円高の進行で経営環境は厳しさを増していますが、今夏も賞与を支給したいと考えています。中小企業の相場を教えてください。(金属製品製造業)
賞与額は、おおむね前期の企業業績に連動して上下します。2015年度下期の業績をふり返ると財務省「法人企業統計調査」によれば、昨年10~12月の全産業(資本金1000万円以上、金融機関を除く)の経常利益は、▲1.7%と4年ぶりに小幅ながら前年比マイナスとなりました。
マイナス転化の主因は製造業です。アベノミクス始動後の円安効果が薄れたうえ、素材産業などでは、海外経済の減速に伴う市況の悪化も逆風となりました。もっとも、収益水準は過去最高圏内で推移しています。また、非製造業では原油安が引き続きコスト抑制に寄与したほか、訪日外国人のインバウンド需要の取り込みなどを背景に、3四半期連続の前年比2桁の伸びが続きました。
総じてみれば、財務体質が強化されるなか、企業業績は底堅い動きを続けてきたといえます。
しかし、年明け後には世界的な株安が進み、日銀のマイナス金利導入にもかかわらず、為替市場で一時1ドル110円を割り込む円高が進みました。市場の不安定な動きを背景に、企業業績についても先行き懸念が広がっています。
こうしたなかで2016年の春季労使交渉では、主要企業の多くが月例給の引き上げで妥結したものの、引き上げ幅は前年を下回る例が相次ぎました。3年連続となる政府の賃上げ要請もあり、ベアゼロには至らなかったものの、景気の先行き不透明感が強まるなかで、固定費の増加につながる人件費の引き上げには、依然として企業の慎重姿勢が強いことがうかがえます。さらに、給与水準が相対的に低い女性や高齢者を中心に雇用者数が増えていることも、平均賃金押し下げに作用しています。
このため、今夏の賞与(厚生労働省、従業員規模5人以上ベース)は、前年比+0.6%と小幅なプラスにとどまる見通しです。
規模間格差は縮小の見込み
このうち中小企業についてみると、一昨年来の賃金引き上げの動きの中で、大手企業に比べ改善の遅れが目立っていたものの、今年は大手企業の引き上げ幅が縮小し、大手との格差が縮小することが見込まれます。中小企業の方が、大手企業に比べ外需依存度が相対的に低く、円安効果がもともと小さいため、足元の円高も輸出受取減少のデメリットよりコスト負担減少のメリットが大きく出やすいことが背景としてあります。
また、中小企業の人手不足感が大手以上に強まっていることも指摘できます。日銀短観雇用判断DI(過剰-不足)は、2015年10~12月に大企業が▲12であるのに対し、中小企業では▲21にまで拡大しており、人材確保のための賃上げ圧力が強まっています。
さらに、今年の春闘で連合が「底上げ・底支え」「格差是正」を重視し、大手の引き上げの動きを中小に波及させていくこれまでのやり方から脱却し、中小の賃上げを先行させる方針を打ち出したことも追い風となった模様です。こうしたなかで今夏の賞与の伸び率は、中小企業でも平均で前年比+0.5%程度になると予想されます。
もっとも、格差が縮小しているとはいえ、人手不足が深刻化するなか、中小企業には大手以上に人材流出リスクが高まっていることに変わりはありません。この点を踏まえれば賞与の支給に際しては、従業員に将来のビジョンなどメッセージを伝え、モチベーションを高めることが重要でしょう。