稲庭うどん、横手やきそばなど、数多くの地場麺製品を抱える秋田県。横手市に本社を置く林泉堂は、麺類の製造・販売を幅広く手がけている。10年前に社長に就任した林博樹社長(45)は、利益を生み出す財務体質への転換を図ってきた。計画に基づく経営を推進するバロメーターとして活用しているのが『FX2』の部門別業績管理だという。

地域のトップランナーとして麺製品のブランド化に成功

林泉堂:林社長(左から2人目)

林泉堂:林社長(左から2人目)

──横手市というとB級グルメの「横手やきそば」が有名ですが、どんな特徴があるのでしょうか。

 一般的な焼きそばは蒸し中華麺を使用している場合が多いですが、横手やきそばでは、ゆで中華麺になっているのが特徴です。かつおだしで割ったウスターソースで味付け、麺の上に乗っている目玉焼きの黄身をからめて食べます。ゆで麺を使うことでソースや黄身がからみやすくなるんです。

──「十文字ラーメン」も特産品だとか。

 横手市の十文字町には、古くから親しまれている煮干しとかつおだしを使ったあっさり味のラーメンがあり、父である林博資前社長が十文字ラーメンとネーミングし、商品として売り出しました。

──御社がはじめてブランド化して販売したわけですね。

 ええ。横手やきそばもB級グルメという言葉がなかったころはパッケージ商品がなく、消費者は地元のスーパーで袋麺を購入して家庭で調理していました。当社ではいち早く横手やきそばの名前で商品化し、秋田県内と首都圏エリアのスーパーに出荷。自画自賛になりますが、「日本三大焼きそば」のひとつとして認められるようになったことに貢献できたと考えています。
 当社の横手やきそばや十文字ラーメンをはじめとした商品は、秋田県内3カ所の直営店(ショッピングモール内など)で味わっていただけるほか、ネット通販、一部小売店で販売しています。

──事業面の強みをお聞かせください。

 うどん、そば、ラーメン、焼きそばのチルド麺を製造していますが、一番の特徴は、社内でスープ類の調合、充塡に至るまでワンストップで製造を行っているところですね。自社工場に冷凍食品を製造するラインもあるので、業務用の冷凍麺も製造できます。取引先のチェーン店さまからいただいたニーズに基づき、小ロットから商品を生産できるのが強みです。

──数多くの商品がモンドセレクションを受賞しています。

 「秋田比内地鶏ラーメン」は2001年から15年連続で金賞を受賞しているほか、「稲庭本生うどん」、「黒挽きそば」、「横手やきそば」などの商品でも金賞を受賞しています。モンドセレクション受賞が取引先開拓のプラス材料となり、首都圏高級スーパーとの取引が拡大しました。

──最近の大きな話題としては、4月にチルド麺製品として国内第1号となる「ハラール認証」も取得されましたが、10年来の構想だったそうですね。

 2005年に北京からモンゴルに向かう国際便に搭乗したとき、ハラールマークの付いた機内食を初めて目にしたのがきっかけです。中国全土には数千万人のイスラム教徒が暮らしている事実を知り、今後世界中でムスリムが増えることが見込まれるため、認証取得にチャレンジしました。当初は長期的なスパンで取り組むテーマととらえていましたが、2020年の東京オリンピック開催が決まり、プロジェクトチームを立ち上げて認証取得を急ぎました。

──取得にあたり、どんな点が大変でしたか。

 どの団体から認証を取得するべきかリサーチするのに非常に時間がかかりましたね。マレーシアは公的な認証制度を設けていますが、世界標準になっているとは言いがたいのが現状です。当面、日本国内のインバウンド需要をターゲットにするべく、まずは日本で通用する認証を取って、輸出する際に各国の認証を追加取得する戦略をとりました。

──使用する原料の選定も苦労されたのでは……。

 豚やアルコールを使用できないのはもちろん、鶏肉や牛肉も、定められた、と殺方法しか認められていないので、添加物も原材料までさかのぼって調査する必要がありました。

販管費の推移を注視し月次ベースで利益を把握

──武田(亨顧問税理士)先生の事務所のある秋田市は横手市から車で50分ほどかかりますが、どんないきさつで知り合われたのでしょうか。

 合名会社から株式会社に組織変更した時、財務基盤の強化を目指し秋田県の「専門家派遣制度」を活用しました。その際、専門家に登録されていた武田先生から管理会計の考え方を教えていただき感銘を受け、税務顧問もお願いしました。

──製造、卸売りから小売りまで幅広く手がけられていますから『FX2』での業績管理も多岐にわたるのでは?

