長年販売している商品を商標登録出願したところ、既に他社に先を越されていました。その会社には経営実体がないようですが、商標登録は諦めなければならないでしょうか。(和菓子製造販売)
商標とは、事業者が自らの商品・サービスと他人の商品・サービスを区別するために使用するマーク(識別標識)です。さまざまな商品やサービスが存在する中で、商標は商取引を行う上で必要不可欠であり、企業の顔とも言えるものです。
商標は、特許庁へ商標登録出願を行い、審査を経て登録が認められると「登録商標」として商標権が発生します。商標権は、マーク(商標)とそのマークを使用する商品・サービス(指定商品・指定役務)の組み合わせで一つの権利となっています。商標権者は、登録された商品・サービスにおいて登録商標を使用する権利を専有し、他人によるその類似範囲の使用を排除することが可能です。また、権利を侵害する者に対して侵害行為の差し止めや損害賠償等が請求可能で、それらの効力は日本全国に及びます。
このように商標権はとても強い権利であり、商標登録を行うことは、自社の大切なブランドを守る上で非常に有効な手段です。しかし、近年、一部の出願人から他人の商標の先取りとなるような商標を含んだ大量の商標出願が行われています。しかも、これらのほとんどが出願手数料の支払いのない手続き上の不備のある出願となっています。
特許庁では、このような出願については、出願料金の支払いを求めるなどの必要な通知を行った後、出願の日から一定期間(現在であれば、早くて約4カ月)後に出願の却下処分を行っています。また、仮に出願手数料の支払いがあった場合でも、出願人の業務で使用しない商標や、他人の著名な商標の先取りとなるような商標、第三者の公益的な商標などの場合には、商標登録されることはありません。よって、仮に自社の商標について、このような出願が他人からされていたとしても、その理由だけで商標登録を断念することのないようご注意ください。
なお、以前から消費者に広く知られている商標である等の条件を満たせば、他人に商標登録をされても、自分が引き続き使用する権利(先使用権)があります。いずれにしても、安心して商標を使用するためには、自社の商標について商標出願をすることが重要です。
また、自社の商標を他人に先取り出願されてしまうのは、海外でも起こりうる問題です。日本で使用していた商標を、これから海外でも使用して事業展開を行おうとしたら、既に海外企業が自社の商標を出願していたというケースが生じています。この場合、模倣品・海賊版などの営業実態があることが多く、複雑です。まずは、外国で商標が悪用されていないか調査が必要です。日本貿易振興機構(JETRO)では、「中小企業商標先行登録調査・相談」を行っています。さらに、特許庁でも、例えば、中国など海外で現地企業から、自社のブランドの商標を冒認(先取り)出願された中小企業に対し、異議申し立てや取り消し審判請求など冒認商標を取り消すためにかかる費用の2/3を助成する「冒認商標無効・取消係争支援事業」等の各種支援事業を行っています。一定の要件はありますが、万が一このような事態に遭遇してしまった際には、特許庁やJETROへご相談ください。
参照HP
特許庁:ご注意文
JETRO:知的財産保護