あらゆる産業のなかでももっとも激しい変化にさらされている音楽業界。インターネットの普及の波をもろにかぶり、CDセールスは大幅に落ち込んでいる。そんななか、独自路線を歩みつつ、安定した業績を収め続けるインディーズレーベルがある。ランブリング(ぼちぼちぶらぶら)しながらニッチで良質な音楽を提供するランブリング・レコーズだ。
- プロフィール
- さわたり・かずひろ●1986年、関西外国語大学入学後、89年に米メリーランド州立大学に編入。91年、関西外大卒業後、日本ビクターに入社。その後、サウンドトラック・リスナーズ・コミュニケーションズ、94年、カルチュア・パブリッシャーズ、カサレアルを経て2001年、ランブリングレコーズ設立。
ネット配信の普及によるCD不況、特典付き音楽ソフト販売に代表される“なんでもありのマーケティング”など、ここ十数年で劇的な変化を遂げつつある音楽業界。そのせいか従来型の音楽レーベルやオーディオ関連は斜陽産業という位置づけが定着してしまったようだ。ところが、2001年創業のランブリング・レコーズは、映画のサウンドトラックや「ラウンジ」(ホテルのラウンジでかかるようなゆったりとした音楽)など、こだわりの選曲と積極的な提案型営業の姿勢を貫き、ニッチなファンを確実につかんできた。
斜陽産業で生き残るには
佐渡和広 氏
佐渡(さわたり)和広社長はいう。
「学生時代は当たり前のように音楽を聴いていたにもかかわらず、社会人になると忙しさにかまけてぱたりと聴かなくなる方は多いですよね。もったいないと思います。そんな人たちにも、良い音楽に触れる環境をつくり出していくことが当社の存在意義だと考えています」
佐渡社長は子どものころから音楽好きで、山口百恵など、1970年代の歌謡曲を聴いて育った。その一方で、小学校3年の時に父親につれられて映画館で見た「ジョーズ」に強烈な影響を受ける。以来、映画に魅せられて、サウンドトラックのレコードを買いあさるようになったのだという。
その後、関西外国語大学に入学。1年間米メリーランド州立大学へ留学するなど、海外・語学体験を積み、日本ビクターに入社。ところが「配属されたのが海外部門ではあったのですが、ハード担当だったので、少し自分のやりたいことと違うかなと」考えた佐渡社長。独立系の小さなレコードレーベルに転職し、海外のレコード会社との折衝や音楽版権業務を担当する。
ここで海外の音楽家やレーベルとの信頼関係を構築。さらに、カルチュア・コンビニエンス・クラブの関連会社(カルチュア・パブリッシャーズ)に転身し、海外でのさまざまな交渉、音楽や映像の版権の買い付けなどをまかされるようになる。
「いきなり現場に放り込まれ、大変でした。ソフトの版権はもちろん、英語ができる人も少なく、多忙な毎日でしたが、おかげでとても良い勉強をさせていただき、結果として、独立のきっかけにもなりました」
2001年、ランブリング・レコーズ設立。映画の音楽だけを抜き出した「スコア」と呼ばれるサウンドトラックの輸入・販売に取り組んだ。版権のスペシャリストとして米国に信頼する取引相手を数多く持っていた佐渡社長。仕入れに困ることはなかった。とはいうものの、すでにネット配信や高音質DVDの時代がやってきており、サントラマーケットは沈没一歩手前。それどころか音楽CDマーケット自体が沈み始めていた。
「しかし、40代以降の僕らの世代は、サントラをアイチューンでは購入しません。その意味でCD需要は確実にある。また、ネット配信をやるにしてもハイレゾという高音質に特化し、本物のマニアに訴求しました」
さらに、サントラの優位さは、宣伝の必要がないこと。映画自体が宣伝となるからだ。だからといって、注目の大作がサントラとしても売れるとは限らない。海外の情報を集めながら良質の映画、作曲家を見極め、版権をとり、さらに、そのような映画を上映してくれる単館系の劇場での即売会などで収益を上げていく。斜陽化するサントラ市場では競合が次々にドロップアウトしていき、逆に、生き残ったランブリング・レコーズのような会社にニーズが集中するようになってきたこともプラス材料になった。
業務用音楽アプリの開発