 麺類の製造販売だけでなく、乳製品の宅配業も手がけており、合計14部門を登録し、「麺」「宅配」「通販」の3つの組に束ねて管理しています。どの部門の取引かわかるように仕訳を入力してもらっているので、部門ごとの業績をしっかり把握できるようになりました。

──入力体制を教えてください。

小玉 日々仕訳の入力を1人で行っていますが、部門数が多いので行数がかなり多くなります。ですから定型的な仕訳を登録できる仕訳辞書は便利ですね。取引の内容で気付いた点や疑問点は、部門長に報告するようにしています。

──月次業績で注目している点は?

 当社の強みであり弱みでもありますが、スープや冷凍製品を製造するラインを保有しているため、同業他社にくらべ販管費がふくらむ傾向があります。また、インターネット通販のウェブサイトをデザインするデザイナーが在籍しているのも当社の特徴で、利益額とキャッシュフローは気になる部分です。

──巡回監査の際、どんな資料で確認していますか。

 武田先生の事務所から、月次業績をグラフなどでビジュアル化した「マンスリーレポート ステップ」を毎月ご提供いただいています。損益とキャッシュフローの状況がひと目でわかるシートを元に、監査担当の髙橋さんと数字を確認することが多いですね。言いづらいこともストレートに指摘してもらえるのでありがたいです。

武田 企業組織として成長するためには全社一丸となった体制をつくる必要があります。そのためには社長が社員の方に業績をわかりやすく説明していただくための参考資料が欠かせません。注意を促すため、ステップの表紙の色を黒字の月は青色に、赤字の月は赤色にしています。

──事業計画を発表する場は設けていますか。

 事業年度の始まる毎年1月に全社員を集めた経営計画発表会を開き、「発展計画書」の中身を説明しています。利益目標、行動計画を解説し、社員の参画意識向上に努めています。

──社内で行っている会議で活用している資料というと?

 毎週月曜日に行っている部門長を集めた会議では、《予算実績比較表》、《変動損益計算書》、《部門別損益計算書》を活用し、計画通りに進んでいるかをチェックしています。本社には60インチの大型モニターがあり、各拠点をスカイプで接続してテレビ会議を行うこともあります。相手の表情がよくわかるので海外取引先との交渉でも重宝しています。

──今後の展開をお聞かせください。

 ラーメンだけでなく、稲庭うどんでもハラール認証を取得し、近日中に製品化する予定です。まずはスープをセットにした冷凍商品として供給し、海外からの観光客が訪れる飲食店、宿泊施設などでのニーズを見込んでいます。現在、インターネット通販事業の販売が伸びており「秋田の麺屋 林泉堂 楽天市場店」はラーメン販売部門で年間1位になりました。商品ラインアップをいっそう充実させ、林泉堂ファンを増やしていきたいと考えています。

(本誌・小林淳一)

会社概要
名称 林泉堂株式会社
設立 1947年8月
所在地 秋田県横手市十文字町仁井田字八萩101
売上高 7億円
社員数 42名
URL http://rinsendo.com/

CONSULTANT´S EYE
経営の伴走者としてコミュニケーションを重視
監査第一課 課長 髙橋晃彦
税理士法人RINGS
秋田県秋田市広面字碇1番地7 TEL:018-838-7107
http://rings-accounting.jp/

 林泉堂様では、製麺業を中心にして通販事業や乳製品宅配業まで、多岐にわたる事業を営まれています。麺からスープの製造までを一貫して行える秋田県内唯一の企業です。林社長は経営の意思決定にスピード感があり、新しい取り組みを積極的に行われています。経営革新に係る補助金の申請もその一例で、社長自身が申請を行い、認定を受けられました。先日「ものづくり・商業・サービス革新補助金」を申請し、ハラール食品の製造販売事業者として認定を受け、この4月から製造を開始されたところです。

 財務面では、売上高と粗利益率の向上に力を注がれています。『FX2』でご活用いただいている機能のひとつとして、部門別管理機能が挙げられます。14部門に分け、各部門の業績をタイムリーに把握していただき、経営分析や打ち手の検討にお役立ていただいています。毎月の巡回監査では、林社長と対話する時間を大切にしており、社長の思いを共有したうえで、社員の方々とコミュニケーションを取るよう心がけています。前月の業績をシートに書いていただき、年初に立てた事業計画の進捗を確認し、かい離が生じていれば新たな対策を検討するという、モニタリング・フィードバックの仕組みを実践していただいています。

 当事務所ではオリジナルの業績分析資料「マンスリーレポートステップ」を毎月提供していますが、『FX2』の「マネジメントレポート(MR)設計ツール」を活用し、最新業績を連動できるようにしました。

 今後も『FX2』を活用して林社長に業績をわかりやすくお伝えし、経営の伴走をつづけていきたいと考えています。

掲載:『戦略経営者』2015年6月号