最近、「マイルドヤンキー」なる言葉を耳にしたことはないだろうか。1980年代の怖いヤンキーとはちょっと違う、マイルドで優しい今どきのヤンキーは、地元が大好きで、一緒に遊ぶのは小中学時代の友人が圧倒的に多いなどの特徴をもつ。地域経済の復活を語るうえで、彼らの存在は無視できない。

プロフィール
はらだ・ようへい●1977年東京都生まれ。慶應義塾大学商学部卒業。博報堂入社後、ストラテジックプランニング局、博報堂生活総合研究所、研究開発局を経て、現在、博報堂ブランドデザイン若者研究所リーダーを務める。多摩大学非常勤講師。著書に『近頃の若者はなぜダメなのか』『さとり世代』『ヤンキー経済』などがある。
原田曜平氏 博報堂ブランド若者研究所 マーケティングアナリスト

原田曜平 氏

――「マイルドヤンキー」という言葉がだいぶ世間に浸透してきています。原田さんは、その名付け親ということですが……。

原田 最初にマイルドヤンキーという言葉を使ったのは、『ヤンキー経済』(幻冬舎)という本でした。80年代までいたヤンキーがもはや「絶滅危惧種」になっているという事実を伝えたいというのが、この本を書くきっかけでした。
 ここ10年で少年犯罪の数が減っているし、暴走族も少なくなっている。でも、おそらく時代が時代ならヤンキーになっていただろうなという若者たちは存在していて、そういう子たちに何か新しいネーミングを付けて本にしたいと当初は思っていたのですが、出版元の幻冬舎さんとしては本を売るためにどうしてもヤンキーという言葉を使いたいという。その妥協案として出てきたのが「マイルドヤンキー」という言葉で、おかげさまで今年の流行語大賞のベスト10を狙えるくらいまでに認知度が高まってきています。

――マイルドヤンキーとはどういう若者のことを指すのか、あらためて教えてください。

原田 私は『さとり世代』(角川書店)という別の本も書いていますが、基本的にいまの若者には「社会に反抗したい」「お金持ちになりたい」「東京に出たい」というような欲求がありません。かつての若者が普通に持っていた上昇志向や反抗心といったものがすべて削がれて、若いのに悟ったような言動をとる。だから「さとり世代」としたわけです。
 かつて団塊世代より下の世代が「しらけ世代」と呼ばれて、冷めた若者たちの存在がクローズアップされました。ただ、そのしらけ世代にしても、団塊世代が政治運動に熱心であったのに対して「しらけていた」という意味なんです。それに対して、今のさとり世代は、全体的にしらけている。恋愛もそうだし、もっとも象徴的なのが消費ですね。戦後の若者はずっと消費に関心を持っていたのに、さとり世代の若者はまるで悟ったお坊さんのように消費に関心が薄いのです。

――マイルドヤンキーも、その一連の動きのなかで生まれた?

原田 ええ。かつてのヤンキーとは明らかに異なるし、ヤンキーという言葉を付けてよいのかさえ疑わしいほどに、優しくマイルドになっています。しかし相当マイルド化されているものの、悪そうなイメージのファッションを好むなど、多少のヤンキー性は残している。たとえば男の子であれば、「EXILE」に憧れているといった具合にですね。
 EXILEのメンバー2人とは、朝の情報番組『ZIP!』(日本テレビ)でお会いしますが、「悪そう」というヤンキー性はファッションとして残してはいるものの、横浜銀蝿などと比べるとセンスは抜群に良くなっています。なおかつ礼儀正しかったり、団結心が強かったりして、中身は悪そうどころか、しっかりし過ぎているほど。マイルドヤンキーもEXILEに憧れるくらいなので、もちろん普通の子たちと比較するとやんちゃなことをした率が高いかもしれませんが、昔のヤンキーほどではない。どちらかというと、悪そうなものに憧れるというメンタリティーだけを残して、実際に悪いことをしているわけではないという子たち。それがマイルドヤンキーなのです。

