中小企業でも、商品・サービスを外国人向けにどう販売するか考えるのを避けては通れない時代になった。自社の「ジャパン・クオリティー」について自覚的に捉え直し、戦略的なマーケティングにつなげている事例についてリポートする。

ジャパンクオリティの生かし方

 ECサイト『BE FOWARD.JP』で世界100カ国以上に中古日本車を輸出しているビィ・フォアードは、わずか5年で売上高を50倍近くまで増やした急成長企業だ。特にアフリカでは「各国の検索ワードで上位10位以内に入ることも珍しくない」(同社)というほど高い知名度を獲得している。そして同社の山川博功社長が2008年の創業当初から大切にしているのが「ジャパニーズ・クオリティー」という言葉。「前へ、日本の品質とサービスを世界に」という簡潔な経営理念にもその思いを込めた山川社長は、その意図するところについてこう話す。

「特にこの言葉を意識していたのではなく、日本で生まれ育った私は『おもてなし』に代表される日本の商いのやり方しか知らなかっただけです。ところが海外では事情がまったく違う。事業を続ける中であらためて日本品質のサービスが優れていることに気づき、日本のお客さまに対するのと同じようなクオリティーで海外の人にも商品を提供しよう、という考えで経営理念にこの文言を入れました」

 一昔前まで、中古車輸出業界といえば、特定の国や地域ごとに事業を行う外国人が主力プレーヤー。山川社長が参入したときは、「わざと質の悪い車を販売する」「注文した自動車とは全く別の車体番号が異なる商品を届ける」などといった信じがたいことが平気で行われているような状況だった。そうした業界での醜聞を見聞きしているうちに「私たちが当たり前にやっている日本風の商いの水準が高い」ことに気づいたのである。山川社長の頭に海外の水準に合わせて質を落とすという考えはそもそもなく、日本の品質を新興国を中心とした世界市場に提供することを社内の共通理念にしていこうと考えたのである。

 では日本品質実現のため同社が具体的に取り組んだことは何か。まずは「おもてなし」の精神に裏打ちされた顧客対応の充実で、山川社長はITの活用に着目した。問い合わせや注文を受けてから納車まで一連の業務品質の向上を図るため、仕入れから車両の在庫管理、顧客管理を統合する業務システムを自社開発したのである。山川社長は胸を張って言う。

「当社がダントツに進んでいるのはシステムです。過去のメールのやりとり、顧客情報、過去に購入した履歴もすべて分かるようになっています。同業者でそこまでやっている会社はありません。そもそも中古車価格をすべてインターネットで見られるようにしたのも当社が最初です」

 同社が飛躍を遂げる大きな要因となったアフリカでは、日本の中古車に対する人気は絶大だった。高品質で故障が少ないのに数千ドルという低価格で買えるからである。将来性を見込んだ山川社長は次に物流網の整備に着手する。船会社に直談判し、大量の自動車を運ぶための定期便就航を実現させただけではなく、その先の陸路の配送ルートも固めた。

「日本の港から先方の港まで車を運んで仕事が終わり、という会社がほとんど。しかし内陸国のお客さまは、港のある海沿いの隣国までわざわざ車をとりに来なければなりません。加えて通関の手続きも誰かに依頼する必要が出てきます。そうした手間をかけずにすむよう、通関もしてデリバリーをし、現地で所有者登録が可能になるところまで当社が責任を持って車を運ぶ体制を整えました」(山川社長)

 現在アフリカだけで13カ国35経路の配送ルートを構築。迅速な顧客対応を可能にする効率的な業務システムの構築と自前の物流網の整備が大きな競争力となり、同社はアフリカでのシェアトップを獲得するに至るのである。

