精密機械製造業の一大集積地、長野県県南エリアに協和精工はある。堀政則社長は不断のカイゼン活動や、社員による「ホットサークル活動」により自立型企業を築き上げてきた。近年は産業ロボットや医療機器に用いられるブレーキ製造に注力。第50期を迎え、さらに詳細な財務分析に取り組もうとしている。

製販一体となり顧客のニーズを具現化する

協和精工:堀社長(中央)

協和精工:堀社長(中央)

──会社設立50周年と聞きました。

 ことし6月から第50期に入り、組織体制の見直しを進めている最中です。昨年末に新工場の竣工(しゅんこう)、本社工場の移転を行い、拠点を1カ所に集約。第1工場でブレーキの製造、第2工場で精密機器部品の加工、精密機器組み立てを行っています。

──具体的に用いられている製品というと?

 当社で製造しているのは自動車に搭載される一般的なブレーキと異なり、産業用ブレーキと呼ばれ、ロボットの関節部分や電動車いす、医療機器などに使用されています。すべての製品がオーダーメードである点が特徴ですね。

橋場 精密機器部品加工部門ではお客さまのご要望に基づき医療機器、半導体製造機器、防災機器等に用いられる部品加工を手がけています。

──同業の企業が集積するエリアですが、強みは?

 数百名以上の社員がいる企業と伍(ご)していくためには、営業担当者のフットワークを軽くしたり、製品の開発期間を短縮したりスピードが大事な要素です。オーダーメードという話がありましたが、お客さまとの商談には営業担当者だけでなく技術担当者も同席し、ニーズを的確に把握するよう努めています。
 開発過程では随時「デザインレビュー」という会議を開き、組み立て、加工、検査、生産管理などの部門責任者が一堂に会し、製品開発のプロセスを共有しています。さまざまな部門から品質向上やコスト削減に関する意見が出て、設計図面に即座にフィードバックできる体制をとっています。
 こうした取り組みが評価されたためか、近年は口コミや当社のウェブサイトを通じての商談依頼が増えています。他社に断られた案件を当社に相談される方も多いです。

──スピードとチームワークがカギだと……。

 技術にも〝旬〟の時期があり、旬を過ぎてしまうとコモディティー化し価格競争に陥ってしまいます。そのため当社ではロボット、医療、宇宙をはじめとする高い付加価値の見込める分野に積極的に挑戦しています。従来の下請け的な発想を払拭(ふっしょく)するためには、社員教育を通して技術力を高めることが重要です。

──具体的な取り組みをお聞かせください。

 いま取り組んでいるのは「3K」活動と名付けた改善活動で、各部門の役職者が課題をオープンにして解決策を話し合っています。3Kとは協和精工、改善、効率の頭文字から取りました。加えて「ホットサークル」という小集団活動も10年以上実施しています。こちらは社員が6~7名からなるチームを組み、各セクションで困っていることを解決するための取り組みです。
 また、大手企業を定年退職し地元にUターンした工場長経験者を採用。「社内塾」の講師になってもらい、トヨタ生産方式など社外の知見や考え方を学んでいます。

福嶋 協和精工さまでは4カ月に一度、金融機関や地元商工会の担当者も招いて「ホットサークル成果発表会」を開催されています。経営方針や直近の業績も発表しており、こうした情報発信が社内外からの信頼獲得につながっていると思います。

──定年退職した人を積極的に雇用しているのでしょうか。

 ベテラン人材だけでなく、障害者や異業種出身の社員も大勢います。建設業やファミリーレストランの店長、あるいは美容師だった人も在籍しています。根底にあるのは人を活(い)かす経営という考え方で、各自が得意分野を見いだし担当することによって、仕事に対するモチベーションは上がるものです。

──「ダイバーシティ経営企業100選」に選ばれたそうですね。

 昨年申請し、ことしの3月に認定されました。長野県内の経営者の会合などで講演しているのを経済産業省の担当者が聞きつけ、申請の提案をしていただきました。

経営会議、全体朝礼で最新業績をつまびらかに

──長年『FX2』を利用されていると聞きました。

 私が社長に就任した平成12年にはすでに『FX2』を導入していたので、15年以上になりますね。会社を引き継いだ当時、倒産の危機にありながら、社員は会社の業績を全く知らされていませんでした。これはまずいなと。社員にも業績をきちんと数字として示さなければ、賞与額などの待遇面も納得してもらえないのではと考えました。

──倒産の危機に陥ったのはなぜですか。

 一番のトリガーになったのは大手の得意先が倒産してしまったことです。さらに半導体機器分野に重点を置くあまり、設備投資が過剰になっていました。 

──1カ所で『FX2』を利用されているそうですが、入力する伝票数は相当あるのでは?

