羽田空港で1日150便もの航空機清掃業務をこなす東京オペレーションパートナーズ。発着便増加にともない事業機会拡大が見込めるなか、労務費などタイムリーな費用管理の重要性が増している。同社の渡辺俊之社長と小松正秀監査役に顧問税理士の武藤剛氏を交え、TKCシステムを活用した経営戦略について聞いた。
東京オペレーションパートナーズ:渡辺社長(中央)
──主な業務内容について教えて下さい。
渡辺 羽田空港で、飛行間・飛行後の航空機内の清掃業務、給排水業務を行っています。羽田では航空機が到着して次に出発するまでに地上作業ができる時間(ステイタイム)は大型機で約50分といわれています。乗客乗員が乗り降りしている時間を考慮すると、実質的な作業時間は20分程度でしょうか。国際便も入れると1日平均100便の機内清掃を行っています。
──1機あたり何人くらいで清掃するのでしょう。
渡辺 大型機であれば一般的に10~12人で作業を行います。エコノミーの座席は新幹線よりも狭いですから、各座席の清掃だけでもかなり大変です。それに加えトイレや窓の清掃、ポケットに入っている「安全のしおり」や機内誌のチェックなど多くの作業を制限時間内に素早くこなさなければなりません。またベルトの雄と雌をどのように重ねておくかなど航空会社ごとの細かな仕様の差異にもすべて正確に対応する必要があります。
──スタッフ一人一人に高度なスキルが求められますね。
渡辺 われわれは国から許可を得て施設を借り受けて事業を営んでいますから、大きな設備投資はほとんど要りません。したがって従業員の質をいかに高めるかということが競争力に直結します。当社ではスタッフの教育訓練のための専門部署を設置しており、いわゆる5Sの活動や指差呼称を徹底させることなどを通じて常にスタッフの技術力向上を図っています。
──モチベーション向上のための取り組みなどはされていますか。
渡辺 私は年に2回、従業員と直接語り合う「ダイレクトトーク」と呼ぶ場を設けているのですが、そこで「ファーストクラスの値段はいくらか」と問いかけるようにしています。ところがほとんどのスタッフがこれを知らない。一般的にビジネスクラスがエコノミーの3倍、ファーストクラスはその10倍の価格と言われています。それだけ高価格の商品に必要な快適性と利便性を提供しているという意識があれば、スタッフのモチベーションもおのずと高まるはずです。われわれ清掃業務に携わる者は直接お客さまとお会いするわけではありませんが、おもてなしの心をベースにしたれっきとしたサービス業であると考えています。
──過密な羽田空港だけにオペレーションも大変そうです。
渡辺 到着時間の変更についての情報や到着便の予約率を常に確認し、人員の配置を機動的に変更できるような体制を敷いています。たとえば夏休み中は搭乗率が高いうえに小さなお子さまが一緒の家族連れが増えます。普段はそれほどないお菓子のくずなどが増えたりするので、人員を追加する必要があります。
──外国人スタッフが多いことも特徴だとか。
渡辺 2020年の東京オリンピックに向けて離発着回数が増加している羽田空港のグラウンド業務では、人手不足が喫緊の課題となっています。しかし少子化の影響もあり募集しても日本人がほとんど集まりません。そこで当社では、日本語を学ぶために来日しているベトナム人学生や、大田区近隣に在住のネパール人の方々を戦略的に積極採用しています。このほか中国やフィリピンの方なども在籍しており、アルバイト約300人の約6割が外国人スタッフという構成になっています。同業他社は求人広告を出したり全国の専門学校に企業説明に回ったりと人手の確保に苦労していますが、業界でもいち早く外国人スタッフの積極的な採用に取り組んだおかげで当社の情報が口コミで広まっており、特別なPRをしなくても人が集まる状況になっています。
発生ベースの作業量適正化を社員が常に意識
──渡辺社長はM&Aで社長に就任したとお聞きしています。
渡辺 私は実は当社(当時の社名は協和)に業務を委託する立場の会社に在籍していたのですが、その協和の前任社長に請われ、M&Aで2008年に社長に就任しました。その際新たに社名を東京オペレーションパートナーズにするなど経営体制を一新したのです。
──同時に顧問税理士も変更されたのですね。
