食品の海外輸出を考えていますが、HACCP(ハサップ)の取得が義務づけられるかもしれないという話を聞きました。HACCPとはどのような制度なのでしょうか。(食品製造)

 HACCPとは「食の安全」を確保するための国際基準です。具体的には「原材料の受け入れから最終製品までの各工程において、微生物による汚染、金属の混入などの危害を分析(HA)した上で、危害の防止につながる特に重要な工程(CCP)を継続的に監視・記録するシステム」を指します。

 科学的根拠に基づくシステムの導入により、問題のある製品の出荷を未然に防止でき、最終製品における食品安全の確保を図ることが可能となります。簡単に言えば、食品の安全性の向上と品質管理を徹底するための仕組みです。

 国が食品関連企業にHACCPの取得義務化を検討しているのは、2020年の東京五輪・パラリンピック開催に向け、食の安全を世界にアピールすることと、TPP(環太平洋経済連携協定)加盟国である米国やカナダへの輸出を加速させたいという思惑があるからです。

 欧米などに食品を輸出する場合は、HACCPを取得していることが条件になります。逆に言うと、取得していないと輸出はほぼ不可能となりますが、日本国内でも、国際基準を満たした工場として会社の信頼を高めるメリットがあります。

 HACCPを取得するには高額な費用がかかり、専門チームの編成や恒常的な監視・記録体制の構築、徹底した従業員教育が必要になるため、中小企業にとって負担が大きくメリットが少ないのが現状です。国内でHACCP取得が取引条件となる企業は少なく、商売上の弊害となることはほとんどありません。

 また、取得をしていても常時国際基準を守って製造しないかぎり、食の安全が確保できるとは必ずしも言い切れません。2000年に集団食中毒事件を引き起こした雪印乳業は、HACCPを取得していました。取得をしていても、対外的なセールスポイントにすぎないこともあるのです。ただし、日本国内でHACCP取得が取引条件の一つになってくれば情勢は変わってきます。

長期低利融資を創設

 食品製造業界の大半を占める中小企業におけるHACCP導入率は30%程度にとどまっており、こうした状況を鑑み、1998年に支援法が制定されました。正式には「食品の製造過程の管理の高度化に関する臨時措置法」という名称が付けられています。病原性大腸菌O157の食中毒事件など、近年の食品事故のほとんどは、ハサップ導入の前段階である洗浄・殺菌等の施設や体制の整備(高度基盤整備)が問題となっています。

 そこで、2013年に支援法が改正され、食品製造事業者がHACCP導入の前段階の衛生・品質管理の基盤の整備、またはHACCPを導入するための施設・設備の整備を行う際、指定認定機関に「高度化基盤整備計画」または「高度化計画」を提出し認定を受けると、日本政策金融公庫の長期低利融資を受けられるようになりました。

 つまり、HACCP取得を検討している、中小企業の多くで必要となる一般的衛生管理や工場における衛生・品質管理の整備も支援するということです。

掲載:『戦略経営者』2016年3月号