横浜市に本社を置く丸送は、POSレジやサーバーなど精密機器の輸送を得意とする運輸会社。高いドライバーの力量が求められるこの分野で実績をあげている小菅憲太郎社長(50)が、業績管理に役立てているのがTKCの『FX2』だ。その活用法などを聞いた。

POSレジやサーバー等の精密機器の運搬に強み

丸送:小菅社長(中央)

丸送:小菅社長(中央)

──運送業を営まれているそうですが、主にどんな荷物を運んでいるのでしょうか。

小菅 いまは精密機器の輸送をメーンにしています。百貨店や量販店で使われているPOSレジやセルフチェックレジ(無人レジ)、あるいは大型コンピューターやサーバーなどです。

──デリケートな取り扱いが求められそうですね。

小菅 何かにぶつけたりするのはもちろん、大きな振動を与えることも許されません。なので、エアサスペンションのついたトラックを用いて、道路の段差などによる衝撃から守るようにしています。また、トラックの荷台から降ろして、設置場所まで運ぶ際にも注意が求められます。とにかく慎重な取り扱いが必要なんですよ。

──となると、運転技術もさることながら、細かい配慮ができるドライバーでないと務まりませんね。

小菅 精密機器を運べるということは、他の荷物は何でも運べるといっても過言ではないほどです。現在、そうしたドライバーが社内に10名ほどいます。

──なぜ、精密機器の運搬を得意とするようになったのですか?

小菅 もともと当社は、自動車のシートを運送する仕事からスタートしたのですが、やがてある外資系メーカーのレジやコンピューターを輸送する仕事を手がけるようになりました。今ではその会社の仕事が、売り上げの約3割を占めるまでになっています。

──精密機器以外にはどんな仕事を請け負っているのですか。

小菅 食品と引っ越し以外の「一般貨物」は基本的に何でも請け負っていて、急なスポットの仕事にも柔軟に対応しています。

──保管業務もやっているとか?

小菅 本社の敷地内にある倉庫(800坪)のほか、グループ会社の「丸送倉庫」にも二つの倉庫(大和倉庫、杉久保倉庫)があります。輸送と保管の両方を一括して請け負える体制を整えています。

──経営環境はいかがですか。

小菅 バブル崩壊以降、厳しい状態が続いています。輸送単価も確実に下がっていますね。

──そんな中で黒字経営を続けている要因は何ですか。

小菅 ひとつには、直接取引の荷主さんが多いことがあるでしょう。大手物流会社のアンダー(下請け)になると、収益面で非常に厳しくなるため、なるべく自分のところで直接取引することを心掛けてきました。ただでさえ単価が厳しいのに、下請けとなるとさらにマージンを抜かれてしまいますので……。
 また、付加価値の高い仕事を意識してとってきたこともあるかと思います。精密機器の運搬を増やしてきたのも、どこもかしこも簡単にできる仕事でないため、そのぶん単価がよいからです。

──創業は1956年とのことですが、会社が一気に成長した時期というのはありましたか?

小菅 一気に大きく成長したという時期は特にありませんね。本当に少しずつ成長してきました。それは、トラックの数は30台ほどを限度にして、それ以上は持たないというのを原則としてきたからでもあります。たとえば1日に60台を必要とする仕事を受けたとしても、足りない台数は同業者の協力を仰ぎ、空いているトラックを「傭車」として回してもらっています。日本ローカルネットワークシステム協同組合連合会やトラボックスといった物流ネットワーク組織に加盟することで、それを実現させています。

──なぜ台数を増やそうとしないのですか。

小菅 トラックの台数を増やすことは難しくありませんが、景気が悪くなったときにドライバーの数を減らすことはそう簡単ではない。たしかに景気がよいときは車両の数が多いほうが利益があがるのですが、「山高ければ谷深し」でそのぶんリスクを伴います。中小企業の場合、業績が悪い状態が2~3年も続いたら、会社がもちません。そうした点からも、身の丈以上に台数を増やすべきではないと考えています。

『継続MAS』を利用し予実管理を徹底

──業績管理には『FX2』を活用しているとのことですが、導入のいきさつは?

