昨年暮れに閣議決定された平成29年度税制改正大綱。注目を集めた配偶者控除の見直しが小幅なものにとどまる一方、積極的な投資を後押しする税制措置が数多く盛り込まれた。中小企業経営への影響が予想される項目をピックアップした。
①法人課税
2017年度の税制改正大綱は、中小企業の「攻めの投資」を後押しするための各種税制措置が講じられているのが大きな特徴となっている。まずは中小企業投資促進税制の上乗せ措置として行われていた即時償却と税額控除措置を改組した「中小企業経営強化税制」の創設を取り上げよう(図表1)。
この制度は、中小企業等経営強化法の認定を受けた企業が、生産性を1%以上向上させる「生産性向上設備」あるいは投資収益率年平均5%以上の投資計画に必要な「収益力強化設備」への投資を行った場合、即時償却または法人税額7%(個人事業主か資本金3000万円以下の企業は10%)の税制措置をするというもの。基本的な枠組みは旧制度を引き継いでいるが、大きく変わったのが、対象企業を経営強化法認定企業に限定したところである。この税制活用を検討する企業は、必要に応じ税理士などの経営革新等支援機関のサポートを受けながら経営力向上計画を策定し、その認定を受けなければならない。
さらに大きな変更点といえるのが、減税対象となる設備の種類が大幅に拡大されたこと。従来は機械装置と一部のソフトウエアのみに限定され、制度を利用するのは製造業にほぼ限られていたが、新制度では器具備品や建物付属設備なども対象に含まれるようになった。経済産業省の公表資料によればサーバーや業務用冷蔵庫、介護浴槽、エレベーター、空調設備などが例示されており、小売りやサービス業など幅広い業種での利用が期待できるだろう。
「経営力向上計画」が重要に
「経営強化法の認定が要件に加わる」と「対象となる設備の範囲拡張」がセットになって制度が拡充された例がもう一つある。前年7月に導入された固定資産税の特例制度だ。これは赤字法人を含む商店・飲食店・介護事業者などの中小サービス業の生産性向上を促すため、経営強化法の認定を受けた事業者が取得する設備について、その固定資産税を3年間2分の1に軽減するというもの。従来は機械装置に限定されていたが、これも一定の器具備品・建物付属設備を対象に加えることになった。
ちなみに、上乗せ措置の部分が中小企業経営強化税制に改組された中小企業投資促進税制は、通常措置(税額控除7%、30%償却)の部分が2年延長されることが決まった。ただし逆にこちらは対象設備のうち器具備品・建物付属設備が「中小企業経営強化税制」に移管されたので、注意が必要である。 また、商業・サービス業・農林水産業活性化税制も同様に2年間の延長が決まった。これは税理士などの認定支援機関による経営改善支援を受けて取得した器具備品や建物付属設備について、30%特別償却または7%税額控除ができる措置である。
中小企業の投資にかかる税制改正を全体的に見渡すと、固定資産税減免や税額控除、特別償却などの措置を伴う多くの制度がそのまま延長、あるいは対象設備が拡大されているものが多い。しかしその一方で、制度適用の要件として経営力向上計画の作成という項目が新たに付け加えられている。計画の認定を受けた企業は他にも制度融資の金利減免や各種補助金受給に対し審査上の加点がなされるなどのメリットがあるので、積極的な活用を検討すべきだろう。
賃上げ企業を強力に支援
賃上げを実施した企業に対し税額を控除する所得拡大促進税制が、賃上げ率が一定以上の中小企業について大幅に拡充されている点も見逃してはならないだろう(図表2)。同税制は、①給与等支給額の総額が平成24年度から一定割合増加②給与等支給額の総額が前事業年度以上③平均給与等支給額が前事業年度を上回る――の3つを満たすような賃上げを行った場合、法人税額の10%が控除されるという制度である。
