消費税増税後の駆け込み需要反動減の影響を最小限に食い止めるため、政府は25年度補正予算、26年度当初予算でかなりの規模の中小企業対策を打ち出している。まずは、中小企業向け公募型助成金・補助金に詳しいラックの塚原信義社長に、補助金の最新動向と採択の確率を上げるポイントについて聞いた。

──中小企業にとって補助金とはどんな存在ですか。

塚原 返済不要な資金なので財務面で非常にプラスになるということがまず挙げられるでしょう。それから補助金申請が採択されたということで社会的な信用が向上するというのが2点目。これは金融機関からの信用が高まることにもつながります。

 またあまり知られていないのが、公的機関に自社をアピールする良いチャンスになるということ。ほとんどの行政担当者は現場に足を運ぶ時間もないほど書類のチェックに追われているので、民間企業の生の情報に触れる機会は多くありません。そのような状況で行政側と直接やりとりをして名前を覚えてもらえれば、「新しいこういう補助金制度ができましたのでチャレンジしてみては」とすすめられるような関係を構築することができます。

──補助金・助成金は大まかに二つに分けられるそうですね。

塚原 高齢者を採用したり、障害者を雇用したりするなどの条件を満たし、所定の手続きを踏めばお金が入る厚生労働省系の補助金と、それ以外の競争が発生する助成金・補助金のタイプに分かれます。経営者の中には前者のタイプの補助金だけを意識している方もいますが、私は後者の公募型助成金・補助金をいかに上手に活用できるかが、中小企業の経営にとって大きなポイントになってくると思います。

成長産業に力を入れよ

──「間接的」な経済効果も大きいとか。

塚原 たとえば25年度補正予算で「ものづくり・商業・サービス革新補助金」(新ものづくり補助金)という総額1400億円の大型助成金が組まれましたが、この補助金の助成率は3分の2です。ということは、政府が採択者に補助する1400億円に加え、採択企業が残りの3分の1を支出するということになります。つまり予算規模1400億円の1・5倍にあたる2100億円の市場が一挙に生まれるということにほかなりません。たとえば製造業であれば補助金の申請用紙に購入した品名や金額、支払先などの詳細を記入する必要があります。しかしその補助金の多くは最終的に、計画に必要な工作機械の支払いで使われるでしょう。そこに記載された購入先の工作機械メーカーが補助金を間接的に受給したのと同じことになるのです。

 また東京都には展示会への出展を支援する市場開拓助成金という制度がありますが、同制度を活用した企業が展示会用のパンフレットを作成するためにネット印刷会社へ発注したとします。するとそのネット印刷会社は補助金を申請した会社から前払いで金額の一部を受けとったのと同じことになるのです。このような派生的な効果を含めて考えると、補助金が中小企業に与える経済的な影響は非常に大きい。自社が申請しない場合でも、補助金の傾向やその最新情報について最低限アンテナを張っておくことは決して無駄にはならないはずです。

──最近の補助金の傾向について教えてください。

塚原 国の姿勢で一番はっきりしているのは、成長産業でのビジネスに力を入れる中小企業をバックアップしようということ。これは25年度補正予算で注目された「新ものづくり補助金」の募集要項に端的に表れています。ここには事業類型として①政府が昨年策定した『日本再興戦略』に定める成長分野型②一般型③小規模事業者型の三つに分けられていますが、補助金の最大限度額は①の成長分野型が最も大きくなっているのです。成長分野型は具体的に環境・エネルギー、健康・医療、航空・宇宙が明記されており、補助金獲得を検討している中小企業で、これらの育成産業にかかわりのある事業やプロジェクトを検討している場合は、ぜひ補助金を申請すべきでしょう。

 また社会解決型ビジネス=ソーシャルビジネスについての支援策も手厚くなってきています。これまでボランティアの領域に位置付けられてきた活動を何とかビジネスモデルとして確立させたいという政府の狙いをひしひしと感じますね。高齢者や子育て関連サービス、防災訓練などの分野への貢献を念頭に置くべきでしょう。このほか海外展開への積極的な姿勢や雇用拡大・賃金引上げに前向きな中小企業を後押しするメニューが充実してきているという印象を受けています。

──少し調べただけでもたくさんの補助金があります。どれを選べばよいのでしょう。

塚原 数年前に国、県、市区町村単位、銀行系、財団系それぞれの補助金を数えたことがありますが、1500を超えたくらいであきらめました(笑)。では3000以上あるとも言われる数多くの補助金からいったいどれを選択すればよいのでしょうか。

 それにはまず、地元の都道府県単位の公募型助成金をきっちり押さえることからはじめるとよいでしょう。試作品開発や展示会への出展、海外特許の取得などについての補助金制度は県単位レベルで用意されているので、そのスケジュールを把握し、特定の補助金にターゲットを定めて申請するのです。担当者は応募者からの連絡を心待ちにしている状況ですので、積極的に接触を図っていくとよいと思います。予算が限られている以上、応募機関側は、候補者リストを作成して見込みのある企業へアプローチをするといったような民間企業におけるマーケティング活動のようなことはなかなかできないからです。地方自治体の補助金も国の政策にある程度沿った形で展開されているので、地元の制度を活用していくうちに、次第に国が中小企業に何を期待しているかということも見えてきます。