「サントラ、ラウンジに限らず、最近はテレビの番組制作会社からの依頼が急速に増えています。当社の音源は約15万曲。いずれもしっかりとした技術で録音していますから、“ランブリングなら間違いない”と、チープな音を嫌うテレビマンたちにご支持いただいているのです」
その関連でいえば、テレビ番組の選曲や効果を業務とする「音効会社」への営業活動を頻繁に行っているのも同社の特徴。佐渡社長は「そんなことをやっているレコード会社はほとんどないのでは」という。
ランブリング・レコーズの創業以来の変わらぬ理念は「衣食住+音楽」。生活空間のなかで当たり前のように音楽を楽しむ環境を創出することである。そのために、ジャズやボサノバなど心地よく自然に耳に入ってくる音楽「ラウンジ」を手がける一方、パッケージデザインにも気をつかうことで、おしゃれな家具店や雑貨店にインテリアの一部として陳列してもらえる工夫も重ねてきた。つまり、CD店以外での販売ルート開拓に注力することで、間口を広げ、潜在ニーズを掘り起こす狙いだ。ヴィレッジヴァンガードでも4年ほど前から取引実績があり、かなりの売り上げを記録しているという。
このように、音源を多数取得していく過程で、商業施設へのBGMコンサルティングサービスという新たな業態へのチャレンジもスタートする。千葉県のショッピングセンターを皮切りに、家具ショップのACTUS、コンラン、最近では大手のワールドやマルイ、セレクトショップなどアパレル系店舗からの引き合いが圧倒的に多くなっているという。その数なんと約800店舗。アパレルはイメージを大事にするため、アーティストの色がつきすぎた楽曲は不向きであり、新鮮かつ落ち着いた上品な音が求められる。そこで同社ではタブレットを使用した専用アプリ(ランブリングプレーヤー)を開発。ジャズ、オールディーズ、ラウンジなど、既存の業務店用音楽配信会社のサービスにはない、それぞれの店舗の雰囲気に合ったおしゃれな音楽をセレクトしてダウンロードできるような仕組みを構築した。
アーティストを育てる
さらにいま、取り組んでいるのがアーティストのマネジメントやCD制作である。例えば、ジャズシンガーの青木カレンやピアニストの森田真奈美。森田氏は自作の曲がテレビ朝日「報道ステーション」のテーマ曲に採用された。また、シンガーソングライター・畠山美由紀はレーベルとして契約。さらに、ブラジルの世界的ボサノバ歌手・ジョイス(・モレーノ)とは来日(ブルーノートでの公演)に合わせて、新譜制作の契約に成功。そして、BGMを配信しているアパレルショップ2店舗での彼女のライブイベントも予定されている。
「流行に左右されることなく優れたミュージシャンを紹介し、ウィンウィンの関係を作り上げることが大事。その店舗や施設のイメージにうまくはまれば、お互いに良いプロモーションになりますからね」
さて、そんなランブリング・レコーズだが、近年、粗利益がじわじわと上昇中だ。CD販売が売り上げの大半を占めていた時代と違い、いまは、保有する音源を配信で販売したり、業務用BGMに使用したりといったビジネスでの2次利用、3次利用は原価が極めて低いので、そこを追求、拡大することで利益率を押し上げることに成功している。
「CDがメーン商材だった時代の当社の粗利益は35%前後でしたが、いまでは40%を超えてきました。そのため、キャッシュフローもよくなり、社員への報酬アップや適切な投資へもまわせるようなっています。40%という利益率は音楽業界では珍しいのではないでしょうか」
また、佐渡社長は「BGM音源使用料は年間契約なので予算化しやすい」点もメリットとして挙げる。先が見えれば、新規事業へ踏み込む勇気も出てくる。
「今、さまざまな店舗でキッズルームが併設されています。そこで、前述のアプリを音楽から知育ゲームなどに変換し、キッズルームで使っていただくサービスの開発も進めています」
ニッチに生きるインディーズレーベルの強さは、その機動力にあるといえそうだ。
(取材協力・蛭田昭史税理士事務所/本誌・高根文隆)
名称 | 株式会社ランブリング・レコーズ |
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設立 | 2001年10月 |
所在地 | 東京都渋谷区上原2-34-3 |
年商 | 3億5,000万円 |
URL | http://www.rambling.ne.jp/ |