最近、信頼していた中間管理職による部下へのパワーハスラメントがあるのではという噂が社内で広がりました。パワハラを適切に確認し、なくしていくにはどうしたらよいのでしょうか。(印刷業)

 中小企業の場合、中間管理職はしばしば経営者の映し鏡となります。自らの経営を実践してくれる人が良い管理職であり、また、多くの場合、会社に売り上げや利益をもたらす存在です。また、すべてではありませんが、「できる管理職」は押しが強く外向的、口も達者な人が多いのも事実でしょう。そのような人は、性格上、勢い余って部下を必要以上に激しく叱咤(しつた)するなど、いわゆるパワハラと呼ばれる行為に至る可能性も高いと思われます。

 経営者は、どうしても会社の業績だけに目が行きがちです。よほどのことがない限り、管理職の部下への対応について、細心の注意を払う必要を感じていない経営者がほとんどかもしれません。しかし、長い目で見た場合、恒常的に部下にパワハラをし続ける管理職は、その会社に悪い影響を与えます。まず、会社全体の雰囲気をぎすぎすしたものにしてしまいます。辞職する若手社員も増えるでしょう。結果として生産性は上がらず、ノウハウの蓄積もできなくなります。短期的には「できる管理職」であるように見える人が、実は会社をダメにする元凶であることに経営者は気付く必要があります。

経営者の「意思表示」が必須

 さて、そんな管理職に部下へのパワハラをやめさせる最大かつ必須の方策は、当然のことながら、「経営者が〝パワハラは絶対に許さない〟」という意思を折に触れて全社員に示すことです。具体的な罰則規定を設けてもよいでしょう。そうすれば「映し鏡」である中間管理職は、パワハラをしないというモチベーションを自然に保つことになります。

 とはいえ、そもそも自らの行動がパワハラに当たるとは考えていない管理職も存在します。そのような人たちのために、パワハラとは何かを具体的事例を示しながら定義づけしていく作業も必要になってきます。基本的には「業務に不必要な叱責や無視、配置転換など、個人の精神にダメージを与える行為」と考えて下さい。もちろん暴力は論外です。「指導」との境目を決める作業は簡単なことではありませんが、日々の業務のなかで、社員全員で話し合い、合意形成をしていくプロセスを経ることが望ましいでしょう。

 仕組みとしては、経営者への「直訴の制度」を考えるべきです。訴え出た部下が不利益を被らないよう、秘密厳守の目安箱のようなものです。社長宛のメールに「いつでも直訴を受け付ける」ことを公言しておけば、それだけでパワハラへの抑止力になります。

 ただその際、注意してほしいのは、直訴した社員の言い分が本当に事実に即したものなのかどうかを十分に検証することです。とくに最近の若い社員は、昔のように叱責を受けた経験があまりないとも言われており、だとすれば、適切な指導をパワハラとはき違える可能性も高いからです。経営者は、難しいことではありますが、出来うる限り公平な視点をとり、冷静に判断してください。そして、その直訴が実は「適切な指導」だったとしても、部下を強く責めることは慎むべきです。そのような行為自体が、「直訴の制度」を無効化してしまうからです。

 ともあれ、パワハラを放置することによる企業の被るリスクは、近年の裁判の判例を見ても年々重くなっていることは明らかです。すぐにでも対策に取り組むことをお勧めします。

掲載:『戦略経営者』2015年12月号