――なるほど。

原田 あと、「地元志向」が強いところも特徴のひとつです。昔のヤンキーは「上昇志向」や「上京志向」をもっていました。矢沢永吉さんがその象徴といえ、「ビッグになりたい」といって、広島のバンド仲間を捨てて東京にやってきた。ところが今のマイルドヤンキーたちは、東京や大阪といった大都市に行きたいと思わないのです。できればずっと地元に残っていたいと考える。中学校時代の友人をいつまでも大切にしたり、親と仲がよいのも、そうした地元志向のあらわれです。

「半径5キロ」がテリトリー

――マイルドヤンキーは普段どんな生活を送っているのですか。

原田 地元のファミレス、ファストフード店、居酒屋に集まってダラダラと過ごすというのが定番ですね。基本的には、自宅から半径5キロ圏内で生活しています。
 私は東京都北区の出身ですが、同世代でヤンキーだった友人は池袋などの都心部にしょっちゅう遊びに出かけていました。ところが今のマイルドヤンキーに聞いてみると、赤羽からほとんど出ないという。「それは赤羽が便利になったからだろう」という人もいますが、ずいぶん前からマクドナルドはあるし、それほど変わってないですよ。赤羽が町としてレベルアップしたから都心に行かなくなったのではなく、やはり地元からあまり出たくないという意識が働いているのです。
 地方においても、イオンなどの大型ショッピングモールがあるくらいの人口規模の町ならば、若者たちは半径5キロ以内からあまり出ようとしません。イオンに行けば一日中時間がつぶせるし、それなりのものが買えるので「まあ、それでいいや」となるんです。

――半径5キロ圏内というのは、いわば中学校の学区内にちかいイメージですね。

原田 そうだと思います。実際、結びついている友だちも学区内。彼らにとっては、それが世界のすべてなんです。

――地元から離れたくないという意識はどこからくるのでしょうか。

原田 ひとつには、この20年間にわたる日本の経済停滞が背景としてあると思います。非正規雇用の割合が高くなっているし、なかなか将来の夢を持ちにくい状況になっている。景気がよかったときは、みんな「今日よりも明日がいい」と信じていました。だからヤンキーも上昇志向を持ちやすかった。ところが、この20年間で生まれ育った今の若者には、そうした幻想を抱くことさえできない。別に東京に行ったところでおいしい思いはできないだろうし、だったら「地元でまったりと居心地よく暮らしていた方がいい」と考えるのです。

――お金よりも「居心地」が優先されるわけですね。

原田 それともうひとつ、携帯電話やソーシャルメディアの普及によって、地元の友だちと密接な人間関係が築けるようになったことも理由として挙げられるでしょう。『ろくでなしBLUES』や『ビー・バップ・ハイスクール』といった、かつてのヤンキー漫画をみてもわかるように、むかしのヤンキーたちも地元の友だちとのつながりが強い。でも、それはあくまで同じ学校に通っているときの間だけです。別々の高校に進学したり、違う会社に就職したら、もう一緒に遊ばなくなる。というのは、こまめに連絡を取り合う手段がなかったからです。最初はたまに会っていても、しだいに共通の話題がなくなり、疎遠になっていくのが普通でした。
 ところが今のマイルドヤンキーたちは違います。だいたい中学3年くらいで親に携帯電話を買ってもらい、そこでソーシャルメディアを通じた人間関係が築かれる。すると、その人間関係がずっと継続されていきます。ライフステージが上がってもかつての居場所が一番となって、高校や大学ではよそ行きの顔で過ごし、週末に中学時代からの友人と遊ぶときだけ「素の自分」をさらけ出す。そんな生活スタイルになっているのです。

「ミニバン」が大好き

――とくに地方の場合、マイルドヤンキーを地元経済を支える担い手(消費者)としてみることもできませんか?