小菅 5年前に、顧問税理士の森脇先生の関与を受けるようになってからです。実は、森脇先生は高校のときの同級生。以前お世話になっていた税理士が高齢で廃業するというので新しい税理士を探していたとき、たまたま同窓会で何十年ぶりかに森脇先生と会って、それがきっかけで税務顧問になってもらいました。

──『FX2』へのデータ入力は、社長自身がしているそうですね。

小菅 請求業務などは事務スタッフにやってもらっていますが、最後の『FX2』への入力については私がやっています。
 『FX2』を導入して自計化する前は、手書きで処理していました。手書きに慣れていたため、システム導入当初は「なんだか面倒くさいな」という気持ちもありました。でも今ではもう手書きには戻れませんね。むかしは決算の"着地点"の予測ができなかったのですが、『FX2』を導入したおかげで、「その期の予算目標に対して今はこのくらいの位置にある」ということがだいぶ正確につかめるようになった。これは非常にありがたいですね。

森脇仁子・顧問税理士 小菅社長は、『継続MAS』で策定した予算(単年度計画)をかなり意識されています。すごいなと思うのは、期末の最終的な数字がほぼ目標どおりになること。私たちも驚いています。

──それだけ予算計画の精度が高いということですか?

小菅 わりといい加減に作っていますよ(笑)。でもここ何年かは、終わってみると誤差何千円かだったりして、自分でもびっくりします。前期の実績をもとに「今期はこうした売り上げが増えるだろう」とか「明らかにこの仕事は減るだろう」などの予測を入れながら計画を作るのですが、なにせうちはフリー(飛び込み)の仕事が多いため、なかなか予測が立てにくい。お客さま次第のところがあるんです。

──会社の収益力アップのために意識していることがあれば教えてください。

小菅 急なオーダーにも柔軟かつスピーディーに対応して、仕事を取り逃さないようにしていることでしょうか。そのためにも、3人のマネジャー(営業2人、配車関係1人)にある程度権限を委譲しています。社長がすべてを判断していくよりも、部下に権限を与えて現場の判断で動けるようにしたほうが顧客対応のスピードが格段に早いのです。

──なるほど。

小菅 それと、毎月の目標数値をクリアしていかないと会社が生き残れない、という危機感をみんなに持ってもらうことも大切だと思っています。ミーティングの際に、目標達成までの進ちょく状況を伝えているのはこのためでもあります。たとえば今月あと200万円足りないとしたら、残り10日で1日20万円ずつ増やしていかなければならない。そのためには具体的に何をすればよいかといったことを社員自身で考えられるような組織風土を作れれば、おのずと会社の収益力は高まっていくはずです。実際、そんなカルチャーが社内に出来上がりつつあります。

──予算と実績とが最終的に合うのは、そのことと無縁ではなさそうですね。

小菅 言われてみれば、そうかもしれません。

ドライバーの命を守る「安全運転教育」にも注力

──日々の業績管理をしていくうえで、とりわけ注意してみている点は何ですか。

小菅 キャッシュフローの管理です。キャッシュフローが滞ると、黒字倒産のおそれが出てきます。それが一番の心配の種なので、《資金繰り計画表》はしっかりと見るようにしています。

──資金調達先である金融機関との付き合いはどうですか。

小菅 たいへん友好的なお付き合いをさせてもらっています。

森脇税理士 それは、会社の業績がよいことに加えて、小菅社長の計数管理能力を高く評価しているからではないかと思います。

──健全な経営を続けるためには、ドライバーのみなさんが交通事故を起こさないようにすることも重要な課題です。そのあたりの取り組みについてはどうでしょうか。

小菅 外部講師を招いて、定期的に安全運転教育をおこなっているのがそうですね。また、ドライバーたちが自発的に集まり、事故事例を題材にして「なぜ事故になったのか」「どうすれば事故が避けられたのか」などを話し合っていることも、運転技術の底上げにつながっているといえます。

──今後の展開は?

小菅 単純輸送、単純保管からの脱却をこれまでずっと目指してきました。廃棄処分するコンピューター等の輸送にあたって、ハードディスクの破壊処理や、金属部品等をリサイクル業者に引き渡すサービスを提案できるようにしたのもその一環です。今後もそうした、何らかの付加価値をつけたサービスの拡充に努めていきたいと思っています。

(本誌・吉田茂司)

会社概要
名称 株式会社丸送
代表者 小菅憲太郎
設立 1956年3月
所在地 神奈川県横浜市泉区和泉町5941
TEL 045-802-3031
売上高 約10億円(グループ全体)
職員数 約64名
URL http://www.maruso-net.co.jp/
顧問税理士 森脇仁子
税理士法人アイ・タックス
東京都渋谷区神宮前4-16-15
D'クラディア青山ラグゼス203
TEL:03-5410-7533
URL:http://www.kaikeizin.ne.jp/

掲載:『戦略経営者』2014年10月号