みるみる組織が活性化するタイムマネジメント

 東京・八王子市の住宅街。その一角にロボットベンチャー、スケルトニクスの製造拠点はある。2.6メートルのロボットがそびえ立つ光景は秘密基地のよう。なんの変哲もない100平方メートルほどの倉庫で、最先端ロボットが生産されていると思いおよぶ人は少ないだろう。

 スケルトニクスは人の動作を拡張する装着型ロボットで、エンターテインメント、ライブパフォーマンスのステージなどで活用されている。国内外の展示会や各種イベントで出展されており、おととしのNHK紅白歌合戦のステージにも出演をはたした。ロボットづくりに魅せられた3人の若者が一体一体、手作業で組み立てている。中心人物の白久(しろく)レイエス樹(たつる)CEOはスケルトニクスのコンセプトをこう語る。

「世の中には重量物を運んだり、高齢者の介護を支援するロボットもありますが、スケルトニクスはエンターテインメント分野に特化して使用されています。電気をほとんど用いず、リンク機構という仕組みで動作を制御している点がこだわりです」

 物を動かす機構としては歯車やギアなどがあるが、リンク機構もそのひとつ。節同士をつないで動作を生成するのがリンク機構で、身近なところでは、大型バスのワイパーや線路の一部の遮断機で目にすることができる。地面と垂直あるいは水平な状態を保ったままバーが動作するのが特徴である。

 白久CEOは「興味本位ではじめたプロジェクトだった」と明かす。高専ロボコン全国大会での優勝経験を生かし、リンク機構を各四肢に適用すれば、巨大なヒト型の構造物を製作できるのではと思いついたのがそもそものきっかけ。スケルトニクスに用いられているのはリンク機構のうち「3次元閉リンク機構」といわれるもの。相互の機構が干渉しないようにレイアウトを工夫し、肩部分では3方向、ひじ部分で1方向の自由度を実現した。アルミニウム合金製の角材に穴を開け、各関節をねじで締結して動きをうまく同期させている。大量生産しないプロトタイプの製造に適した製作方法であり、いざというときに分解したり、作り直しがしやすいというメリットがある。

 最新モデルの「スケルトニクスアライブ」は第5世代にあたる。ライブパフォーマンス分野に本格展開するにあたり課題となったのが、搭乗可能時間をいかに延長させるか。初代モデルでは3人がかりで10分かけて装着し、連続して乗っていられるのは5分ほどだった。上半身のみで約20キロあるパーツを支える設計になっていたためだ。

「初代モデルは重たいリュックサックを背負って登山をしているような感覚でした」と白久氏。重量負担を軽減するべく構造を見直し、アライブでは上半身と下半身のパーツを接続。重さを地面に逃がすことで、1時間の連続装着に耐えられるまでになった。

ドバイからもオファーが

 あたかも巨人になったかのような拡張感を味わえ、近未来を予感させる外観から、スケルトニクスには海外からも熱い視線が注がれている。アラブ首長国連邦のドバイ首長国からメールが届いたのは、2014年の11月。国際会議と同時開催される科学技術展に展示するため、スケルトニクスを利用したいという内容だった。

「日々さまざまなメールが送られてくるので、受け取った当初は半信半疑でした。しばらくして返信があり、おととしの年末に3名の現地担当者が来社したとき、これは本当かもしれないと感じました。日本製のロボットをいろいろ調べていたらしく、数社コンタクトを取り条件が折り合ったのが当社だったようです。現地に納品するまで完全には信じられませんでしたね」(白久CEO)

 2015年2月の技術展開催に向け、アライブの製作にとりかかった。空輸にかかる日数を考慮すると、製作できるのは実質1カ月ほど。紅白歌合戦向けのロボット製作につづく大型案件で慌ただしい年末年始になった。部品の加工を外部に委託し、組み立てや動作チェックを自社で行う分業体制をしき、量産化に備えていたのが功を奏した。ドバイで縁起が良いとされる白色に外観をペイント。展示会場では、アシモやペッパーとともに盛り上げ、ドバイ首相オフィスがそのまま買い取った。

 白久CEOによるとスケルトニクスシリーズの開発はほぼ終わり、人々がこれまで目にしたことのないロボットの開発が佳境を迎えているという。

「会社を設立したのは可変型ロボットスーツの『エグゾネクス』を開発する資金を集めるためでした。パワフルな動きができ、持ち運びできる形態に変形するのがエグゾネクスの特徴です。パワードスーツには解決すべき課題がたくさんありますが、エグゾネクスは技術を一歩前進させる存在になるはずです。エンターテインメント領域に限らず、パワードスーツの開発を軸にしたビジネスを展開していきたいと考えています」

 新たな機能を身にまとったロボットの出現が今から楽しみだ。

(本誌・小林淳一)

掲載:『戦略経営者』2016年2月号