4月から電力が全面自由化されました。すでに法人向けでは自由化されていたと思いますが、中小企業にとってメリットはありますか。(飲食店経営)
2016年4月の電力小売り全面自由化により、一般家庭7700万件、および750万件に上る小規模店舗・事業所など50キロワット以下の低圧部門の小売事業が自由化の対象となります。電力自由化は、1990年代から慎重に議論が重ねされてきており、1995年から段階的に進められてきました。
1995年の電気事業法改正では、電力を供給する事業に独立系発電事業者(IPP)の参入が可能になり、電力会社が他の電力会社や卸電力事業者以外からも電気を購入することができるようになりました。続いて、1999年には、自由化の範囲が小売りへ拡大され、大規模工場やデパートなど、電気の使用規模が原則2000キロワット以上の「特別高圧」の区分が自由化されました。この結果、電力会社の送電ネットワークを利用し電気を供給する「特定規模電気事業者」(PPS)の新規参入が可能となりました。同時に、電力会社が保有する送電ネットワークを新規参入者が利用するための、公平で公正なルール(小売託送ルール)の整備も行いました。さらに2003年には、契約規模が50キロワット以上の「高圧」区分への拡大が決定され、中小規模工場や中小ビルなどを含む、日本の電力販売量の約6割が自由化対象となりました。
そして、今回の全面自由化でいよいよコンビニ・美容室・飲食店などの小規模店舗や小規模工場などで利用されている「低圧」区分も対象となります。こうした事業所では、空調設備や工場の動力に使用されている200ボルト契約の「低圧」と、照明やその他の電気機器に使用されている100ボルト契約の「電灯」の両方を契約しているケースが一般的です。電灯の電気料金はこれまで、省エネ促進を目的として使用量が大きくなるほど単価が上がっていく設計になっていましたが、今回の自由化による低圧小売りへの参入企業は200社を超え、特に電気使用量が多い中小企業にとっては、大きく電気料金が削減できるプランが登場してきています。送電線・変電設備などは今まで通り地域の電力会社のものを利用できるため、工事や設備投資も原則不要で電気の質(安定性など)もこれまでと変わらず、電力会社との契約を見直すことで固定費を削減できる大きなチャンスとなります。
プレーヤーも多様化しています。法人向けの「低圧」プラン、100ボルト契約の「電灯」プランともに従来の電力会社に加えガス会社や石油元売り、通信会社などが新規参入しました。ガス料金とセットで契約することで割引を行うセット割引のあるプランも登場しています。
最後に、中小企業が電力事業への参入を検討する上でのポイントについてお話しします。電力小売事業は、これまでの総括原価方式の中で事業報酬は3%未満にとどまり、諸外国が7%程度であるのに比しても薄利多売のビジネスとなっています。24時間体制の電力安定供給を実現する義務(怠るとペナルティーが課される)、顧客からの問い合わせに適切に対応する義務、制度対応など電力小売事業者に求められるハードルは高く、インフラ事業を継続していくための確かな事業基盤が求められます。現実的には、小売事業者の代理店・取次店として自社が提供する既存のサービスでの顧客との接点を活用してセット販売を提案する、などの取り組み方が検討できると考えます。