高い技術力と独創的な企画力を武器に、各種センサーの製造販売を手がける八洲測器。佐野純司社長の戦略的な市場開拓が実り、2014年9月期決算は念願の売上高10億円を突破した。経理課の伊藤真澄課長を交え、経理事務の効率化に役立てている『PX2』の活用法などを聞いた。

シェアトップ製品そろえる温度センサーのスペシャリスト

八洲測器:佐野社長(左から2列目の前から2人目)

八洲測器:佐野社長(左から2列目の前から2人目)

──事業概要について教えください。

佐野 温度センサー、レベルセンサー、あるいはその双方の機能を兼ね備えた複合センサーの製造販売を手がけています。

──レベルセンサーとは?

佐野 タンク内の液体の量を測るセンサーです。身近な例では、トイレのタンク内に入っている浮き子をイメージしてもらえると分かりやすいかもしれません。トイレの浮き子はヒンジでスイッチを入れる仕組みになっていますが、当社のレベルセンサーは磁石やリードスイッチを組み合わせて液体の水位を測る構造になっています。原発事故で原子炉内の温度や汚染水タンクの容量に注目が集まるようになりましたが、タンク内の液体の状態を把握するためには、温度センサーとレベルセンサーが必ず必要になってきます。

──一口にセンサーといってもさまざまな分野で使われている思いますが、どんな業界との取引が多いですか。

佐野 創業当初は自動車向けの取引が主でしたね。昔は輸入車を国内で販売するときは安全管理基準を満たすためにマフラーに温度センサーを取り付ける必要がありました。輸入車の中には排気ガスの温度が900度近くに達するものがあり、高温の排ガスが車の下などにある燃えやすいものに火をつけ燃焼事故が発生してしまうのを防ぐためです。その輸入車用温度センサーで当社製品が評価され、ほぼ100%のシェアを占めていた時期がありました。

──現在の状況はいかがでしょう。

佐野 ひとつの業界に偏ってしまってはどうしても業績が安定しません。そこで取引先を分散させるよう戦略的な努力を重ねてきた結果、いまでは半導体業界、食品業界、理化学分野、射出成形業界などバランス良くおつきあいさせていただいています。とくに食品関連は火と水を必ず使いますので、温度センサーとレベルセンサーが両方求められる業界。当社は双方のセンサーを両方とも製造販売している日本で唯一ともいってもいいメーカーです。この立ち位置を生かした戦略でマーケットを広げていきたいと考えています。

──御社の強みは何ですか。

佐野 なんといっても企画力でしょう。たとえばこんなことがありました。病原性大腸菌O157が問題になったときに、あるお客さまから「雑菌がつかないようなセンサーはないか」との問い合わせがありました。早速開発に取りかかり、フライパンなどに使われ雑菌の繁殖を抑える効果のあるテフロンをグリップ部分の材料に選んだ「芯温センサー」を提案させていただいたのです。これがお客さまから高い評価をいただき、多くの企業で採用が相次ぐ結果になりました。調理中のハンバーグや冷凍肉の塊の中央部に刺して温度を測る用途などで約8割のシェアを占めるに至っています。

──その企画力を発揮するためには、高い技術力も必要ですね。

佐野 もちろんです。技術力が認められた逸話としてこんなエピソードがあります。2003年にディーゼル車に対する東京都の排ガス規制がはじまり、それに対応したトラックなどが発売されましたが、実はこのとき大手触媒メーカーと共同で排ガス規制対応のシステムを開発したのが、当社でした。その触媒メーカーとは製品を納入するなど以前からおつきあいさせていただいており、たまたま排ガス規制に対応したシステムを見せてもらったところ、温度保証の部分の回路が不十分であることを発見してしまったのです。寒冷地で動作不良を起こす可能性があると伝えたところ、案の定「使えない」ということに。発売直前で頭を抱えたそのメーカーから当社に共同開発の依頼があり、2カ月という短期間で完成にこぎつけ即採用となりました。そのままそのシステムが発売されていたら大混乱になっていたかもしれません。

給与業務の負担軽減で資金繰り対応を強化

──松葉税理士事務所が関与されるようになったいきさつについて教えてください。

佐野 松葉孝宏先生のお父さまが所長を務められていた時期から親密なおつきあいをさせていただいております。なにせ一時期は東京・大森の当時の事務所にわが社の本社を置かせていただいていたほどですから(笑)。松葉先生が所長になられたころに『FX2』(戦略財務情報システム)を導入したので、TKCシステムを使うようになってからかれこれ15年近くは経つと思います。