原田 若者が消費をしなくなったと言われて久しいですが、マイルドヤンキーはそのなかでも比較的消費意欲が旺盛な子たちなんです。彼らが地域経済を多少は活性化させる可能性はあります。もちろん、むかしのヤンキーに比べてそもそも持っているお金の額が違うため、過度な期待はしないほうがよいですが……。

――マイルドヤンキーがお金を出すのはどういうもの?

原田 ヤンキー性が残っている分だけ、そこの部分で財布のひもを緩めます。たとえばEXILEや「湘南乃風」などが好きなので、CDを買ったりコンサートに行ったりするのにお金を使います。あるいは、若者の「車離れ」が言われるなかで、例外的に自動車にも関心がある。ただ、むかしのヤンキーみたいにスポーツカーや高級外車が好きなわけではなく、大人数が快適に乗ることができるミニバンを好む傾向があります。改造するにしても、車高を低くしたりマフラーを代えたりすることには関心がなく、乗車する友人や家族が快適に過ごせるようにむしろ内装にお金を費やしていますね。
 ほかにも、タバコやパチンコにもお金を使うし、地元が大好きなのでそこにマイホームを建てたいと思っている。地域経済に一定の役割を果たしているのは確かでしょう。

――彼らを消費者として見ていく場合、企業はどんなマーケティング的な視点が大事となりますか?

原田 「ヤンキー性」と「保守性」の2つですね。
 マイルドヤンキーは「新保守層」と呼んでもよいほどに、〝地縁〟を大切にするという意味で、非常に保守的なんです。ヤンキー性と保守性の2つを臭わせた商品なら意外と可能性があります。
 たしかに大型ショッピングモールはたまり場として一日中過ごせる場所にはなっていますが、マイルドヤンキーたちが本当にそこで消費をしているかというと、実はそれほどでもない。なぜかというと、一億総中流マーケティング的な品ぞろえばかりで、ヤンキー性のある商品が売っていないからです。要は、EXILEみたいな洋服が置いていない。むしろヤンキー性の抜かれた毒のない洋服ばかりが売られています。もし地元の中小企業がマイルドヤンキーを狙っていくのなら、大型ショッピングモールでは決して売っていない、彼らの好みを反映した商品を用意することをお勧めします。

――マイルドヤンキーは「地元で働きたい」という意識が強いといいます。そうした気持ちを社会全体ですくい上げてあげることも、地方経済復活のためには大切だと言えませんか?

原田 むかしだったら、例えば名古屋圏の人が親から「トヨタ系列の会社に入っておけば安泰だから」といわれたとしても、「自分はイヤだから」といって東京に出てきていた。でも今は、真逆の状態にあります。できるだけ地元で働きたいと考えている若者は多い。でも、とくに地方における女性の働き場は少なくて、介護スタッフ、カラオケ店員、パチンコ店員、スーパーのレジ打ちといった仕事に限られてくる。地方の働き場を増やす意味からも、ユニクロさんがはじめる「地域限定社員」は方向性としては間違っていないと思います。とにかく、地方で働くのに魅力的な企業を少しでも増やしていかなければならない時期にきているのは確かでしょう。

――最後に中小企業経営者に向けてメッセージをお願いします。

原田 いまの若者の経済力が以前にくらべて脆弱になってきているとはいえ、それなりに自由に使えるお金は持っています。結婚したり、自立するだけの経済力がなかったりして、親元にパラサイトしている若者の場合、家賃はかからない。むかしのように月に20万円を稼ぐのは難しくなっているかもしれませんが、たとえば13万円を稼ぐことができれば、家賃がかからないため、自由に使えるお金はほぼ同じ。可処分所得は意外とあるんですよ。こうした理由から、少子高齢化で若者の人口ボリュームが小さくなっているからといって、若者の存在をまるで無視した販売戦略を敷くのはあまり得策とはいえません。その視点をぜひ忘れないでください。

(本誌・吉田茂司)

掲載:『戦略経営者』2014年11月号