合によっては急激に増加するでしょう。また周辺ビジネスへの波及効果も無視できません。シェアリングサービスにまつわるトラブルに対する保障を目的とした保険事業には大きなチャンスが生まれるでしょうし、セキュリティー関連や本人確認システム、民泊施設の清掃業、データ分析、情報発信に関わる事業を営んでいる企業などにとっては、ビジネスチャンスが一気に拡大するのではないでしょうか。
 加えて民泊の普及は訪日観光客の増加を後押しするので、旅行業や飲食店にとっても好影響を与えるでしょう。ITを活用した新規事業者の参入が既存事業者への良い刺激になり、両者が切磋琢磨(せっさたくま)するなかで市場全体のパイが拡大することにつながると期待しています。総合的に考えれば、経済全体にとってはプラスになると分析しています。

(インタビュー・構成/本誌・植松啓介)

掲載:『戦略経営者』2017年5月号