ねらい目は大型補正予算

──地元の補助金に慣れてきたら今度は国の予算ということですね。

塚原 はい。次の目標となるのは補正予算で組まれた補助金です。ここ数年の動きをみても、2009年にリーマンショック対応、2011年に震災関連、2012年に自民党政権誕生、そして今回は消費税増税対応──と割合頻繁に大型補正予算が組まれています。補正予算は年度内に消化しなければならないという制約があるため、当初予算の補助金に比べ応募の倍率が低い傾向にあります。地元の補助金獲得に成功したら、次のステップとして補正予算の補助金を目指すのがよいでしょう。

 また当初予算で組まれる定型タイプの補助金のなかにも、ユニークな特徴を持つものがあり、お勧めです。たとえば、新技術開発財団が募集している新技術開発助成金(10月に2次募集)などは非常に面白いと思います。補助金は通常、自己負担をした後に証拠書類をそろえて募集期間に申請し、採択されれば所定の金額が入金されるという手続きをとりますが、この助成金は最大2000万円(助成率3分の2)が先に入金される仕組み。しかも採択された場合には贈呈式も開いてくれるというから驚きです。非常に人気が高く倍率は高いですが、挑戦してみる価値はあるでしょう。①特許を取得済み、出願中である②実用化を目的とした試作開発であること③実用化の見込みがあること──などが要件になりますが、中小企業にとっては魅力的といえるのではないでしょうか。

──25年度補正予算、26年度予算関連で注目すべき補助金は?

塚原 なんといっても、予算総額が1400億円と莫大な「ものづくり・商業・サービス助成金」(新ものづくり補助金)でしょう。1次公募の2次締め切りは5月14日ですが、2次公募が7月に行われます。それから経済産業省が募集する「創業促進補助金」の2次締め切りが6月末にありますね。すでに事業を営んでいる経営者には関係がないと思われがちですが、実は新規事業を別会社で開始する場合にも申請ができるという点がポイントです。また商工会と商工会議所の指導を受けて販路開拓に取り組み、その際に作成したチラシなどの費用に助成金が出る「小規模事業者持続化補助金」などもメリットがあるでしょう。

過去の採択事例で傾向を知る

──公募型助成金では倍率の高いものもあります。採択の確率を少しでも上げるためにはどんなことに気を付ければよいですか。

塚原 申請する際に社長が一番悩むのは、「果たして、このテーマで採択(合格)されるのか」ということ。テーマ設定の巧拙が合否に与える影響はかなり大きいとみられていますからね。そこで対策ですが、申請する前にネットで検索すると良いでしょう。助成金は税金が原資ですから採択事例を公表する義務があり、「助成金名 採択」などのキーワードで検索すればその助成金の過去の採択事例を調べることができます。さらに「助成金ねっと」のような専門サイトを利用するのもよいでしょう。合格するための対策として過去の採択テーマを研究することで、傾向を把握し対策を練ることが可能になります。

──申請書の書き方で注意点は?

塚原 まずは公募要領をしっかり読み込むということが大前提ですね。分からないことがあれば事務局に遠慮せずに尋ねましょう。内容をしっかり理解した後に早速申請書の作成にとりかかるわけですが、そこで注意したいのは、専門知識を必要とせずに誰もが理解できるよう客観的な視点で書くということ。難しい専門用語には注釈をつける細やかさが必要だし、目で見てすぐに理解してもらえるようにイラストや写真を入れる工夫もほしいですね。さらに自社の技術力や優位性をアピールする文章と、それによってもたらされる売り上げ数値目標との整合性がとれている、つまりきっちりとしたシナリオが描かれていればなおよいと思います。

 いうまでもありませんが、国が政策を遂行するときにその呼び水として使うのが補助金の制度であり、その原資は国民の税金です。申請する事業が国の政策に則っているかどうかということを意識することもポイントになるでしょう。「○月○日の衆議院本会議でこういう発言があった」「2020年の東京オリンピックに向けこういうことが期待されている」など国の施策について研究している姿勢を見せることも好印象につながるかもしれません。

──ひとりよがりにならないということがポイントですね。

塚原 補助金についてのセミナーを定期的に開催していますが、私は参加者に対し「助成金を支給する公的機関を『お客さま』と思ったほうがよい」とよく話しています。募集している側の条件と自分の会社の本音は絶対に一致しませんからね。しかし、補助金の獲得を真剣に望むなら、この本音を応募の条件にすり合わせていく作業がどうしても必要になります。よくよく考えてみればこれは顧客のニーズをつかむということと一緒ではないでしょうか。要するに、補助金の申請は商売のうちと思えばよいのです。

プロフィール
ラック 塚原信義社長
つかはら・のぶよし 1951年、東京都生まれ。74年、明治学院大学卒業。83年にラックを設立、専務取締役就任。96年、同社代表取締役就任、現在に至る。①資金調達・公的施策支援②経営戦略サポートコンサルティング③中国ビジネス支援④ヒューマンリソース支援の4事業を展開、とくに公募型助成金の申請支援に定評がある。「助成金ねっと」を運営。

(取材・執筆 本誌・植松啓介)

掲載:『戦略経営者』2014年5月号