契約の取り消し、契約条項の無効などの規定が改正された消費者契約法が2017年6月から施行されると聞きました。改正ポイントはどのようなものでしょうか。(寝具販売)

 消費者契約法は2000年に制定された法律で、消費者と事業者との間の情報、交渉力の格差に鑑み、消費者に一定の要件のもと契約の取り消し権や消費者に不利な契約条項の無効を定めることにより、消費者の保護を目的とする法律です。

 2000年の制定以降、高齢化が進むなど社会経済情勢の変化によって、これまでの消費者契約法では十分に消費者の被害の救済を図ることが難しいケースが生じてきたことから、今回の改正に至りました。改正ポイントは、①不実告知の対象となる重要事項の範囲の拡大②過量な内容の消費者契約の取り消し③取り消し権を行使した消費者の返還義務④取り消し権の行使期間⑤消費者の解除権を放棄させる条項の無効、などです。本稿では、契約の取り消しに関する重要な改正事項である①と②について説明します。

①重要事項の範囲の拡大
 これまでの消費者契約法も、事業者が勧誘するに際して、契約に関する重要事項の不実告知などにより、消費者が契約内容を誤認した場合には、当該契約を取り消しできると定めています。

 しかし、例えば、真実に反して現在使用しているタイヤの「溝が大きくすり減っていてこのまま走ると危ない、タイヤ交換が必要である」と告げて新しいタイヤを購入させた場合、これまでの消費者契約法では、消費者契約の目的となるものに関しない事項についての不実告知であるため、取り消すことができませんでした。

 しかし、このような消費者被害は、消費者が本来不要である契約を締結してしまったものであり、消費者に取り消し権を認めるべきとの議論がなされました。

 今回の改正で、重要事項の対象に、「物品、権利、役務その他の当該消費者契約の目的となるものが当該契約者の生命、身体、財産その他の重要な利益についての損害又は危機を回避するために通常必要であると判断される事情」が追加されました。これにより上記タイヤの事例では、重要事項について不実告知があった場合に該当し、取り消しが認められるようになります。

②過量な内容の契約の取り消し
 消費者にとって契約の目的物の分量、回数、期間が著しく過度な量の契約であることを知りながら事業者が勧誘することが契約の取り消し事由として定められることになりました。

 これは、高齢化がすすみ、例えば、呉服などの販売会社が、店舗に来訪した高齢者に対して、認知症のために財産管理能力が低下している状態を利用して、老後の生活に充てるべき資産をほとんど使ってしまうほどの着物や宝石等の商品を購入させるなどのトラブルが顕在化したことから、このようなトラブルを解決するために消費者契約の特質を踏まえた明確な要件を定めて、過量な内容の消費者契約の取り消しを認める規定を消費者契約法に設けることにしたわけです。

 具体的には、消費者契約の目的となるものの分量等が当該消費者にとっての通常の分量を著しく超えるものであることを、勧誘の際に事業者が知っていた場合において、消費者がその勧誘によって当該消費者契約の申し込みまたは承諾の意思表示をした場合、取り消すことができるようになります。

無効を主張されないように

 近年、消費者の権利意識が高まり、消費者との契約についても、きめ細やかな対応が必要になっています。事業者は、消費者との取引にあたり、消費者契約法を十分に理解し、事後的に契約が取り消しされたり、消費者から契約条項の無効を主張されないよう準備することが必要になるといえます。

掲載:『戦略経営者』2017年5月号