渡辺 はい。前任の会計事務所では、領収書を月1回担当者に手わたし記帳業務をすべてお任せしている状態でした。ですから前月の経費がいくらかかったのかもわからず、その会計事務所に問い合わせをし、折り返しの電話を待つしかない状況でした。日常の経費や売り上げがリアルタイムにわからない、計画が作れず見通しが立たない、など幾つもの不安や困難な問題が生じており、まずはタイムリーに経営状況がわかるシステムを取り入れようと考えました。
武藤剛顧問税理士 決算書や業態実態からみると、東京オペレーションパートナーズさまは売り上げの確保は確実で、流動性が極めて高い労務費をはじめとする費用の管理が経営の生命線であることが分かりました。そこで、逐次費用管理ができる戦略財務情報システム『FX2』の導入をご提案したのです。
渡辺 この時のきめ細かいアドバイスはまさに「千余の兵」にまさるとも劣らないと感じましたね。
──経理の体制はどのように変わりましたか。
小松 今まで帳簿をつけるという習慣がなかったので当初は悪戦苦闘しましたね。しかし自ら仕訳をおこし記帳するTKCシステムのおかげで、売掛金と労務管理費用の発生を対にして見ることができ、これを戦略的に活用できるようになりました。発生ベースでの労務費=作業投入量の適正化が当社の生命線であるということを常に社員が意識できるようになったのはFXのおかげだといえます。また、メーン銀行と運転資金等の準備で交渉する時にも、システムからアウトプットされる帳表が審査の資料になります。これは会計の標準化という面できわめて有効だと思います。
──費用の管理はどのように?
小松 人を削減して多機能型の人材を育成投入すればおのずと利益は上がりますが、仕事の質や品質サービスに影響が出ます。目が行き届かなくなり清掃漏れなどが起きてはクレームになりますので、一定以上の作業品質の維持と人員投入の調和が重要になります。当社では機内の清掃をおもに担うこの部分を変動費(直接作業投入工数)としてカテゴライズしており、この変動費を一定の割合に抑え、それを月次できちっと把握・管理することが当社の利益の源泉になります。
きめ細やかなサポートで会計事務所が「パートナー」に
──よくチェックされている帳表を教えてください。
小松 やはり月次の試算表と業績管理表は、売掛金と費用を対にして適正に管理する上で欠かせないですね。特に労務費の多い月は毎週行われる幹部ミーティングのテーマとして必ず議題にします。ただ単に「人件費が高い」というだけではそれぞれの部門の長には響かないので、たとえば時間帯や曜日の変動、季節性、さまざまな観点で数字を裏づける具体的な特定の要素に的を絞って社内議論を深めています。
──予実管理はされていますか。
小松 あらかたの予測値を武藤会計さんが作成し、各月実績値とのレビューを行っています。そのなかで問題のある点をご指摘いただき、原因と対策について複数案をたたき台にし、その都度予実管理を行っています。この予実管理は資金繰りを計画する上でも効果があり、とくに創業家からの長期借入金の計画的な返済について有効なツールとなっています。
──会計事務所のサポートについてどのように感じていますか。
渡辺 今年度はマイナンバー制度を含め時代の変遷に即した生の情報やきめ細かいご指導をいただきました。また武藤会計さんはベトナム事務所を設けられていますが、当社従業員にベトナム出身者が多いこともあり、現地との人脈づくりや情報収集という点で他では得難いメリットを感じています。単に会計処理や決算申告業務だけでなく、経営上の「パートナー」としてお付き合いさせていただいています。
──今後の抱負を教えてください。
渡辺 日本はより外国人労働者に依存せざるを得ない時代に入っていきます。そうした人材をいかに教育訓練していくかは当社の存続に関わる問題。スタッフを対象とした日本語教室などを社内で開催していくことを現在検討しており、外国人労働者がより働きやすい職場づくりに注力していきたいと考えています。
(本誌・植松啓介)
名称 | 株式会社東京オペレーションパートナーズ |
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設立 | 1964年8月 |
所在地 | 東京都大田区羽田6-34-53F |
売上高 | 7億6000万円 |
社員数 | 約350名(アルバイト含む) |
URL | http://www.tokyo-op.jp/ |
顧問税理士 | 武藤 剛 税理士法人無十 東京都大田区蒲田4-42-1 TEL:03-3737-1522 URL:http://muto-kaikei.co.jp/ |