今回の改正では、この三つを満たした上で賃金上昇率が2%未満の場合は現行制度のままだが、上昇率が2%以上増加した場合には、税額控除を一挙に22%にする見直しが行われた。大企業は2%以上の賃上げが必須になったことでむしろ要件が厳しくなったので、高率な賃上げを実施する中小企業を強力に支援する姿勢が明確に打ち出されたといえる。
この制度は税金がダイレクトに減り税引き後利益がそのまま増えるだけに、かなりの影響が予想される。仮に前年度比2%以上の給与引き上げで1000万円賃金を増やしたとしよう。単純計算で22%の税金が戻ってくることになるが、それは税額控除分を30%で逆算した660万円の利益を圧縮したのと同じ効果になる。実際には人件費が上昇した分経費が増え法人税が減少するので、より大きな税額に影響を与えることになる。
中小企業に対する影響の度合いは賃上げ税制に比べ低いことは否めないが、企業の研究開発投資を後押しする研究開発税制の延長・拡充についての説明も必要だろう。この制度は、試験研究費総額に対して税額を控除する「総額型」、大学や国の研究機関などとの共同・委託研究費(特別試験研究費)の20%または30%を控除する「オープンイノベーション型」という2つの恒久措置に加え、試験研究費の増加割合に応じて控除率を上乗せする「増加型」、試験研究費の増加率が売上高比10%を超えた場合に10%を上限に上乗せする「高水準型」という2つの時限措置を上乗せする手法で構成されていた。
今回の改正では上乗せ時限措置の「増加型」が廃止され、恒久措置の「総額型」に投資増加インセンティブがはたらくような仕組みを設けた。中小企業の場合(中小企業技術基盤強化税制)、これまで一律試験研究費の12%を控除していたが、改正により、増加額が5%を超えた場合には増加分に応じて17%まで控除率が上昇するようになる。
加えて控除額の上限も法人税額の25%という従来の水準からさらに10%上乗せされ、35%まで拡大した。売上高の10%を研究開発に投じている中小企業は限られてくるので、「高水準型」ではなく、新しい「総額型」を活用するケースがほとんどになると思われる。
「第4次産業革命型」を追加
また投資減税の改正と同様に、製造業の「ものづくり」の研究開発に加え、「第4次産業革命型」のサービス開発にかかる試験研究費も支援対象に追加したことも特筆すべきだろう(図表3)。IoTやビッグデータ、AI等を活用することで企業が新たなビジネスを創出していくことを後押しする狙いがある。経産省は、ドローンで地形や降雪状況などを収集分析して的確な災害予測などを提供する「自然災害予測サービス」、ウエアラブルデバイスなどにより個人の健康状態などを収集分析し健康維持サポート情報を配信する「ヘルスケアサービス」、農地の温度や湿度をセンサーで収集分析して効果的な農作業情報を配信する「農業支援サービス」、ドローンや人工衛星などで自然界や生態系情報を細かく収集分析して観光情報に活用する「観光サービス」を参考事例としてあげており、これらに関連するサービスの開発を計画している企業は制度拡充の恩恵を受けられるかもしれない。
昨年はシャープや吉本興業などの大企業が減資を検討して税制上の中小企業の特例措置を受けようとしていることについて疑問の声があがったが、そうした懸念に対応する改正も行われた。資本金の額にかかわらず、15億円以上の所得を継続的(3年平均)に稼いでいる企業については、法人税関連の中小企業向け租税特別措置の対象外となったのである(平成31年4月から適用)。前回の税制改正で従業員1000人以上の企業を中小企業の対象から外すような事例も出たことから、中小企業の範囲を資本金基準だけでなく多角的にみていく動きは今後も継続していくだろう。
※本誌掲載記事より「①法人課税」のみ抜粋して掲載しています。
「②資産課税」「③個人所得課税・国際課税その他」については本誌(『戦略経営者』2017年2月号)
をご参照ください。
(取材・執筆・構成/本誌・植松啓介)