──システムの使い勝手はどうですか。

佐野 ビシッとした確実な数字で月次決算できるというのが本当に大きい。経営者としては売り上げと仕入れの数字は一刻も早く確認しておきたいですからね。現在月末25日くらいに前月の数値が確定するのですが、たとえばこれを20日にするなどもっと早くしてもいいくらいです。それにしてもこのスピード感に慣れてしまうとほかの会計システムはもう使えなくなりますね。

──『PX2』についてはいかがでしょう。

伊藤 『FX2』から少し遅れての導入になりましたが、事務処理専用コンピューターを使っていたころに比べ、かなり便利になったと感じています。とくに源泉徴収票などがすぐに出せるのがうれしいですね。従業員からよく「源泉徴収票を紛失してしまったので再発行してほしい」という要望があるのですが、システム導入まではその都度松葉先生にお願いして発行してもらっていました。それが今ではボタン一つであっという間に印刷できるので、従業員にとっても非常にメリットがあると思います。良い点としてはそのほか、それまで手書きで処理していた社会保険関係の書類も簡単にプリントアウトで出せるようになったこと、エクセルでしていた賃金台帳の作成作業が不要になったことなどが挙げられます。『PX2』の導入後はとにかくミスが減り安心できるようになりました。

──「Web給与明細サービス」も活用しているとか。

伊藤 昨年あたりからWeb給与明細サービスの活用を順次進めており、4割超の従業員がWeb給与明細へ切り替わっています。従業員全員に明細を手渡す手間が半減したのでとても助かっていますね。PCやスマートフォンを使い切れていない年配者やパートの方にはまだ紙で渡しているのですが、なんとか100%まで割合を増やせればと思います。

──作業負担が軽減された分ほかの業務に力を入れることができますね。

佐野 おかげさまで今では伊藤に資金繰り業務を全面的に任せられるようになりました。

伊藤 銀行との交渉でも、毎月試算表が出てくるTKCシステムの存在は心強く思っています。決算書ではどうしても情報が古くなってしまいますが、試算表が手元にあれば、「直近でこれだけ業績が良くなっているので、今借りればこれだけ金利が下げられますよね」などと少し強気な交渉もできますからね。

3カ年の「YKプロジェクト」で生産性向上に取り組む

──『PX2』では人件費や労働分配率の推移などをグラフで確認できますが、平均値との比較などでチェックされていますか。

佐野 TKC経営指標『BAST』によると黒字企業の労働分配率は全業種平均で55%前後ですが、当社は60~70%とやや高い水準です。しかし社員のモチベーションを上げるにはそれなりの給与水準を維持しなければなりません。給与水準を下げるのではなく、利益水準を高めることによって労働分配率を下げたいと考えています。

──利益拡大のための具体的な打ち手は?

佐野 生産性を上げるということに尽きますね。たとえば製造部であれば、まだ数値管理のできない作業が結構ある。熟練者と非熟練者で差が生じてしまう半田付けや溶接などの作業ですね。これを自動化することで生産性が高まります。このような生産性向上に向けた検討を各部署で行う「YK(八洲改善)プロジェクト」を、昨年から3カ年計画で全社的に取り組んでおり、すでにいくつか成果が出始めています。

──今後の目標を教えてください。

佐野 作業面積が不足しつつあることから、現状の約1.5倍の敷地面積を確保できる場所に今年中に本社工場を移転する予定です。当社は毎年30社ほど新規顧客を獲得しているので、リーマンショックのような事態がなければ5%成長の継続は可能だと考えています。さらなる快適空間を求める消費者ニーズを考えれば、温度センサーをはじめとした各種センサーの需要は今後も高まっていくでしょう。湿度や圧力センサー、さらにはそれらを一体化したまったく新しいセンサーの開発を目指すなど、「総合センサーメーカー」へと会社を成長させるのが目標ですね。

(本誌・植松啓介)

会社概要
名称 株式会社八洲測器
創業 1981年3月
所在地 埼玉県戸田市美女木2-25-2
売上高 約10億円
社員数 70名(パート含む)
URL http://www.yashimasokki.co.jp/
顧問税理士 松葉孝宏
松葉税理士事務所
目黒区自由が丘2-11-10
パルシィードビル3F
TEL:03-5729-7118
URL:http://www.matsubakaikei.com/

掲載:『戦略経営者』2015年1月号