リアル店舗とネットの融合

 ECサイトの集客力で大きく成長してきた同社だが、昨年から新たな試みも始めた。リアル店舗「ビィ・フォアードモール」の展開である。山川社長は言う。

「現地で手に触れて納得して買いたいというお客さまからの需要に対応し、タンザニアとザンビアで実店舗の営業も始めました。倉庫の中に建物を建ててオフィスにし、残りの部分を展示場にして中古車などを販売しています」

 同社が目指すのは、モールを拠点にした中古自動車にかかわるワンストップサービスの展開だ。組織化された修理工場の存在自体が珍しいアフリカでは、車を修理してもらう場合、現地でまず修理ができる人間を人づてに探し回らなければならない。しかし同社のモールに来れば、車で困っていることは一通り解決できるのである。

「モールに来店したお客さまから『車の調子が悪い』と相談があれば車を点検し、交換が必要なパーツがあればその場でオススメするといったことができるようなビジネスモデルを目指しています。オープンして約1年が経過しますが、ほとんど広告宣伝していないにもかかわらず1日20から30人来店し、同じくらいの電話の問い合わせもありますので、ある程度認知されているとは思います」(山川社長)

 現地では需要のある自社ブランドエンジンオイルの発売も始めた。既存品と同様の価格帯でより高品質のオイルを販売するということでタンザニアなど現地メディアで話題となっており、今後の売り上げがかなり期待できるという。

 さらに今年に入り、日本らしい仕組みを取り入れた新たなビジネスモデルにも挑戦している。同社と取引実績のある個人ブローカーなどを「ビィフォアード・サポーターズ」として公認し、各地域に根ざした営業・マーケティング活動を強化する試みである。

「店舗を持たないキオスクのようなイメージですね。現地のブローカーは当社への注文を取り次ぎ役割を果たします。日本車がほしくても英語ができないため注文できず困っている知り合いを助けることができるうえ、もちろん自分の利益にもなります。またこの方法のメリットは、自動車だけでなく他の商材についても現地の需要動向を把握できることです」

 友人が多く人脈を持った現地ブローカーが、ビィ・フォアードの看板を背負ってユーザーとの取引が円滑に進むよう活動するのである。名刺や宣伝用商材なども会社が支給する。ジンバブエをはじめタンザニアやマラウイですでにこの仕組みがスタートしており、すでに8500人がサポーターとして登録されているという。

 さてここ数年絶好調の業績を上げてきた同社だが、実は今期の売上高は前期比ほぼ横ばいを見込んでいる。中国の景気減速と原油価格の急落によるいわゆるチャイルショック(チャイナショック+オイルショック)でそれまで高水準に推移していた中国のアフリカへの投資が急速にしぼんだうえ、アフリカ諸国で貨幣価値が急落。現地の国内消費が一気に冷え込んでしまったからである。実際同社のアフリカでの販売台数も大きく落ち込んだ。

 もちろん悪いことばかりではない。好況の流れを受けてアフリカ市場に新規参入した後発業者が昨年から今年にかけて撤退した模様で、かえって同社のシェアを高める結果になったのである。また世界中に販路を拡大している地域分散の効果も表われ、トリニダード・トバゴなどカリブ海諸国やオセアニア地域など他地域での売り上げも大きく伸びた。山川社長は今後も新興国向け自動車輸出を中心に事業を拡大し、世界一のECサイトにするのが目標だという。

「日本発のECサイトとして世界中で必要とされるサイトにしたいですね。そのためには、アマゾンやイーベイ、アリババなど大手と同じ事をやっていてはダメ。現地で提携する大手企業や個人で会社を支えてくれるサポーターズの方々と協力を深めながら、インターネットとアナログのハイブリッドでブランド価値をさらに高めていきたいと考えています」

(本誌・植松啓介)

会社概要
名称 株式会社ビィ・フォアード
設立 2004年3月
所在地 東京都調布市布田4-6-1 調布丸善ビル8階
売上高 492億円
社員数 171名(国内、2016年1月現在)
URL http://corporate.beforward.jp/company/

掲載:『戦略経営者』2016年6月号