 ひと月ざっと1200枚ぐらいでしょうか。昨年までベテランの経理担当者がすべての取引を入力していましたが定年退職し、現在は4人の担当者が入力しています。

中島 当事務所では翌月10日までに監査をするというルールがあり、毎月タイムリーに伝票入力していただいています。他社生産管理システムとのデータ連携が当面の課題で、『FX4クラウド』への移行をご提案しているところです。

──部門は登録していますか。

 加工部門、組立部門、特定派遣部門、技術営業部門の4つに分けて業績を管理しています。課長職以上の社員が出席する経営会議では《部門別利益管理表》を元に問題点と打ち手を話し合っています。

──特にチェックする点は?

 まず目が行くのが限界利益率や変動費で、それぞれ目標値を設定しています。目標を達成できていない場合、どのような問題点があるのかタイムリーに探る意識がないと会社組織のタガが緩んでしまいます。例えば材料などの無駄があるのか、あるいはお客さまからの値下げ要請があるのかなど、原因を追究することが大切です。

──数字が緊張感をもたらすわけですね。

 目標に置いているのは黒字を毎月達成すること。そのためには週単位で業績の推移をウオッチして、翌週には何らかの手を打てる体制が理想です。毎月開催している全体朝礼でも前月の売り上げや変動費の速報値を発表しています。
 また、設備投資を計画的に進めるため、「マネジメントレポート(MR)設計ツール」を活用して『FX2』のデータを切り出し、スプレッドシートで資金計画を立てています。

──金融機関の反応はいかがでしょうか。

 月次業績が確定した翌日には取引金融機関を訪れ、《変動損益計算書》を提出しています。社長就任以来欠かさず続けていて、現在持参しているのは4行です。最近は部長職の社員にも同席してもらっていますが、ただ持参するだけでなく、経営環境や業績の見通しをお伝えする貴重な場となっています。

──将来のビジョンをお聞かせください。

 中国、東南アジアの部品メーカーとの競争に打ち克(か)つため、強みを掘り下げて会社の体質を鍛えるのがひとつ。それから近年、親御さんの介護やお子さんの育児をしながら働く社員が増えているため、託児所の開設なども検討しています。これからも人を活かす経営を追求し、社員に「協和精工の社員で良かった」と感じてもらえるような会社を目指していきます。

(本誌・小林淳一)

会社概要
名称 株式会社協和精工
設立 1966年7月
所在地 長野県下伊那郡高森町山吹1646-5
売上高 21億円
社員数 155名
URL http://kyowaseiko.jp/

CONSULTANT´S EYE
次代を担う経営幹部の育成を支援
税理士法人篠田会計
代表社員税理士・所長 福嶋恭則
(高羽町事務所)長野県飯田市高羽町1-4-10
TEL:0265-49-0230
http://www.shinodakaikei.com/

 協和精工さまと当事務所は30年以上にわたりお付き合いさせていただいています。前社長と当事務所会長が高校の同級生であり、簿記や経営を学びたいとご依頼いただいたことがきっかけでした。近年、売り上げが増加し取引内容も複雑化しており、月次監査では日々の仕訳や稟議書、証憑書類などから変化を感じ取ることを心がけています。経営会議には私のほか監査担当、サブ担当も同席し、事業の課題や対策について話し合う機会となっています。

 現在ご利用いただいている『FX2』では《部門別利益管理表》をよく見られているようです。堀社長が特に着目されているのは変動費率、材料費率、外注費率、労働分配率の推移です。毎月開催されている経営会議、企画会議でもこれらの数値を検証し、問題点の発見、改善に取り組まれています。また、昨年ベテランの経理・総務担当者が定年退職し、入力担当者が交代して日が浅いため、丁寧に操作説明することを心がけています。

 生産管理システムとの連動、より詳細な業績管理体制の構築が目下の課題となっており、最終的には日次決算を目指しています。当事務所で毎月開催している「経営革新塾」には5名の社員の方にご参加いただいています。今後、事業承継をスムーズに進めていただくため、経営幹部や若手社員の方々にも企業経営について学んでいただき、当事務所もサービスを継続して提供できるよう努めていきます。

掲載:『戦略経営者』2016年10月号